■■■■■ 2012.3.24 ■■■■■

 新しいiPadを眺めての感想

量販店に立ち寄ったついでに、新しいiPadを触ってみた。買う気は無かったが、話題の製品なので。
しかし、眺めているうち、買って帰ろうかという気分になってしまった。
昔、ソニーのモノクロの超小型ポータブルTVを買ってもらった頃の感覚が蘇ってきたからである。お陰で、古い名画を沢山見ることができた。もしアレがなかったとすれば。感謝の一言以外無し。

ただ、よく考えれば、急いで買う必要もないので、そのまま帰ったのだが。

うーむ。
タブレットに、パソコン市場は相当侵食されるのでは。

長い文章や、長時間の入力が必要な場合はパソコン。だが、それ以外はタブレットで十分ではないか。と言うより、何処だろうがすぐに簡単に使えるから、ウエブ閲覧程度ならこちらがメインになりかねまい。
それに、なんといっても廉価だ。絶対額として、4万2800円がたいした金額でないとは言い難いが、低価格パソコンと同じレベル。にもかかわらず、ハイビジョンTVより精細画面で、フルハイビジョン撮影可能なビデオカメラ付き。説明を聞くと、写真整理も簡単にできるようだし。

ただ、小生が、新しいiPadに惹かれたのは、表示された文字が余りに美しいから。絵の方は、色彩キャリブレーションがどうなっているのかわからないので、なんとも言えないが、その場の感覚では、印刷本より美しいのではないかという気になった。(絵本、写真集、画集の類での話。) そうなると、一度使い始めたら、これより荒い画面でしかないパソコンなど見る気がしなくなるのでは。

そこまで評価したのに、何故買わなかったか。
単純な理由。
重いから躊躇したのである。

7インチのタブレットでこりた。画面の大きさと、持ち歩きのバランスは最高だが、正直のところこれで片手持ち長時間はつらい。腕や肩が痛くなりかねない。10インチだと両手保持だろうが、それでも結構な重さだ。膝に置くのならパソコンの方が楽だし。小生の場合、10インチ1Kgモバイルパソコンを長いこと使ってきた慣れもあるし。

もっとも、片手で持てない重い画集を見ることもある訳で、タブレットとしての使い方もありそう。習い性になれば、これはこれで楽しくなるのかも。
ただ、いくら画面が美しくても、ソファで手に持って読めない電子書籍リーダーは使う気になれぬ。パソコンで本を読む気になれないのと同じこと。

しかし、そのうち気が変わるかも。

ふと、頭に浮かんだのは「ネット・バカ」という本。「執筆の道具はわれわれの思考に参加している」というニーチェの言葉を引用したことで知られる本である。もちろん。この場合の道具はタイプライターだが。
こんな説明では、わかりにくいか。
要するに、パソコンやワープロによる執筆を拒否する文人がいるのもむべなるかなと感じさせる本。

日本語タイトルはどうかと思うが、検索やマイクロブログが当たり前の道具になってくると、頭の使い方が大きく変わる訳で、 浅知恵が通用する時代に入ったことの問題点を指摘しているのである。
マルチタスク型の情報処理を行うことになるから、短期的な作業記憶が中心になり、長期記憶をしなくなるというのである。つまり、深い思考ができなくなるということ。甚大な副作用があり注意せよ、という訳。

重いタブレットを使うようになれば、まあ、そうならざるを得まい。短時間で色々な情報をザッと眺め、有用そうなものを選別し、よくわからない部分は即時検索で解説を読み、なんとなく全体像が見えたと思ったら、すかさず自分の見方を短文で発信。他の人から簡単なコメントや一寸した意見をもらったら、それで自分の見解を豊富化すればよいのである。

ハイスピードで結論を導くことができるから、効率よく創造的な思考をしている気分に陥る。
しかし、浅い思考であるのは間違いない。

そんな習慣が身についてしまうと、長文が読めなくなってくるらしい。確かに、長たらしく複雑な話にはイライラさせられよう。
それはそれで致し方なきことという気もする。新しい文化が生まれることになるのだから。例えば、ソーシャル・ネットワーキングと結合したチームスポーツ型読書といったものが流行っていくことになるのかも知れぬ。そこから、 新たな喜びが生まれ、今までなかったような娯楽分野が開ける訳である。多分、小生はご遠慮させて頂くことになるが。

ともかく、すでに、深い思索は敬遠されつつあり、タブレットの浸透で思索文化はマイナーな地位に転落するのは間違いなさそう。
もっとも、もともとは、そんなことができたのは、サロンに集う極く少数のエリートだけだった。大衆社会化のお陰で、じっくり本を読む人口が急膨張しただけ。 タブレットの登場で、そのバブルが一気に弾けるということ。

(上記の本)  ニコラス・カー(篠儀直子訳):「ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること」 青土社 2010年 (原題:"The Shallows - What the Internet Is Doing to Our Brains")


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