■■■■■ 2012.7.2 ■■■■■

  最近のスパコンコンセプトは素人にはよくわからぬ

スパコン「TOP500」で日本の「京」がトップに躍り出たのは約1年前。日本の実力を見せ付けたとの提灯記事が氾濫したから、覚えている方も多かろう。
ところが、2012年6月18日、米国が1位に返り咲いた。こうなると、掌を返したような記事が舞う。米国側開発の遅れに乗じた隙間を縫って1位になっただけで、そんなことは初めからわかっていたと語る人まで登場。桁数京の実現との課題を見事にクリアしたのだから、そんな話はプロジェクトとは無関係と思うが、一体、何を批判しているのかさっぱりわからぬ。ともかく、「京」プロジェクトは大いに不快らしい。なんだかね。
それでも、ようやく、こうしたつまらぬ談義が一段落したようなので、スパコン話をしてみたくなった。

「セコイア」とはローレンス・リバモア研のBlue Gene置換機。同じCPU系列だから、次世代機と呼ぶことはできるが、素人から見れば、従来のBlue Geneの系譜を引き継いでいるようには思えない。設計思想は相当違いそう。だからこその高性能実現ではなかろうか。
「京」とは、かつてのサンが作ったCPUのSPARCを改造し、膨大な数のCPUを稼動させたもの。カネをつぎ込んで巨大化させたマシン。両者の発想はえらく違いそう。
どれだけ性能が違うか見ておこうか。
 --- ローレンス・リバモア研のIBM「セコイア」の実績(理研の富士通「京」との比較) ---
  ・計算速度: 1.5倍強
  ・CPUの数: 約2割増加
  ・ラックの数: 9割弱減少


要するに、簡素化した構造にすることで高密度化を実現した訳。電力消費量の比較は難しいが、京は12.66MWに対して7.89MWとずいぶん少ない。ラックの数からして違うから、同処理量での実消費電力は半減どころか1/3近いかも。
自分達の歴史でもあるCPUの特徴をフルに生かしたと見るべきだろう。

どれだけメンテナンスが楽か、素子や回路の不良部分を切り離して運行可能な冗長性がどの程度あるのかわからないから、優れた設計思想と呼べるものかわからないが、数字的には圧倒的な力量を示している。
細かな話が伝わってこないところを見ると、なんとしてもダントツ1位獲得ということで進めたプロジェクトということなのだろう。力まかせのトップ狙い系である、「京」や「天河一号1A」とは質が違うぜ、と世界に知らしめたかったのかも。
まあ、機器の構成という観点では、費やされたカネは「京」と比べたら、かなり小さそうで、その点では確かに優れていると言えそう。

ただ、そうだからといって、賞賛すべきかは別問題。ベクトル型と同じように、プログラムを走らせるのに大いに苦労するタイプだったりしかねないからだ。それでも、ベクトル型なら、最適応用分野が存在するから、存在意義がある。だが、「セコイヤ」が核実験シュミレーション専用機でしかないのなら。そんなマシンだとしたら、コンピュータ技術の進展に寄与するか、はなはだ疑問。

そんなことが気になったのは、3位と4位に堅実な進歩が見られるからである。前者は定評あるBlueGene系、後者はインテルのサーバー用CPU(Xeon)のマシン。安価な汎用チップ系が、地道にパフォーマンスをあげている訳だ。巨大マシンで一発勝負して、それで打ち止めとの技術展開とは全く異なる流れ。

そうそう、「京」の効果について、もう一つ書いておく必要があった。
日本のサーバー市場の縮小を、一時ではあれ止めることができたのである。絶大なるカンフル剤効果と言えよう。ただ、「京」を除外すれば、2011年のRISC系サーバー市場はマイナス成長だったらしい。そして、「京」の登場で、今後この流れが変わることもなさそう。

(IDC Japan株式会社のリリース)
2012年第1四半期 国内サーバー市場動向を発表 2012/06/19
国内サーバー市場予測を発表 2012/05/29


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