■■■■■ 2012.8.25 ■■■■■

  何故、犬ブナという名前をつけたのか

イヌ○○という名称の植物は少なくない。

図鑑では、イヌとは役立たずという意味でつけられていると説明されているが、なんとなく違和感を覚える。それが通用するのは南洋で、日本ではなさそうだから。なにせ、和犬はどう見ても忠実命の動物。色々気を遣って、ご主人に役に立つように頑張る所存との態度を示すのが普通だし。
もっとも、野良犬は別。
そういう点では、せっかく苦労した作った野原や耕作地に侵入する、いかにも邪魔モノの草に命名するのはよくわかる。取っても取っても、しぶとく生き残り、五月蝿くつきまとってくる。まさに手に負えぬ野草。

だが、樹木なら、排除したければ早いうちに芽を摘めばよいだけの話。その気になれば難しいことではない。イヌという接頭語をつけるほどのものではなかろう。

こんなことが気になったのは、イヌブナという樹木の話を書いたから。
この木、普通に考えれば、犬ブナではなく、黒ブナと呼びそうなもの。素人が見ても色調の差は歴然としているからだ。黒松、白樺、のように名付けるのが自然ではないか。
もっとも白桜という名称は嫌われたらしく、結局のところイヌザクラとして定着。劣等品種的差別感が含まれていそうな名称である。イヌブナも、これと同じ命名方法と言えないこともないが、ブナが桜のような信仰とかかわる樹木とはいい難かろう。

役立たずを表現したいなら、イヌでなくヘボにすればよさそうな気もする。イヌビワと言うより、ヘボビワと言えばこりゃ不味い枇杷の実が生るのだという感じがでそうだし。ただ、ヘボキュウリの感覚からすれば、同じ胡瓜でも環境や育て方が悪いと不出来なモノが生まれるという際の言葉かも知れぬ。違う種類の樹木の場合は、ヘボでは駄目か。
そういう観点では、イヌビワという名付け方はわからないでもない。コレ、素人の見た目では枇杷だが、イチジクだそうだ。オー、若い枇杷の実があると糠喜びして食べると幻滅。「騙したな、こん畜生」という悪態言葉が出るかも。そうなると、畜生の代表として、犬を当てるしかなかろう。

もちろん、この現象を、「役に立たない」草木につける接頭語と見ることもできる。しかし、それは本質から少々外れているように思う。間違った樹木を使ってしまい、大いに期待外れでご立腹という場合、イヌを付けるという感じが失われてしまうからである。
イヌコリヤナギは柳行季の材としては不適と聞くし、イヌツゲは材の硬度不足とか。そうそう、イヌガヤは切ると臭いらしい。
イヌガシもカシに似ているがクスノキ系。つまり、ドングリが落ちない訳で、折角大切にしていた木なのにこの大馬鹿野郎!となったに違いない。それなら、別名の「松浦肉桂」にすればよさそうな気もするが、香りがする訳でもないからそんな屁理屈的命名は無視されて当然かも。

そこでイヌブナだが、ナラの系統では、コナラとかミズナラはあっても、イヌナラという名称は聞いたことがない。にもかかわらず、ブナに限って、何故にわざわざイヌブナとしたくなったのだろうか。
どうも、上記のような感覚ではなさそうである。ブナと間違って使うことはないからだ。

冷涼な気候の時は勢力を誇っていたブナ林だが、より低地に育つイヌブナが混在するようになってしまったのが面白くなかったということかも。ブナはいかにも森という風情の地域を形成するが、ここに三々五々と入ってくるのがイヌブナ。
自力で群生して森を作ることは無いくせに、野犬みたいな木だと見たのかも。ブナの方が嬉しいが森を守り切れないことがわかり、次善の策としてイヌブナ林を育てるしかないと決めたのだが、それが面白くなかったのではないか。ヒトが手を入れないと林になりそうもないから面倒を見てやらねばならないし。まさに飼い犬的。
ブナは山の霊の象徴たる狼(大神)的だが、イヌブナはヒトに依拠して生きる道を選んだ犬的な樹木ということ。

(当サイト過去記載) 高尾山の「ブナ」について(2012.8.23)


(C) 2012 RandDManagement.com    HOME  INDEX