2012年4月、北朝鮮は長距離弾道ミサイル発射を強行した。その際の米軍の迎撃態勢と日米の情報共有状況を、産経新聞が報じた。これに対する特段の反応も無いようだから、記事内容は当たっているのだろう。
ともあれ、実にタイムリーなスクープ。
なんとなれば、尖閣諸島についての、米国務省の姿勢がはっきりしないからである。
クリントン長官が2010年10月「尖閣諸島には(日本への防衛義務を定めた)日米安保条約5条が適用される」と明言したが、その後確認発言なし。それどころか、報道部長が「米国は尖閣諸島の最終的な主権について(特定の)立場を取らない」し、「平和的に解決するよう期待する」との見解を表明。事実上撤回かと思いきや、「日本の行政管理下にあり、日米安全保障条約第5条が適用される」と述べたという。もともと、片務条約であるから、米国が日本防衛を本気で担うことを期待する方が間違っていると言えないこともないが、このようなフラついた姿勢を恣意的に見せるのは危険なお遊びに近い。まかり間違えば東アジアの安定を一気に崩しかねないからだ。実にこまったもの。
ただ、米国世論は東アジア安定のために日米同盟は重要と考えているから、国務省の大転換はないとは思うが。なにせ、一般人で89%,有識者で93%が、日米安保条約を「維持すべき」と回答しており、日米安保体制への評価は高いのである。最も重要なパートナーとしても一般人で50%と最多。「中国」の39%を上回る。ただ、有識者では、「中国」が54%で、「日本」は40%。国務省にしても、基本はこんなところだろうから、発言にもそれが現れる訳だ。
まあ、それはそれとして、北朝鮮ミサイル発射の事前協議報道に戻ると、そのハイライトは米国の迎撃ミサイル(SM3)使用は、米国の防衛目的に限定、との通告。
もともと、米海軍イージス鑑の基本任務は、空母機動部隊の護衛。たまたま、米国土のミサイル防衛が必要になったからの出動でしかないから、そうなるということかも知れぬが、日米安保に基づく出動という位置付けではないとの印象を与える話である。しかも、中国の懐である黄海にイージス艦を派遣したのは米国の軍事的意思決定に基づくものではなく、日本からの要請に応えただけというのだから驚く。
尚、配備は以下の如し。
●太平洋における米海軍配備:イージス艦7隻
黄海:1隻・・・日本側要請による前方展開(早期発見)
「カーチス・ウィルバー」(母港:横須賀)
鹿児島県沖:1隻・・・グアム対応
日本海:2隻、太平洋:1隻・・・米本土対応
フィリピン沖:2隻・・・ミサイル予想ルート対応
●海上自衛隊の配備:3隻・・・領土・領海での迎撃
沖縄周辺:2隻
日本海:1隻
尚、他に3隻保有しており合計では6隻
・こんごう型(排水量9,500トン):4艦隊各1隻
・あたご型(排水量10,000トン):2隻
海上自衛隊は北朝鮮のミサイル発射探知不能な海域へ配備したため、当日の政府発表の杜撰さが問題となったが、米軍から、上記「カーチス・ウィルバー」と米軍早期警戒衛星(SEW)の情報を入手したとのこと。但し、内容は限定的。
(1)発射場所、(2)発射方向・・・この情報のみ自衛隊に伝達
(3)発射時刻、(4)発射弾数、(5)落下予想地域・時刻・・・非伝達
発射時刻もわからなくて、海上自衛隊が迎撃体制をとれるのだろうか。そんな情報が必要なら、自らイージス艦を黄海に出すか、自前で早期警戒衛星を持てと言うことか。コミットメント無き、安上がり軍事同盟は今後御免被るとの意志表示でなければよいが。
(産経新聞記事)
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