森での獲得経済の時代、キノコは重要な食料とされていた筈。小生は、日本列島で土器が普及したのは2万年前辺りではないかと見ているが、その頃の鍋料理はベースがキノコ汁だったりして。干した海藻も調味料として使っていたに違いないし、炙り焼きや石焼きも加えていただろうから、現在の食事に勝るとも劣らない美味しい料理が供されていた可能性はかなり高い。
言うまでもないが、単なる想像。遺跡に食事の残滓が残ることは考え難いから、何の証拠も無い。ただ、キノコ鍋を食べると、キノコ狩りの姿を彷彿させられ、どうしてもそう考えてしまいがち。
そう言いながら、小生はキノコ狩はしない。毒キノコが恐ろしいからである。一般には、そんな臆病な人は少ないようである。確か、今昔物語だったと思うが、結構、当たっているにもかかわらず、気にせず食べたりする笑い話が知られている位だし。今でも、中毒は毎年新聞ダネになるから、怪しいキノコでも食べて見たくなる人は結構多そう。
日本人はキノコ好きと、キノコビジネスに熱心なフランス人から聞かされたことがあるが、その通りなのかも。その方によれば、アングロサクソン系はキノコ狩は嫌いなのだとか。そりゃ、フグを食べようとしない人達には無理な話である。
ただ、英語名を眺めてみると、キノコそのものには相当関心がありそう。決して、日本に引けをとるようなレベルではない。それなりに色々と食べているということかも。
○定番
作り茸 Common (White) Mushroom
<原茸 Field Mushroom>
○著名なキノコ
西洋松露 Truffe
杏茸 Golden Chanterelle (Girolle)
山鳥茸 "The King of Mushrooms" (Porcini)
西洋卵茸 Caesar's Mushroom
編み笠茸 Morel Mushroom
エリンギ King Trumpet Mushroom/Eryngii
○各種マッシュルーム
平茸 Oyster Mushroom
花弁茸 Cauliflower Mushroom[Sparassis]
楢茸 Honey Mushroom
袋茸 Paddy Straw Mushroom
榎茸 Golden Needle Mushroom/Winter Mushroom
山伏茸 Lion's Mane Mushroom
芝生茸 Fairy Ring Mushroom
唐傘茸 Parasol Mushroom
○ママ名称の渡来モノ
椎茸/冬茹 Shiitake/Donko
松茸 Matsutake
滑子 Nameko
(ブナ)占地 (Buna-)Shimeji
霊芝/万年茸 Reishi
○それはそうかも知れぬと感じさせる名称
舞茸 Hen-of-the-Woods
栗茸 Brick Cap
扇茸 Rosy Spike-Cap
乳茸 Weeping Milk Cap
木耳 Jew's Ear Fungus
白木耳 Silver Ear Fungus
冬虫夏草 Caterpillar Fungus
(?) Yellow Earth Tongue{Spathularia}
杉平茸[脳症] Angel Wing
瓦茸 Turkey Tail
衣笠茸 Long Net Stinkhorn
鼈茸 (Common) Stinkhorn
滑り猪口 Slippery Jack
裂け鍔茸 Wine-Cap Stropharia
ささくれ一夜茸 Shaggy Mane
藍茸/初茸 The Green-Cracking Russula
○うーむ・・・[毒]と見るべきと思うが。
笑茸 Petticoat Mottlegill (Laughingは別な種)
痺れ茸[幻覚症] Magic Mushroom
緑杉茸[毒] Magic Blue Gym
○毒が自明そうな名称
偽黒初[猛毒] (北米存在種のようだが、対応種わからず。)
月夜茸[毒] (日本では有名でも、無いようだ。)
天狗茸[毒] Panther Cap
紅天狗茸[毒] Fly Agaric
卵天狗茸[毒] Death Cap
薄黄天狗茸[毒] Jeweled Death Cap
毒鶴茸[毒] Destroying Angel
毒紅茸[毒] The Sickener
大笑茸[毒] Laughing Gym
苦栗茸[毒] Sulphur Tuft
こうして眺めてみると、日本名は「○○茸」とすることになっているようだ。漢字名称にするためのルールなのだろう。
この漢字「タケ」だが、「耳」に違和感あり。しかも、「竹」と間違いかねない発音で、腑に落ちぬ。
それだけではない。和風一般名の「キノコ(木の子)」も不可思議な名前だ。「竹の子(筍)」とは違うからだ。どうしてもそう呼びたいなら、国字を作ってもよさそうなもの。それこそ、木偏に子でよさそう。
方言で眺めてみると、奇妙な現象に気付く。「タケ」は近畿辺りの一部でしか使われていないのである。日本書紀に記載されている、古い言葉の割りには、普及している言葉とは言い難い。一方、標準語キノコは東日本一帯。どうも、西日本では、タケとかキノコとは呼ばれていないようなのである。ナバあるいは、ナーバらしい。そして、「耳」に関係しそうな、「ミミグイ」という言葉も使われているとされている。
うーむ。
こりゃ、拙いぜ。沖縄に行けばわかるが、「ミミグイ」って、キノコとはいってもキクラゲ(木耳)のこと。所謂、柄があるのはナーバとかチヌクとされていた。後者は掲載されていないがどうなっているのか。
面白いのは、北陸(越)の言い回し。「コケ」。言い得て妙。
そうそう、鎌倉時代辺りから、キノコが主流になっていったらしいが、もともとは茸の総称は「クサビラ」だったそうである。そりゃ、「草片」で、鍋に入れる蔬
菜、茸、獣肉等の切れ端を指す用語ではあるまいか。
(本) 佐藤亮一 監修:「お国ことばを知る 方言の地図帳」(「方言の読本」増補改定版) 小学館 2002年