次期首相確実と言われる、自民党総裁が決まった。マスコミの予想通りの結果だったが、素人なりに、ちょっと考えてみた。
石破候補は党員票の過半を集めたのだが、(165/300票)その理由がよくわからない。TPP参加賛成候補が、地方の自民党支持者の支持を集める現象は予想しにくいからだ。まさか、主張を転換した訳でもなかろうし。
一般人相手の選挙なら、主要論点から外れるとそんな主張は忘れられたりするものだが、これは党員票である。TPP参加論者であることは、皆、百も承知。しかも、圧力団体と絡む派閥政治反対論者とくる。その存在は亜流でしかないのは、支持議員は2割に達していないことでも明らか。(34/197人)派閥公認に近い3候補の合計が議員票の過半を占めるのはわかりきった話で、(58+27+24/197人)いくら地方を回って顔を広めたと言っても、選挙区の親分が支持してくれない地域だらけなのだから限度があろう。
マスコミによる解説によれば、防衛オタクイメージが、今の状況で人気を呼んだというのだが、そんなものかネ。確かに、防衛論議好きな方ではあるが、政策の専門領域としては農政であり、安全保障問題をまかせて大丈夫というほどの信頼感が生まれているとも思えないのだが。
小生は、人となりという視点で他候補が今ひとつというところが、支持獲得の理由と見たのだが。
細かく言えば、2つ。
1つ目は「人柄」。
派閥領袖達が、谷垣総裁を引きずり降ろして、都合のよさそうな候補を選ぼうと動いた状況が表に晒されてしまい、又、古い自民党回帰かという気にさせられた点が大きそう。谷垣総裁の傍らで任にあたっているにもかかわらず立候補するのは筋が通らないから、前もって政調会長の役職から降りた律儀な候補との印象が生まれてしまい、石破人気に繋がったのでは。ドロドロした貸し借りと騙しあいの世界を嫌っていそうな姿勢に映ったので、皆から、えらく気に入られたということでは。
2つ目は「政策トーン」。
それぞれの候補が打ち出した論点は、小生はよく見ていないので、検討する資格はないが、党員投票完了時点での候補者発言を取り上げた、マスコミ報道からすると、各候補の論点は以下のようなトーンと受け取られた可能性が高そう。
石破候補:「すべて、根本から見直す」
安倍候補:「憲法改正」「デフレ脱却」
石原候補:「ふるさと」「福祉国家」
町村候補:「?」(支えてくれて有難う。)
林候補:「雇用」
こうして並べてみると、一番まともそうに映るのは「雇用」。「見直す」というのは中味がわからずお話にならない。「ふるさと」とか、同志の皆さん頑張っていこうネは論外。まあ、自民党組織とはそういう風土だから致し方ないのだが。
威勢の良いのは、「憲法改正」「デフレ脱却」。できそうもしないことをスローガンに掲げて、自ら危機意識に酔うタイプ。
まあ、どれもこれも、首相になった時に、実際のところなにから手をつけようというイメージが湧かないものばかり。
それなら、自民党政権時代のバラマキ調整政治に戻るよりは、「すべて、根本から見直す」お方にまかすがよかろうとなるのは、自然な姿勢ではなかろうか。
これだけで判断するのはえらく失礼な話ではあるが、実につまらぬ選挙戦だったと言えまいか。
「雇用」の議論でもしてくれれば、まだ救われたのだが、マスコミにはそんな話はさっぱり登場しなかった。それに、小さな政府への道を熱く語る候補もいないのだから、とても資本主義政党の名に値しない状況。
だいたい、今の時期、「憲法改正」の議論を仕掛ける意味がどれだけあるのか考えるべきだろう。かつて、首相の座を射止めて、早速、日本の独自路線を打ち出そうとして米国から手痛い扱いを受けたのをお忘れなのでは。又ゾロ同じ手口を始めるなど、外野からは、理解しがたいものがある。
「すべて、根本から見直す」論者にしても、たとえ、憲法改正の国民投票に漕ぎつけたところで、過半数の賛成を得られる見通しなど今の状況ではほとんど無いということを認識しているのだろうか。正論を述べていれば、世間は変わるなどという、夢で動いているようなら、評論家に転職して欲しいものだ。
だいいち、ミサイルや核兵器を持たず、米軍に依存せずの安全保障体制など空想論もいいとこだろう。財政が破綻しているのに、どこから超膨大な軍事費を捻出するつもりか教えて欲しいものだ。
米国第7艦隊の艦艇60隻と4万人の存在が太平洋を安定させていたのであり、それがどうなるか考えないのはまさに空論以外のなにものでもない。オバマ政権になり、日米軍事同盟が中国封じ込めでは無いと発信し、パワーバランスが壊れる方向にあるのは間違いないが、自らの力量を考えずに動くのは止めて欲しいもの。
何よりも大きな問題は、米国民が自国の衰退を感じ始めている点。国際秩序の維持コストを削減しかねない状況であり、これは世界の「無法」状態を生み出す可能性もある。それを防ぐにはどうするかが問われているということ。
常識的な方向とは、先ずはTPPを通じた自由経済のプラットフォーム作り。その裏側で、主要参加国でそれを支える安全保障体制を作るというのがまともな展開。憲法改正はこの逆でいこうというもので、下手をすれば孤立である。憲法改正は安全保障体制構築の流れが見えてきた後でも間に合う。
ただ、その前に、経済の下降局面をいかにしのぐかが大きな課題。消費税が上がれば、地方は貨幣経済外活動が増え、消費はガタ減り間違いなし。一方、都会では、中間層は生活レベルを本気で落とさざるを得なくなる。経済規模縮小は避けられない。それに伴い雇用規模は縮小するから、高齢層は引退して年金生活化だし、若年層は失業者増加となり、経済低迷の悪循環が進んでいくことになる。それを止めるためのハコモノ公共投資はかえって状況を悪化させるかも知れず、手のつけようがなくなるかも。
それがすぐ先に見えているのだ。にもかかわらず、「雇用」増進の仕組み作りさえ論議にならないらしいから呆れる。
領土問題で危機感を煽るが、本当の危機はそんなところにある訳ではない。国力の低下がこれから猛スピードで進む可能性が高いという点。それについては、自民党には、危機感の危の字も無いというのが、この選挙でよくわかった。
それでも民主党の選挙よりは余程ましだったとは言える。あちらの危機感は自民党以上のようだが、それは議員数が減り続けていること以上ではない。正確に言うなら、それは危機感ではなく、選挙で落選しそうという不安感でしかないが。
(日経記事)
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