■■■■■ 2012.4.9 ■■■■■

 米国はイスラム圏をどうするつもりなのだろうか

日本のメディアではアジア・アフリカ諸国のニュースは限定的。しかし、ベタ記事的に報道されるものが、潮流を示唆していたりするので、それなりに状況がわかることも少なくない。・・・などと考えさせられたのが、マリとニジェールの動き。(海外安全情報を参考にすると状況が推定できたり。)
本格的な大騒乱開始ということのようだ。予想より早い。

リビア南側(チャド、ニジェール)とその隣接地帯(マリ、ナイジェリア、中央アフリカ)はいつ火がついてもおかしくなさそう。と言うか、すでに火がついているところに油が注ぎ込まれたという状況のようだ。なにせ、リビア傭兵が帰還したし、それに伴い武器も大量に流れ込んだからである。しかも、ここら辺りに限らず、アフリカのイスラム圏では、原理主義者の組織的活動が盛んだから厄介そのもの。もともと、どこの国も部族対立が激しく、原理主義者の動きを利用した抗争が盛んだからだ。独裁者による強権政治なくしてはなかなか治めるのが難しい地域と見て間違いなかろう。
従って、軍事独裁政権を倒すことで「世俗国家」を実現し、普通選挙実施というシナリオは夢物語に過ぎない。普通選挙で実権を握るのは、世俗国家を否定する宗教勢力となるのが普通だからだ。さもなければ、互いに対立するだけの部族集合体化し、国の体裁さえた持てなくなるだけ。これは許せぬとなれば、世俗的組織の軍部によるクーデターで、再び独裁国家に戻るしかない。そんなことはアルジェリアで遠の昔に経験済み。

すでに、地中海側(エジプト、リビア、チュニジア、アルジェリア)では、明らかな宗教国家化が始まっており、原理主義者の動きも活発化している。欧米によって、リビアにバラ撒かれた大量の武器があちらこちらで火を噴くことになろう。欧米が、資源を押さえるリビアの独裁者打倒という危険な道を選んだ結果だ。
もともと、紅海近辺(スーダン、南スーダン、エリトリア、エチオピア、ジブチ、ソマリア)は大混乱状態。この辺りは、当面は多少下火になるだろうが、本質的に収まるようなものではない。アフリカ大陸北部は不安定化一途ということ。

それにしても、どうして、米国はこのような政策を採用するのか、理解に苦しむ。現実を踏まえない、人道主義、民主化は、東西冷戦後のイデオロギー的妄想としか思えないが。現実のパワーバランスと各地域の事情を踏まえた実践的な動きができない体質というにしては余りにひどい。
テロ組織容認国家の体制転換を旗印にした積極外交とそれに付随した膨大な兵員を投入した戦争も惨憺たる結末しか生んでいない。アフガニスタンは敗退以外のなにものでもなかろう。独裁国家だったイラクに至っては、世俗的風土は消え去り、治安はどうにもならない状況。原油管理と傭兵駐留による、大国化阻止ができたことのみが成果である。何の意味もなき戦争に終わったと見てよかろう。
当然ながら、ここから、実情を踏まえて動くべしという教訓が得られる筈だが、まっとうな発想は生まれないようだ。
チュニジア、リビア、エジプトでの独裁政権打倒支援政策など典型である。長期的には、これらの国々での騒動の深刻化を図っているようなもの。対リビア政策は、この先の大戦乱につながる導火線に点火したようなものに近い。
見える形での直接侵攻を避け、間接的な無人偵察機や爆撃を行ない、表に出ない特殊工作部隊派遣方式は安上がりの戦争だろうが、さらなる大戦乱をまきおこすだけだろう。

シリア問題への対処を見ていても、現実無視の単純イデオロギー路線に映る。この地はイラクと同じくエスニシティ分裂国家。権力が揺らげば、自動的にイラクも動き出す。それは、周辺国での宗派抗争勃発の引き金となりかねない動き。
まあ、イスラム圏内部で互いに抗争し合い自滅してくれということなのだろうが、それは世界を不安的化させること必定。西欧や中露のイスラム教徒が黙っている訳がないからである。そして、世界の秩序を壊すことを自己目的化しかねない、宗教原理主義勢力の勢いが増す一方となる。たまったものではない。

(記事)
「マリ北部で反政府武装勢力が独立宣言、仏国防相は「承認せず」」 ロイター 2012年 04月 6日 18:08 JST
「爆弾テロで約20人死亡=復活祭ミサの最中−ナイジェリア」 【ロンドン時事】2012/04/08-19:57
(外務省海外安全情報 2012年04月09日現在有効)
「チャド:中央アフリカ国境周辺の治安情勢に関する注意喚起」 2012年01月25日
「ニジェールに対する渡航情報(危険情報)の発出」 2012年02月24日
「マリに対する渡航情報(危険情報)の発出」 2012年04月05日
「マリ:首都周辺における一部国軍兵士による騒乱に関する注意喚起(その2)」 2012年03月30日
「ナイジェリア:イースター(復活祭)期間中におけるテロ脅威に関する注意喚起」 2012年04月06日
「エジプト:シナイ半島における外国人観光客誘拐事件の発生に伴う注意喚起」 2012年03月23日
「リビア:セブハにおける部族間の衝突に関する注意喚起」 2012年04月03日
「チュニジア:新政権発足後の治安状況に関する注意喚起」 2012年03月30日
「アルジェリア:南部タマンラセット県の憲兵隊基地に対する自爆テロ発生に伴う注意喚起」 2012年03月06日


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