北方四島、竹島、尖閣諸島と領土問題でのゴタゴタが続いている。
米国の意に沿う形での、暗黙の秘密協定的外交によって、平穏を保ってきた状況がついにガラゴロと崩れ始めたということ。
そもそも、米ソ冷戦終結と米中相互依存体制の深化で状況は変わったにもかかわらず、面倒ということで、日本政府がなにも手を打たずに済ませて来たツケ。と言うか、米国の力が万全なら、そうした先送り策もそう悪くない選択と考えて来たのである。だが、いつか解決を迫られることになるのは分かっていた話。
それが、欧米経済基盤の綻び、米国財政緊縮化、日本の巨額な経常黒字の終焉と続き、パワーバランスが揺らいでしまったから、この問題の先送りが難しくなってしまった訳である。
当然ながら、野田政権がどう対応すべきかで、議論沸騰。
しかし、この政権を信用しようがしまいが、すべてまかす以外に手はない。右往左往していれば、海外から国内勢力を操る仕組みが今以上に進化しかねないからだ。もっとも、まかせた結果、悪い方に転ぶ可能性はかなり高そうだが、選挙で選んでしまった以上それは致し方ない。
従って、それを踏まえた上で議論した方がよかろう。
と言うか、ヘンテコな理屈を捏ね回す主張は避けて欲しいということ。例えば、野田政権は自民党体質を引き継いでいるにすぎないという指摘があるかと思えば、自民党政権ならこんなことにならなかったという主張もされている。こんな論争は水掛け論で実に不毛。
そんな話をする位なら、現政権の特徴である、決断がえらく「のろい」点の背景を探ることの方が有益だと思うが。
何を言いたいか、ご想像が付くかと思うが、政府の決断が遅い理由を、周囲を慮ってとか、慎重な姿勢を取っていると見るべきでないということ。
一般に、このような問題は時間をかければ解決策の質が高まることは稀。対応を遅らせば、遅らせるほど、悪い結果を招いたりするもの。考えあぐねたあげく、よりもよって最悪の策を採用することさえある。
そんなことを考えると、決断がのろいのは、現政権の体質由来と考えるのが自然。思うに、政治屋稼業的文化にどっぷり漬かっている政権なのでは。何をするにも、様々な勢力へのお伺いを立て、その結果を整理した上で、波風が余り立たないような調整策を案出させているのではなかろうか。そんなことをしていれば、当然ながら、矢鱈に時間がかかることになる。
ところが、ここで厄介な問題に遭遇することになる。調整ばかり熱心で、政治的信念を欠く、後手後手の首相との批判が周辺から巻き起こるからだ。当然ながら、為政者がそれを認める訳がなく、そうでないことを必死になって示そうとしがち。その結果、上滑りの「強い」信念に基づいて動いている体裁をとりたがる。自信がないにもかかわらず、自分の信念に照らして決断を下した気分に浸ろうとする訳。こうなれば、決断の質はどんどん劣化していく。
実は、6月24日の野田首相記者会見録を読んでいて、小生はそんな印象を受けた。読者の方々は如何かな。
なにせ、従前のガイドラインである、地域安定最優先方針(問題棚上げの擬似「秘密協定」路線)を覆す発言を含んでいるのだ。
・韓国は不法な「李承晩ライン」を一方的に設定し、力をもって"不法占拠"を開始した。
・中国が領有権を主張し始めたのは、東シナ海に石油埋蔵の可能性が指摘された"1970年代以降"だ。
これらを、そのまま受け取れば、外交大転換を意味する。それには、それなりの覚悟が必要。転換に伴う新しい方向性を示唆する話があってしかるべき。にもかかわらず、それがさっぱり見えない。隠しているというより、大転換を図っているという意識が無いように見える。
少なくとも、長期、中期、短期といった階層構造で物事を考えている様子はさっぱり感じられない。これはこまったもの。時代の流れもわからず、ただただ波に翻弄され続ける、漂流する国家になりかねないからだ。
冒頭にも書いたが、小生は、今回の紛争は東アジア全体の動揺期の始まりにすぎないと見る。
これから数年かけて、米軍は朝鮮半島から撤退していく。北朝鮮も韓国もそれは大歓迎な訳で、長期的には、中華圏の東アジア絵図を前提としていると解釈するしかなかろう。両国とも、李朝のような存在を目指して統一を図っていくのだろう。ミニ中華思想をアイデンティティとして、中国王朝の傘下で生き抜くことになる。そんな体制は面白くないという御仁は朝鮮半島から脱出するしかなくなる。
台湾の政権も選挙公約に反し、ついに大陸との融合へ歩を進め始めたようである。
もしそんな流れが動き始めたと見るなら、日本は中華文化圏の一国になるつもりか、予め、はっきりさせておく必要があろう。そんな道はご免こうむると言うなら、大中華圏(チベット、モンゴル、ウイグル、満州、朝鮮半島が漢文化に染められる訳である。)にのみ込まれないためには何をすべきか、中期的な構想を案出せざるを得ない。それに沿って着々と歩を進めなければ、意に反する状況に陥るのは確実。
別に難しい話をしている訳ではない。シナリオはいくらでもあるからだ。問題なのは、現政権には何もなさそうという点。そんな状態で、短期的に、紛争にどう対応すべきか決めたところで、次の手の打ちようがなかろう。この先も、モグラ叩き的対応が続く訳で、早晩、ドツボに嵌るだけ。
そうそう、鳩山トンデモ構想も勝手に解釈し直せば、長期的な日本の立ち位置としての、1つのオプションであるのは間違いない。(もちろん、これを短期的な政策に直接当てはめれば頓挫間違いなし。当たり前。)・・・米軍は東アジアから総撤退。一方、日本は独自の強力な軍事力を保有する。その上で、中華帝国との並存の仕組みを作り、これに周辺諸国が加わり、地域の安全保障体制を構築。その土台の上に、東アジア大政治経済圏を作ろうとの考えと見ることができよう。小生は無理筋と見ているが。
ちなみに、従前のハト派なら、これとは全く違う立ち位置を選ぶことになろう。・・・なんといっても軍事的軽負担がウリ。安全保障の基本は米国依存ということ。米中共存を賞賛しながら、同時に両者の緊張関係を緩ませることなきよう、常に目を光らせておくことが肝要。中国文化圏に呑み込まれたくない周辺の国々と、できる限り協力しながら、米国型に近い統治体制を目指すことで、非中国文化圏の発展を図る。綱渡り的だし、緩い進め方だから、そう簡単にことが運ぶ訳にはいかない。
まあ、これ以外にもオプションはいくらでも。
だが、ここで重要なのは、今の成り行きベースでの予測である。長期的には、米軍はアジアの海域を守り続ける力を失うかも知れないのだ。それを踏まえて、軍事同盟国である日本はどうするか。実に大きな問題である。
政治家が大っぴらにこんな話をできる訳がないから、本来は、こうした議論をするシンクタンクがあってしかるべき。ことは、離島の領土云々の話ではおさまらないのである。
(記事:産経ニュース)
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