誤報のあとあとまで、いつまでも騒がしいのには驚いた。森口尚史元東大特任教授騒動のコト。
まあ、大新聞が1面にデカデカと掲載し、自社英字新聞でも報道したから、通信社が世界中にネタを流した筈で、ソリャ世界中で話題沸騰するのは当たり前。つまらん嘘はすぐバレる訳で、それだけの話。
それにしても、その速さはたいしたもの。安全性もへったくれもなく、臨床を進めているのではないかと、皆恐れたからだろう。科学の熱狂というより、金儲けの熱狂に違いないと踏んで。
まあ、一流米国紙でも、誤報は珍しいものではないと思う。騙しの手口に引っかかったら、プロとして二流だったと反省する以外にやるべきことはない。
投資に係わるニセ情報を流すことに加担した訳ではないから、せいぜいが謝って終了が妥当なところ。余計なことをしても、時間と労力の無駄だろう。
にもかかわらず、メディアが束になって、よってたかって役職詐称とか、質の悪い学会発表だとか、論文がまともでないとか、追求しているとか。お止めになった方がよいと思うが。そんなことは専門家や科学ジャーナルにまかせておけばよい話。
いやしくも、博士号を授与され、内容はどうあれ有名雑誌に論文が掲載されているのである。それらが偽造というなら別だが、それに「質」で言いがかりをつけるなど、どうかしている。懲りずに、同じことを繰り返そうというのか。論文誌や学会に喧嘩を売りたいなら別だが。
共著者が名目ではないかと言い出しかねない態度もどうかしている。ほとんど寄与していない人の名前が登場する論文があるというのに、今更、そんなことを云々してどういう意味があるのか理解に苦しむ。それに、論文誌は著者のサイン確認はするだろうが、組織所属がどうなっているかなど調べる訳がない。
しかも、詐称にしても、かつて東京大学特任教授だったことは間違いないそうではないか。
だいたい、「特任」制度とは、アルバイト的に採用しているという以上でもなければ以下でもない。教授名を渇望している人を非常勤で雇用して上手く利用するとか、単に授業コマ上で不足している労働力を安価に補填するだけだったりする訳である。ただ、目立つのは、新しい流れに対応できる内部人材がいない時で、お飾りに急いで加える訳だ。どういう目的だろうが、その程度の人事を逐一検討する暇人が大学にいる筈もない。それぞれの費用管理者に、すべて任せるから、適当な「ヒト」を「購入」して上手くやってヨというだけの話。
「特任」なら、研究員だろうが、教授だろうが、その名称にたいした意味はない。それを、現在は教授ではないと騒ぐこと自体、馬鹿げている。騙された恥の上塗り。
だいたい、マスコミを活用して大言壮語する、いわゆるかき回し屋さんは、新興分野では珍しくもない。騒がしくしてくれれば、当該分野の科学研究費も増える可能性があり、それはそれで結構な話だからだ。マスコミも耳目を集めそうな話を聞かせてくれるなら、これほど有難い人材はいない。この方も、おそらく重宝がられていたことだろう。
今回の、マスコミの一番の問題は、なにがポイントかはっきりしているのに、誰も、なにも書かないこと。
重要なのは臨床実験の話ではなく、誰が何処で、細胞を作ったか。訳のわからぬものを、ヒトで実験できる訳がないからである。一流の研究者、管理の仕組み、そしてラボがなければ細胞は作れない。
日本で作って持ち出したのかネ?それとも、米国?
日本のラボってどこなの?誰が研究者なの?海外だとしたら、なんで日本のマスコミに知らせる必要があるの?
それが鍵となる情報であることを知らない筈もないのに、推定もせずに大報道に踏み切った訳だから、騙されたというのはその通りだが、この御仁の片棒を担いでいこうと決断したのは間違いないのである。そんなことをして、何のメリットがあるのか外部の人間にはさっぱりわからないが。
そうそう、もう一つわかったことがある。
大新聞の一面記事に驚いて、ただただ急いで追随するメディアが存在するのだ。通信社のように、「日本の大新聞が報道」という手のニュースではないから、大騒ぎのチャンス逃すべからずという付和雷同的方針を取っているのかも知れぬ。そうだとすると、この手のメディアは要注意である。
一方、残念なのは、取材しながら、ニュースにしなかったメディアの姿勢。他社が一面にセンセーショナルな記事を掲載したなら、報道されたことを即座に記事にして流して欲しかった。もちろん、上手な註をつけて。
(記事) Stem-cell fraud hits febrile field After heart-treatment claims collapse, researchers caution against a rush to the clinic. by David Cyranoski 16 October 2012 Nature | News