■■■■■ 2012.5.12 ■■■■■

 サルの行動観察話が気になって

「貴重な餌を大量に運びたいとき、2本の足で立って歩きがちになることを、・・・見つけた。」との、実につまらなぬ科学記事を取り上げてみたが、ふと、幸島での猿観察最新本が出版されたばかりだったことに気付いた。サルへの関心を引きたいということかな。
折角だから、当該本を読んで見た。
大病後の三戸さん(現在98歳)のお話をまとめたそうだが、内容的には今まで出版された本のダイジェストバージョンに近いらしい。

と言うことで、二足歩行の写真を眺めることができた。・・・
 ・「スタスタと二本足で砂浜を歩く---」
  背筋がしっかり伸びており、素晴らしい姿勢。
 ・「盗みがうまい---」
  浅い海水に漬かっての、砂浜での歩行。手に箱を持ちながら。
  (人々が囲むテーブルから、一瞬の隙を逃さず、皿ごと持って二本足で逃げた有能な猿)
 ・「ちょうだいのポースをするサルに餌をあげる三戸サツヱさん」
  中腰で手を胸の前に。餌を手で有難く頂戴する訳だ。


残念ながら、二足での駆け足シーンの写真はなかった。思うに、当たり前すぎる情景ということでは。
ボスに目をつけられて襲撃される前に、撒かれたイモを大急ぎで拾って逃げる必要がある訳だが、直立二足走行したくなるのは当然のこと。イモ一個を口に銜え、両前足でさらに一個づつ持てば、移動手段は両足しか残っていないのだから。
ただ、それがサルが考え出したのか否かはなんとも言い難い。動物園同様に、幸島のサルは野生とも言い難いところがあり、餌をくれるヒトの物腰を真似た歩行の可能性もありうるからだ。

もちろん、サル知恵と見ることもできる。
なにせ、幸島のサルは、サツマイモ海水洗いをすることで有名なのだから。しかも、その応用編として、大豆洗いでは二足歩行での作業が含まれる。「砂まじりの大豆を両方の手に握り、二本足で立って水の流れのところに持っていって、流れの前に座り込む」というのだ。それなりの学習の結果といえそう。

さて、このようなサルの二足歩行をヒトの二足歩行の原初形態と見なすべきだろうか。
小生は、いささか疑問。

ヒトとサルの二足歩行の大きな違いは、徹底した訓練の有無と歩行持続時間では。ご存知のように狼少年は二足歩行しないし、赤ん坊もハイハイしかできない。親が長期間かけて、歩けるように訓練するからこその二足歩行能力取得。小鳥に巣立ちを促す親鳥の役割のレベルではなかろう。そして、歩み始めたらそれで完了とはいかない。大人と一緒に歩けるように徹底した練習が行われる。
このことは、長時間の二足歩行能力を身につけることこそが、人類生存上の必須条件だったことを意味していそう。
従って、そんな時代を彷彿させるシーンが思い浮かばない仮説は今一歩。食料運搬はその観点でどうかね。

それと、もう一つのヒトの特徴を忘れる訳にはいくまい。体毛欠落だ。ヒトは二足歩行ができるようになったお陰で裸で生きていくことになったに違いない。ここに繋がるような仮説でないと、たいした意義はなかろう。食料運搬説は、サバンナ進出説、樹上歩行説同様に、そんな変化を示唆しているとは思えない。
さらなるイマジネーションが必要なのでは。
もっとも、なんの証拠もなしに、勝手な推定だけで論文は書けないから致し方ないといえば、その通りだが。

(当サイト記載) チンパンジー研究者の体質(2012.4.20)
(当該書籍) 三戸サツヱ/小田豊二 (構成) :「サルたちの遺言 宮崎幸島・サルと私の六十五年」祥伝社 (2012/4/13)


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