■■■■■ 2012.11.6 ■■■■■

  マネジメント力強化が裏目に出たのでは

パナソニックに事業売却と人員削減を迫る記事がロイターに掲載されてしまった。
ブルームバーグに至っては、株式担当マネジャーが、音響・映像(AV)関連商品には他社と差別化できるものがなく、「パナソニックに希望を見いだすのは難しい」とコメントしたと報道。

酷評だらけだが、市場が怒るのも無理はない。
2013年3月期の連結最終損益予測が7,650億円の赤字で、無配方針と発表したからである。一株当たりのキャッシュフローが減る一方で不調なのはわかっているものの、ここまでくると株主も流石に耐え難いということだろう。お蔭で、11月1日の市場ではストップ安。営業黒字だが、先がさっぱり見えないし、リストラ資金のために増資でもされたらたまらぬということで売り殺到ということか。
2日にはS&Pが格下げしたこともあり、週明けの5日は出来高トップの大商い。株価は、1975年2月1日以来の水準にまで下落してしまった。

すでに21世紀を目前にした時点で、屋台骨を支えるAV領域の事業が、下手をすれば没落しかねないことはわかっていた筈。
外野にしてみれば、当然、不退転の決意で、挑戦に打って出ると期待したのだが、実態は逆。今更、それを振り返ったところで、どうにかなるものでもないが、これから先を考える際に少しは役に立つかも知れないので、気付いた点を書き留めておくことにした。まあ、どこまで当たっているかは、素人論の上、結果論でしかないからなんとも。
(1) 2000年直前から、テレビ機器の先端技術競争での積極姿勢が急速に薄れた。
・・・技術的に勝てる見込みがある訳でもないのに、後手でなんとかなるとは思えないが、当座の利益確保重視姿勢に映った。日本の競争相手に合わせたのかも。

(2) テレビ放送方式をインターネットの主流と親和性なき方式にした。
・・・折角、世界に冠たる放送機器事業を抱えていながら、テレビを単なる家庭内ディスプレーのママにしてしまった。これで、テレビを大化けさせる画期的商品化の道が断たれてしまった。

(3) 録画ディスクの統一化で自社規格のブルーレイに拘った。
・・・気持ちはわかる。しかし、もたもたしていれば大幅な時間的ロス。従来方式と違うから資金投入も必要とくる。しかも、ディスクメディアは遠からず消える運命なのは見えていた。適当に妥協して利益の極大化を図った方がよかった気がする。知財だけで食べる企業ではないのだから。

(4) 市場が立ち上がってからプラズマディスプレーで勝負をかけた。
・・・プラズマと液晶プロジェクターは、フラットディスプレーとしては明らかに「つなぎ商品」。従って、いち早く圧倒的安価な製品を提供して市場を席巻して利益を確保するしかない。テレビだけでないから、液晶ディスプレーの市場は巨大で、これと戦うには、いかに早く累積生産量を巨大な数字にするかが勝負なのは当初からわかっていた筈。安価にできるチャンスはあった訳で、一か八の賭けに出るしかない筈。ところが、これを、特徴を出して高付加価値商品として販売した。これは高級路線であり、コアの市場を失うだけ。

(5) 国の力に頼って、単純な国内需要の先食いをしてしまった。
・・・市場をゆがめるようなことをすればそのツケは必ず回ってくるもの。


ここで考えるべきは、各論でもないし、違うシナリオだったらどうなったかという点でもない。そんなものを議論したところで非生産的。重要なのは、外野の素人と、どうしてここまで方針が違ってしまうかという点。
小生は、この企業は自分の強みを十二分に認識しており、その眼鏡から世界を見ているからだと思う。と言うか、マネジメント力が卓越しており、それを磨き続けているため、こうなってしまうのだと見ているにすぎないのだが。それこそ、勉強すればするほど、損な道で勝負をかけがちということ。

と言うことで、その強みだが、言い方は妙だが、「原価計算力」である。
コレ、経理部門が行っている単純な算数の話ではない。そこには情報分析力も入ってくるし、エンジニアの主張を噛み砕いて技術力を原価低減見通しにつなげる予測力も入ってくる。例えば、川上産業をよく知ると同時に、川下産業にも目を配らねば、機敏に動いて最適な調達を実現することは難しい。当然ながら、開発費用についても、総枠で妥当なレベルを設定するスキルが必要である。ミクロの製品レベルではどの企業でも行っているが、これを事業という括りで全体最適を考えるのは簡単な話ではない。ITの力で現状分析やシュミレーションは簡単だが、情報の判断力がなければ豚に真珠。
問題は、人員削減が簡単ではない企業の場合、この力が生きてくるのは、市場が拡大基調にあり、競合も類似の事業推進体制を敷いている時という点。この場合は、地道に追求していれば、後から利益がついてくる。
例えば、いまやレノボの事業となっている、かつてのパソコンOEM事業のような類だと、この企業の強みは遺憾なく発揮される。しかし、巨大EMSが登場してしまうと、川上産業の状況把握力の威力は失われてしまう。しかも、日本市場は別だが、川下産業も流動的になってきた。最終の商品購入者ではなく、その前段である流通等の顧客に合わせた対応力の強さで市場を席巻してきた企業にとっては、川下産業で始まった、時代の大きなうねりについていくのは簡単な話ではない。

つまり、真面目に、マネジメント力を強化すればするほど、どうしても上記のような路線に近づいてしまいがち。簡単に言えば、読めない道に大胆に入る訳にはいかないからである。さらに厄介だと思われるのは、わからない市場だと、石橋を叩いて渡るか、ちょっと覗き見程度になりがちという点。昔と違って、この姿勢でチャンスを生かすのはかなり難しい。

(記事)
 焦点:パナソニックは追加リストラ不可避、迫られる事業売却の決断 2012年11月5日 17:17 JST ロイター
 パナソニック株400円割れ、最悪損失受け売り続く−東京市場 2012/11/05 15:54 JST ブルームバーグ
 <東証>パナソニックが400円割れ 75年2月以来 業績低迷で 2012/11/5 10:19 日経
 パナソニック7650億円赤字 13年3月期、63年ぶり無配 2012/11/1 1:33 日経


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