■■■■■ 2012.12.23 ■■■■■

  衆院選を振り返って

衆議院で自・公が3分の2以上の議席数を占め、とりあえずは安定政権が樹立され、トンデモ党派政治に終止符が打たれて誠に喜ばしい限り、というのが大方の見方のようである。確かにそんなところ。
と言っても、日銀に大量に国債を引き受けさせ、公共事業の大盤振る舞い再開だから、元の木阿弥である。

「大きな政府派」が「超巨大政府派」に変われば、無理なバラマキで財政改革必至となり、それはそれで結構とみていたが、逆だった。消費税増税による先送りと来た。国際公約でもあるから、まあ、致し方ない側面もあるが、優先順位が余りに違うのには唖然。お蔭で、政権復帰した「大きな政府派」はさらなるバラマキに向かう。たまったものではない。
前回の選挙では、グローバル経済指向の鼻薬とも言うべき、「改革派」的な期待感も煽ったから、少しはなにか進展させると見たが、結局のところ、なにもやらず。産業の新陳代謝を図る政策はこれっぽっちも打とうともしないどころか、「反企業」施策を打ち出し、旧社会党への先祖返り。コリャたまらぬ。

しかし、よく考えると、当然の結果かも。比例区の得票数字から、その辺りを読み取ってみよう。

先ずは、よく言われていることの確認から。
○約1000万人が棄権。
<衆院選> <2012年> <2009年>
 投票者 60,179,888 ← 70,370,255

○与党はボロ負け。まさに「民主党盛衰記」。
<衆院選> <2012年> <2009年>
 投票者 60,179,888 ← 70,370,255
 民_主 _9,628,483 ← 29,844,799
 未_来 _3,424,071
 国民新 ____71,102 ← _1,219,767
 (合計) 13,123,656 ← 31,034,566

○旧与党(自公)も票数減少。「小泉なき自民党は25〜30%が関の山」だし、公明党はやはり抜き打ち解散には弱いんだねえ」。
<衆院選> <2012年> <2009年>
 自_民 16,623,542 ← 18,810,217
 公_明 _7,116,265 ← _8,054,007
 (合計) 23,739,807 ← 26,864,224

○維新・みんなが大躍進。
<衆院選> <2012年> <2009年>
 みんな _5,245,586 ← _3,005,199
 維_新 12,262,144 ← ----------
 (合計) 17,507,785 ← _3,005,199

○古典的左翼(社民・共産)は縮退。
<衆院選> <2012年> <2009年>
 社_共 _5,110,916 ← _7,950,224


これを、時間軸を長くして眺めると、人々の考え方はそれほど変わっている訳でもないことに気付かされる。戻るべくして、もとの鞘に。
○投票率は低いが、雪中選挙を考えると、棄権者は意外と少なかった選挙と見た方がよいのではないか。ともあれ、安定政権樹立には4割を越したいところ。3割に近いと苦しい。絶対集票数で見ると、ハードルは随分と上がったのである。
<衆院選> <2012年> ← ・ ← <1996年>
 投票者 60,179,888 ← ・ ← 55,569,195<
 (4割) 24,072,000 ← ・ ← 22,276,000
 (3割) 18,054,000 ← ・ ← 16,671,000

○自民党が割れない限り、自公連立以外でこの数字の達成は難しかろう。ここはしっかりおさえておく必要がある。
<衆院選> <2012年> ← ・ ← <1996年>
 自_民 16,623,542 ← ・ ← 18,205,955
 公_明 _7,116,265 ← ・ ← ----------
 新_進 ---------- ← ・ ← 15,580,053

○冷戦時代の左翼文化を受け継ぐ社共勢力は泡沫政党一歩直前。「20世紀には有権者の5人に1人は、共産党か社民党に投票していたんです。それが今じゃあ(得票率)一けた台。」
<衆院選> <2012年> ← ・ ← <1996年>
 社・共 _5,110,916 ← ・ ← 10,815,983
 得票率 __8.49% ← ・ ← _19.46%

旧ソ連型組織の左翼で、教条主義的な主張しかできないにもかかわらず、かつては、反自民票が社共に流れていたのである。政治の腐敗を防ぐため、この手の組織が存在することに意味があると考える層が存在していた訳だ。しかし、原発事故で、危険な箇所を「とりあえず」でも、防ぐ役割を果そうとはしなかった。ただただ反原発の旗を振るだけの集団に映ってしまえば、批判票の受け皿にはならなくなる。それだけのこと。
しかし、だからといって、反自民勢力の基盤が消滅した訳ではない。その票が他に回っただけの話。
○それが、現時点の民主と未来の姿である。両者とも、反自民野党として振舞うだけの勢力になったということ。冷戦時代の旧社会党が演じた、表向き絶対反対を貫き、裏で馴れ合い決着という役割に期待していそうな人は未だにかなりの数にのぼることを意味していそう。バランスをとることが、日本の政治には必要と考えているのだろう。
<衆院選> <2012年> ← ・ ← <1996年>
 民_主 _9,628,483 ← ・ ← _6,001,661
 未_来 _3,424,071
 社・共 _5,110,916 ← ・ ← 10,815,983
 (合計) 18,163,470 ← ・ ← 16.817.644

しかし、問題は、反自民はバラバラな勢力で形成されている点。土着層を組織化している自民党と利害が一致しない組織の寄せ集めでしかない。従って、どうしても胡散臭い選挙互助会組織になりがち。統一綱領をまとめるどころか、課題一致も困難なのが実情だからだ。
従って、スローガンを鵜呑みにすべきではない。「革新」とか「リベラル」と称されることが多いが、これは、日本のマスコミが、日本にも「リベラル」が存在して欲しいとの憧れから、そうしたレッテルを貼っているだけ。実態は、欧州型左翼とは全く違う。リアリズムに徹して、現実の問題に対処できないという点では、旧ソ連共産党の民族主義者に限りなく近いのである。ただ、人権を主張するから、自分達がそれに該当するとは露ほどにも思ってはいない。だが、ことあれば、狭量な国家主義者に変貌する可能性は極めて高い。
この勢力と肌が合わないのが、大胆な変格を主張する勢力である。
○反官僚を標榜する勢力は極めて不安定なのが特徴である。新進党の突如の爆砕が典型。
<衆院選> <2012年> ← ・ ← <1996年>
 みんな _5,245,586
 維_新 12,262,144
 新_進 ---------- ← ・ ← 15,580,053
(合計) 17,507,700 ← ・ ← 15,580,053

従って、この勢力はどう変わるかよく見えない。「小さな政府」志向にも見えるが、おそらく、脱官僚というスローガンにあわせているだけ。この勢力の欠陥は、安全保障・外交分野で単純反米主義的勢力を抱えてしまう点。要するに、現実を直視せず、民族主義思想を打ち出すことに熱心になりがち。どこからどう手をつけるかの実践的シナリオは作れそうにない。土着勢力を基盤とする自民党や、現実的利益を重視する公明党とは、根本的には水と油と見てよいだろう。この勢力が伸張すれば、土着組織はその流れに合わせて方向を調整するだけのこと。
国粋主義的な組織に映るから、左翼勢力とは犬猿の仲に見えるが、日本の左翼は国家社会主義思想と親和性があるので、体質的にはよく似ている。ことあれば、大合同ということさえあり得るかも。

こうして眺めてみると、マスコミが政局報道しかできないのも当たり前かも知れぬ。土着勢力 v.s. 条件闘争反土着勢力 v.s. 反企業的民族主義勢力が三つ巴で拮抗状態なのだから。
○2012年の集票力
 (主 流)土着勢力 16,623,542
       公明党 7,116,265
     [合計]−−−−−− 23,739,807
 (反主流)条件闘争的反土着勢力 18,163,470
 (亜 流)反企業的民族主義勢力 17,507,700
三つ巴状況は、良く見れば、昔からほとんど変わっていない。変わったのは公明党が自民党と組んだというだけ。そのことが、自民党から純民族主義勢力が離れざるを得なくなった要因でもあろう。しかし、1996年と全体の構造が変わった訳ではない。つまり、小泉シナリオの郵政選挙と小沢シナリオの政権交代選挙とは、構造をそのままに、鵺的に「新興」を装って集票を試みたものでしかなかったということ。
○1996年の集票力
 (主流派=与党)自民党 18,205,955
 (反主流=野党)左派系 16.817.644
 (亜流派=新興)新進党 15,580,053
ここで注意が必要なのは、3つのカテゴリーに分けてはいるが、どれもが思想性バラバラ集団という状況。当然ながら、こうした括りに当てはまりそうにない主張を繰り広げる勢力も内部に抱えていることになる。実態はグチャグチャなのである。従って、獲得議員数を見て、安定政権が樹立されたように見えても、鮮明な方針を打ち出すと内部分解が始まり、ドロドロとした混迷政治に陥ることになる。この防波堤が官僚制度であり、脱官僚支配を訴えた政権交代が逆に官僚依存政治に進むかしかなかったのも当たり前といえば当たり前。

まあ、わかりずらい政治構造ではあるが、要は、こう見ればよいのである。
○土着勢力(主流)の特徴
 ・支持者の実利を失わないような運営。
 ・従って、ズル賢い政治屋が横行しがち。
 ・外部からは、日和見的な民族主義に映る。
 ・根は、土着社会主義ということ。
○条件闘争的反土着勢力(反主流派)の特徴
 ・屁理屈を大切にする運営。
 ・従って、ワルの政治家が権力を握りがち。
 ・外部からは、表面的な反民族主義に映る。
 ・根は、規制社会主義ということ。
○反企業的民族主義勢力(亜流)の特徴
 ・独自の美学的判断を基調とする運営。
 ・従って、敵意を振りまくカリスマが好まれがち。
 ・外部からは、排他的な民族主義に映る。
 ・根は、国家社会主義ということ。
はてさて、この状態で、どれを選ぶか。はっきりしているのは、たいした問題がないなら、土着型で行くのが無難である点。しかし、その路線は税金バラマキだから、国家財政破綻に繋がる。といって、他に乗り換えると、なんとかなるものでもない。
良くも悪くも、これが日本の現実である。

(データソース) かんべえの不規則発言 「比例代表得票数一覧」 2012年12月19日 溜池通信 ・・・ 「いろんな風に使えるデータだと思います。」
<衆院選> <2012年> ← <2003年> ← <1996年>
 投票者 60,179,888 ← 59,102,827 ← 55,569,195
 自_民 16,623,542 ← 20,660,185 ← 18,205,955
 新_進 ---------- ← ---------- ← 15,580,053
 公_明 _7,116,265 ← _8,733,444 ← ----------
 その他 ___697,779
 みんな _5,245,586
 維_新 12,262,144
 国民新 ____71,102
 民_主 _9,628,483 ← -22,095,636 ← _6,001,661
 未_来 _3,424,071
 社_民 _1,420,928 ← _3,027,390 ← _3,547,240
 共_産 _3,689,988 ← _4,586,172 ← _7,268,743


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