Natureの2012年11月29日号カバーストーリーは気候温暖化。
「温暖化は進行中:京都議定書後の世界が生き残るための道しるべ」
要は、「Climate policy: The Kyoto approach has failed」ということ。京都議定書は失敗だったのは、当たり前だが、まずはそれを確認することが出発点。
流石、Natureだと感じたのだが、実は、この特集ではない。秀逸なのはエディトリアルの方。・・・「病気との闘いに、科学的に見て実現性のない過大な目標を掲げるのは、適切な戦略ではない。」(Misguided cancer goal #491 pp637 28 November 2012)
現実を直視せずに、大騒ぎするのは耳目を集めるには便利な手法だが、百害あって一理無し。自分の分野が騒がしくなれば、研究者やエンジニアはそれで結構となりがちだから、こうした指摘は重要だ。
ヒト・モノ・カネが集まれば、研究がさらに進むから願ってもないことと考え勝ちなのも悪い癖。ミクロでは必ずしも間違いとは言えないが、マクロでみれば他の分野の資源の大幅減少を意味するから、総合的判断なしにはなんとも言えないのである。従って、近視眼的というか、判断力があるとも思えない人達の意見で進めるような資源の集中投入策は避けるのが鉄則。効率低下策になっている可能性も否定できないからである。これぞブレークスルーとわかるものや、大きな見返りに繋がるように資源を投入していると言えるか、十分考える必要があるということ。当たり前なのだが、これがなかなかできないのが現実。そもそも、集中すべき領域設定自体が創造的な作業なのだ。キャッチアップのような効率的人真似仕事の集中化とは訳が違う。
実証研究は少ないので理解が進んでいないが、単純な集中化策はイノベーション創出にはマイナスに働くことが多いと見るべきなのである。
現実性の薄い目標に向かって、大勢が集まってふんだんな予算を使って仕事をする状況を考えてみれば想像がつくだろう。すぐに有象無象が集まってくるし、創造性を喚起する緊張感も失われてしまう。新しそうなことを手がけていれば誉めそやされるから、当たるも八卦的な姿勢が蔓延する。しかも、当のご当人にはそんな認識も無かったりして。常識人なら、これでは、碌なことになるまいと考えるのだが、そんな批判にも聞く耳もたずになる。
重要なのは、「創造性を喚起する緊張感の醸成」と「なんとしても達成しようという目標の設定」である。従って、プロが直観的にこれは無理と感じてしまう目標設定など、具の骨頂。
緊張感持続のために目標設定を高くするのは悪いことではないが、挑戦者が可能と考えていないなら、そんなことをしてもなんの意味も無い。そんな目標とは、アマチュアが描く漫画も同然で、単なる夢物語でしかないからだ。
「コリャできないネ」と言われているにもかかわらず、無謀にも挑戦してたまたま成功という確率は低すぎるということ。「無理とされているが、原理的には可能性あり。とっかかりもわかっている。極めて難しいのは、その通りだが、やればできる筈」と考えるからこそ、イノベーションが生まれるのだ。当たり前だが、簡単にその突破口が見つかる筈は無い。にもかかわらず絶対に実現しなければとのパトスがあるから成功に繋がるのだ。解決の糸口も、挑戦者の頭から生まれるとは限らない。全力をふり絞って、端緒を切り拓いても、さっぱり光が見えないから、どうすべきかアイデアを探し求め続け、他の人には気付かなかった考え方を見つけ、光が見えてくることが多い。緊張感に溢れ、頭をフル回転させているからこそ、そんな幸運に恵まれるのだ。これと正反対の、「Hope」でしかない高い目標を掲げて仕事に精を出すやり方はお勧めできないのである。
おっと、肝心の癌撲滅目標の話からズレてしまった。
ご想像がつくと思うが、これ、クリントンが掲げた、“One Mission: To End Breast Cancer by January 1, 2020”大キャンペーンの話である。研究者達を奮い立たせる意味ではよさげだが、世間に打ち出せば現実性ある目標と見なされてしまい「信用」問題が生じるということ。
母親を乳癌で失った逸話がついて回るから、感情的に高い目標を掲げたくなるのはわからないでもないが、現実性を考えるべきだということ。---An influential US advocacy group has set a deadline to beat breast cancer by 2020. But it puts public trust at risk by promising an objective that science cannot yet deliver.
そりゃそうである。
ワクチン開発は、先ずはターゲット設定から始まるからだ。それが短時間で可能となる必然性がどこにあるかネという当たり前の指摘。
それがわかってから、ようやく本格的な開発が始まるのである。言うまでもなく、"Discovery does not answer to deadlines."
現実とは---Britain's Breakthrough Generations Study, which recruited its 100,000th participant in 2009, anticipates running for 40 years.
碌にわかっていないとの現実認識から出発すべきなのである。