小生は、難しい漢字や、四字熟語に格別な興味を覚えたことは無い。と言って無関心まではいかない。関心の範囲としては、魚偏や木偏の漢字どまりだろうか。どのような感覚での創字か、色々想像できるので面白いからである。そんな遊び無しに、ただただ文字を覚えることには、全く喜びを感じない。くだらん暗記の受験勉強をさせられた後遺症かも。
にもかかわらず、ヒット狙い臭い四字熟語の本に手が伸びてしまった。
タイトルを見て、四文字が好まれる歴史的経緯を解説した書と勘違いしたからである。もっとも、そんな風に解釈する人は滅多にいまい。四字熟語本ならとりあえずどんな本か気にかける人だらけなのだから。なにせ、中国文学者が、"ネコもシャクシも、岩波サンも三省堂サンもみんなまねをして、いまや「四字熟語ナニナニ」の洪水"と揶揄した程。
つまらぬ誤解をしてしまった訳だが、目次を見てすぐに気付いたから、どうということもなし。ところが、そこで仰天。
目次項目に「親魏倭王」があったから。「東京大学」とか「財務大臣」と同類の単なる固有名詞ではないか。一体全体、コリャなんだとなった訳。
お陰で、数年前拝見した、金賞受賞の、小学生のお習字を思い出してしまった。そのお題だが、なんと「青色申告」。
言うまでもないが、周囲の作品は、いかにも書道教育用に使いそうな文言ばかり。そんなこともあり、この作品はひときわ輝いて見えた。多分、税務署後援の催し物なのだろうが、違和感はぬぐえなかった。警察後援の「交通安全」とは違い、税金関係のお題は生々しすぎるのである。それでも「総合課税」とか「必要経費」でなかったから多少気が休まるが。ともあれ、明るい気分での鑑賞は無理難題。
この調子で行けば、中学生のお題は、さしづめ「高校入試」か。そして、めでたく高校入学できれば、競争は一段落するから、「焼肉定食」が妥当なところか。
本場用語に直せば「烤肉套飯」かな。そんな言い方しないゼ、そりゃ日本用語だネと笑われるかも。
なんとも不思議なことに、漢字四文字だと、簡単に熟語が創作できそう。視覚的なリズム感があるのかも。
そうそう、「警備艦艇」や「特殊車両」に至っては、脱帽創作モノと言えそう。軍隊と戦争を放棄した国だから、軍艦や戦車とは呼べないので、考案したのだと思われるが、結構通じる言葉になっている。
考えてみれば、そんな熟語より、詳細不明や支持低迷といった当たり前に思える言葉の方が難しいのが現実なのかも。ヨウサイとかテイマイという珍しい読み方に感服させられたのは確か数年前のこと。漢字の読み方ルールに従えば、それもありえることに気付かせてくれた功績は大。
教会礼拝はレイハイだが、仏像礼拝はライハイと読まないと非常識人と見なされかねないのだから、コリャ確かにたまらん言語である。
こうした読み方もさることながら、意味についても結構恣意的に捻じ曲げたりすることがあるようで、知っていても知らん顔しなければならないという、厄介な社会である。
「四字熟語の中国史」本の目次を一通り眺めたので、折角だから、読むことにしたら、そんな例にぶち当たったのである。「風林火山」の「徐」を、禅僧が独自な意訳で無理に「静」と読ませたことが丁寧に記載されているのだ。いかにもありそうな話。
其疾如風
其徐如林・・・徐行(緩い整列行進)
侵掠風火
不動如山
静かなること林の如しはまさに和臭紛々。
そんなこと知ってどうするのと言われれば、口耳之学としか答えようが無いのが辛い。
(本) 冨谷至:「四字熟語の中国史」岩波新書 2012/2/22