「階級」という言葉には、未だにマルクス主義の用語イメージがありそう。その原因は、人々がそのコンセプトを捨てられないからではなく、その感覚で研究し続けている学者が大勢いるからだと思う。
小生は、風刺本が浮かんでしまうクチ。ナンタケット島でお祝いの花火ケーキに興じるアッパーミドル像など、思わず日本人の生活スタイルを髣髴させ、実に面白い本だが、日本でそんな話をするとえらく嫌われる。
それはそれとして、たまたま見かけた本に日本の階級人口分布図が掲載されていた。今回は、その話をしてみたい。
コレ、一般人が一目でわかるように書かれた社会学ムック本。著者は米国の学者。国家間格差を、文化的生活水準や経済力といった視点で図示したもの。ざっと見た感じでは、さして目新しい印象は受けなかったが、生憎と素人なので、その辺りはなんとも。ただ、エスニシティ、ジェンダー、経済力、といった観点で、格差問題を洗い出そうと試みた真面目な著作であるのは間違いなさそう。
ただ、一点だけえらく気になった。階級別に見た日本と米国の人口比率比較。どのように算出したのか見ていないし、両国の違いがあろうが、それでどうこうという話でもないのだが、唸らされたのである。
という事で、そこだけ触れておきたい。
なんと、「資本家」と、「小規模な雇用者」は日米で全く同じ比率。それぞれ2%と6%。
「技能なしの管理監督者」は日本が9%で米国が10%。「技能なしで権利も無い」層は当然ながら、米国では数が多く、41%も占める。日本はかなり少ないのかと思いきや、36%である。
古典的表現では経済的最下層の賃労働者にあたりそうな、上記を合計した「技能なし被雇用者」は日本が45%で米国が51%ということ。
両国には、思ったほど大きな違いはなさそう。
もっとも、6%の差があると見る人もあるかも。そうなると、日本では「技能あり」層がこの差を埋めていると勘違いしがち。ところが、逆なのだ。日本は15%で米国は23%。
それでは、「専門家」かとなるが、慣例主義でルールが曖昧な国でこの層が重視されることはないから、まさか。
そう、その通り。日本は9%で米国は15%。えらい違いである。
おや、なんだかおかしいな、となるのでは。
上記の被雇用者を合計すると、日本は69%で米国は86%なのだ。どうなっているの、と感じるのではなかろうか。
どこが違うかといえば、それは「プチブルジョア階級」の厚みなのである。言うまでもないが、資本家と同じ所有者に属す階層。
日本は23%もある。これに対して、米国は13%でしかない。
日本には、企業家や資産家とは言い難いが、名目上は非雇用者であり、エスタブリッシュメントと認定されている小カネ持ちが結構多いということ。この層が、日本の中産階級イメージを作り出してきた可能性もありそう。
それを踏まえて、所有者と被雇用者の二分比率で見ると、日本の状況は米国以外の国とも大きく違うことがわかる。
日本の所有者:31%
米国の所有者:15%
ノルウェーの所有者:14%
インドの地主:16%(残りは非所有者たる農民)
政治的変革は、所有者の既得権益構造破壊が伴うから難しいとされる。しかし、それでも、所有者の割合はせいぜい15%だから、内部分裂が発生して、被雇用層の力を借りれば社会構造の変革はできないことはないだろう。しかし、その割合が3割となれば、このモデルは通用しそうにない。
日本社会の変革には、独自のモデルを考案する必要がありそうだ。
(取り上げた書籍) 「格差の世界地図」(岸上伸啓 訳)丸善出版 (2012/5/31) [原書: "The Atlas of Global Inequalities" by Ben Crow, Suresh K. Lodha, University of California Press, 2011/02/01]
(エスニシティと階級の観点が示されていそうな本) "Ethnicity and Economy: 'Race and Class' Revisited" Edited by Steve Fenton and Harriet Bradley, Palgrave Macmillan, September 2002
(昔読んで面白かった本)
ポール ファッセル(Paul Fussell)[板坂 元 訳]:階級(クラス)―「平等社会」アメリカのタブー 光文社 (1987/06) [Class: A Guide Through the American Status System]
エリック シーガル(Erich Segal)[田辺亜木 訳]:クラス 扶桑社 (1994/07) [The Class]