■■■■■ 2012.9.21 ■■■■■

  見える化進む中国政治

中国での反日暴動にさも驚いた顔をする人がいるが、なんらかの意図があってそんな姿勢を見せている可能性があるから、十分注意した方がよい。

この程度の暴動は予想された範囲でしかない。素人でも読める程度の話。中国の動きは結構見えるようになってきたということ。
野田政権はその辺りまではシナリオに入れて動いてきた可能性の方が高かろう。そう推測するのは、尖閣に中国漁民が上陸した際、島内で待ち構えていた大勢の制服官憲が逮捕に及んだと即時公表したからだ。これでは中国共産党中央の面子丸潰れ。しかも、引き続いて、よりもよって沽券にかかわるような時期近くに(9.18フレームアップ@柳条湖)、尖閣国有化を発表。どう考えても、野田政権は、中国のさらなる強硬な対応が続くことを前提として動いているとしか思えまい。
こうなると、海保、自衛隊による最大限の領土防衛体制をも構築しつつあると見て間違いなかろう。日本政府から、こうした明確なメッセージを送られてしまうと、共産党中央は対処が難しくなる。台湾解放をレゾンデートルとしている解放軍から、外交大失敗ということで突き上げをくらうからだ。

ともあれ、この問題にどう対処していくのかは、胡錦濤主席が決めるだけのこと。それが失敗と見なされれば、引きづり降ろされる可能性もなきにしもあらず。人民解放軍が絡んでいると、ことは重大なのである。政権は、あくまでも鉄砲から生まれる国だからだ。

といっても、胡錦濤主席の自由度はたいしたものではない。
日米安保条約がある以上、下手に火器を使う動きを認めたりすれば、米国との協調関係が壊れかねない。これだけは避けたい筈。それに抵触しないよう動くとすれば、数多くの漁船と探査船を長期に渡り派遣して海上示威行動をしつように続けるしかない。しかし、野田政権はその手は折込済みのようだから、さらなる防衛体制強化で臨まれてしまうと、中央政府はこれで済ます訳にはいかなくなる。
そうなると、手っ取り早いのは、国内組織を動かして、最大限の反撥を示すしか無かろう。独裁国が行う一番安直な手だ。当然ながら、ここぞとばかり反胡錦濤勢力も動くことになる。大衆運動によって政権を奪取されるリスクはあるものの、人民解放軍を抑えている自信があるなら悪くない選択である。過激分子を挑発しておいて、後から反共産党アナーキスト集団とみなし、一網打尽という手があるからだ。それこそ、反対派を何時でも一気に潰せる切り札を貰ったようなもの。もっとも、そんなことは反対派は端から百も承知。それが、中国共産党統治の仕組みである。

もちろん、これ以外の方策もあることはある。リスクは極めて高いが、日本との戦闘に手を染める選択。沿海域の人民解放軍お好みの、自称人民ゲリラ型戦術を採用して上陸を図るという手。ただ、火器使用を始めた瞬間、海軍力の劣勢さを味わうことになるから、常識的には避けざるを得ない。しかし、人民解放軍にはそれは通用しないかも。ベトナム侵攻でわかったように、始終海外情報に触れている中国共産党中央と違い、海外の軍事力を冷静に評価する能力を欠くからだ。と言うか、もともと国軍組織に編成されておらず、地域独立王国的な体質だからどうにもならない。しかも、自衛隊のようには、幹部は勉強しないときている。皆、ビジネスの方に忙しいのである。もちろん国際ルールなど屁の河童集団。いわば、偏屈な視野しかない、土着利権屋の武装集団が牛耳っている、小国のような存在。共産党中央がこの組織を抑えることができるとは限らないのである。
それを理解しているオバマ政権は、早くから、尖閣を日米安保の適用範囲と発言することで、解放軍の直接的関与を牽制してきた訳だ。当座の戦乱を避けよという以上の要求ではないから、これにどれほど効果があるかはなんとも言えぬが。

こんな風に、俯瞰的に中国の動きを見ていれば、中国共産党の次期最高指導者に内定している習近平[Xi Jinping]副主席が9月1日以来公式の場に姿を現していなかった理由も想像がつくというもの。毛沢東時代から、首脳の消息がわからなくなったら、それは必ず解放軍の動静がからむのが常識。一番まともそうな解説はNYT掲載の記事か。・・・Mr. Xi's absence was more likely because of the unsettled political situation.

毛沢東型なら、まず息のかかった解放軍の地元に潜伏し、他の解放軍との連携を図り、中央に圧力をかけて権力奪取を図ることになる。毛沢東対抗勢力はそんなことを知りながらも、その都度、粛清の憂き目にあったのだから、この風土はそう簡単に変わるものではなかろう。しかし、習副主席の場合、そんなことをすれば、権力継承シナリオを自ら壊すことになりかねないから、一寸おかしな話。だが、それは各解放軍と党中央の意見がだいたい一致していた場合である。中央と解放軍全体、あるいは各地の解放軍間で、意見の違いが先鋭化した場合は、北京から逃げるにしかず。それが鉄則。そして解放軍統制の目途が立ったら、共産党は一枚岩と称して登場するというのが、この国での処世術のイロハ。
ただ、意見対立の根源にあるのは、おそらく尖閣問題ではなかろう。次期最高指導者が採用せざるを得ない政策に、解放軍内部の既得権益層から猛反発が巻き起こった可能性が高い。その解決に、習近平副主席が注力したということでは。もともと、反撥組に近い立場だろうから、それを利用して、どう動いたのかは気になるところだが。
お隠れ期間中の世情を勘案すれば、反日暴動と、それにかこつけた反胡錦濤勢力主導の示威行動を、ある程度認めることで、反対勢力を懐柔しようとの算段だろう。オバマ政権にも直接話をして、米中摩擦を避ける措置をとっているのは間違いないところ。海千山千の政治家なのだから。

もっとも、非公式ながら、対外的には、軽微な健康上の理由で短期間療養したと説明している模様。まあ、それ以外の理由をあげるわけにもいかないのである。なにせ、一旦就任すれば、10年間はその地位で全権を振るう必要がある。体力的に無理そうと見なされた瞬間、権力継承シナリオは崩壊してしまうからだ。
かつて、毛沢東の驚異的な遠泳報道に笑いころげた人もいたが、そんな情報が何を意味しているか鈍感なことを自ら示しているだけ。小国並立を嫌い、中央集権型の超大国化を選んできた中国人民4000年の歴史をしっかり学んでいた毛沢東ならではの仕掛け。・・・中華思想とは、全権を握る強靭な皇帝あってこそのもの。最高権力者にその力が無いとわかれば即時革命勃発。造反有理の社会なのである。当然ながら、周辺国は皇帝に平身低頭し、その文化を受け入れる姿勢を示すことが要求される。それなくしては、大国化する意味はないからだ。ニクソンも毛沢東に頭を下げにやって来た訳で、それこそが毛沢東が今でも愛される所以。まともに毛沢東批判などすれば、バラバラな分裂国家を望んでいる輩とみなされ放逐間違いなしの社会ということ。
次期最高権力者は日本に対して、友好的な姿勢で臨むことはできなくなろう。反日暴動は序の口ということ。

そんなことがわかっているにもかかわらず、尖閣問題で議論沸騰を愉しむのが、自民党総裁候補者達。上記のように考えれば、そんな問題は小さなこと。チマチマした議論で、自ら高揚している姿を見るにつけ、彼我の力量差を感じさせられる。
この手の日本の政治抗争に頭が慣れてしまうと、中国共産党の「北戴河会議」で人事問題がどう決着したのかというばかり気になってくる。それはそれで確かに面白いが、先ず注目すべきは、すみやかに政治日程の発表に漕ぎ着けることができるかという点。日本の政局的人事のゴタゴタとは本質的に違うから、決着が遅れているということは問題が深刻化している兆候そのもの。権力継承を巡る議論とは、これから10年の路線決定話だから、ことは深刻。
今のご時世、問題を抱える中国にとっては、そう簡単に決着がつくものではない。従って、習副主席行方不明はおこるべくしておこったとも言える。

習近平路線とは、おそらく、穏健的に中国経済大国化を進めてきた胡錦濤路線をそのまま引継ぎつつ、覇権国化に歩を進めるというもの。だからこそ、早くから次世代の最高権力者として扱われてきた訳だ。
国内的には、東北部や内陸部で成功裏に進んでいる経済発展をさらに進めると共に、チベット、ウイグル、モンゴル、寧夏回族といった地域の漢化のスピードアップといったところ。台湾併合も入っていてもおかしくない。しかし、先進国レベルを達成した沿海地域内部の矛盾や、発展途上地域において都市から隔離されている貧農の不満に応える施策は相対的に手薄になるだろう。
毛沢東文革路線で下放を受けながら、現在の地位に上りつめることができた人気政治家であっても、この状況だと、貧農を基盤とする毛沢東主義者が仕掛ける権力闘争に対して対抗するのには骨が折れる筈。それに乗る方が簡単だが、そうもいくまい。
それが2週間もの動静報道欠落につながっていると見るのは、当たらずしも遠からずでは。

これから10年を考えると、誰が読んでも、不安定化は避けられない情勢。これをどう打開すべきかで路線対立が発生するのは当たり前の話。海外軍事体制構築や食料安全保障の問題での議論になれば、深刻な対立に進むこともありえるし。
 ・高齢者大国化が急速に進むが、それを支える仕組みが無い。
 ・原油輸入量の継続的増加なくしては経済発展は無理である。
 ・原油確保のためには中東政治に関与せざるを得なくなる。
 ・低賃金労働を前提とした輸出産業の競争力は喪失する。
 ・その結果、貿易収支が悪化すると、食糧問題が勃発しかねない。
そして、忘れてならないのは、今の流れのまま経済発展を続けたいなら、前提条件があるという点。バブル治療に手をつけざるを得ないのである。溜まりに溜まった不良債権処理の先送りはもう限界ということ。ただ、それは解放軍ビジネスにも大きな影響が出る。トバシが露見する訳だから、地方政府も黙って見ている訳もなかろう。習近平政権誕生に際しては、それこそが最初に直面する最大の難関と言えよう。尖閣問題など、その出汁程度の問題でしかない。

こうして、気侭にダラダラ書いていると、中国の政治の方が日本より余程透明感がある気がしてくるから不思議である。

(ロイター記事)
習近平氏が2週間ぶりに姿現す、健康めぐる憶測一掃する狙いも 2012年 09月 16日 13:16 JST
習近平氏は背中負傷で療養、15日にも公式の場に=関係筋 2012年 09月 15日 08:30 JST
(NYT記事)
Off-Script Scramble for Power in a Chinese Leader's Absence By IAN JOHNSON and JONATHAN ANSFIELD; September 13, 2012


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