たまたま読んだ最低賃金制度のお話だが、失礼ながら、思わず笑ってしまった。
論点は、こういうこと。
○普通の論理
従業員100人の工場で800円(時給)×100人の賃金原資は8万円/時。ここで80,000円/103(人)=776円(時給)に賃下げすれば、あと3人雇うことができる。
○小学生レベルと批判されている論理
1人当たり時給800円のルールを廃止して、それで3人雇うということは、1人当たり時給267円になる。(従業員100人なら、なんと、さらに200人も雇うことができる訳だ。)
この賃下げ話だが、大阪が発端のようだ。
思わず唸ってしまう。と言うのは、小生は、大阪の場合は、最低賃金を下げたところで効き目が無い可能性が高いと見ているから。
間違ってはこまるが、小生は、賃金の下方硬直化には大反対のクチ。職業多様化や企業の自由度を著しく奪うからである。もちろん、不況が忍び寄る状況での、最低賃金上昇などほとんど禁じ手に近いと見る。地方にはキャッシュフローが乏しすぎる中小企業が多すぎ、雇用維持ができなくなってしまうからだ。しかし、地域によっては、そんな毒薬投与もあえて行う必要があるかも。その候補が大阪ということ。(理想論ではあるが、最低賃金制度を率先して撤廃すべきは、東京であって、大阪ではない。)
大阪の実情を存じ上げないで失礼なことを書くが、ビジネス街を外から見た様子から判断すると、勢いが失われている感じがする。昔とほとんど変わっていない印象しか受けないからだ。東京とはえらい違い。新陳代謝を嫌う風土が出来上がっているか、斬新な新企画を打ち出す力が無い地域かな、と思ってしまう訳である。
もしも、この印象が当たっているなら、事業拡張意欲がある企業は例外的ということになり、100人雇っている企業が103人雇うという仮説は成り立つまい。もしかすると、小学生レベルの論理の方が実情を捉えているかも。要するに、労働コストをできる限り圧縮する動きが出るだけ。どうやら、企業が生き延びるだけで終わりかねないということ。もちろん、従業員に公的生活保障制度を活用してもらうことになる。こうした状態なら、公的資金で労働コストを負担しているのとなんらかわらない。
公的生活保障制度のお蔭で雇用は守られるかも知れぬが、それが引き起こす副作用は小さなものではなかろう。資本コストを大きく割り込んでいて、本来なら潰れてしかるべき企業が、公的援助でさらに生き延びてしまうからだ。そうなれば、新陳代謝は一向に進まず、産業全体の生産性は益々悪化することになる。
こんなことをしていると、悪循環。発展途上国化しかねまい。
こんな目先の話より、長期的な視野での議論の方が余程重要では。
そもそも、これから生産人口が大きく減っていくのだから、日本人の最低賃金を最低でも今の2倍に引き上げてもらわねばこまる。それができそうもない事業なら、海外移転か撤退を検討すべきだと思うが。そして、海外からの出稼ぎ労働者に単純労働を任せる仕組みを早く用意すること。
こんなことは政治には期待できない訳で、マドル・スルー的に、企業がこの道を切り拓いていくより手はなかろう。
(ネタ) 2012年12月01日 11:47 内田樹氏の知らない最低賃金制度 池田信夫blog part2