■■■■■ 2013.1.29 ■■■■■

  「不都合な真実」第二弾

この1月、地球温暖化問題で活躍中のマーク・ライナス氏が、遺伝子組換え作物反対からの転向を表明。どの程度反響があるのか見ていたが、黙殺されるのかな。長時間のスピーチだったらしく、長文が公開されている。
これぞまさしく「不都合な真実」話。当たり前のことが述べられているだけに過ぎない。
まあ、いつかはそうなると思ってはいた。当たり前だが、温暖化阻止なら原子力発電容認しかない訳で、その理屈なら反バイオでいられる訳がないからだ。
ただ、温暖化とバイオを科学的論拠という視点で比較するのはなんとも。気候大変動に直面するという予測は、ある前提条件の下では至極妥当だが、それ以上ではなかろう。温室効果より地軸がずれることの方がインパクトが大きい筈で、こちらは残念ながら予測できない。氷河期突入も理論的にはありうる。両者相殺という幸運も可能性としてはゼロではない。従って、小生は、寒冷化も考慮した、気候大変動に耐えるための技術という波に乗りながらの、温暖化防止策を展開すべきと考えるが。
それはともかく、以下のような論旨のようだ。(反対運動の実例部分は割愛)・・・

(反対運動の流れ)
・実験段階のものを食品として流通させるのは不快そのもの。
・しかもそれは米国の大企業が行っていることだ。
・自然界に存在しない遺伝子作出とは、遺伝子汚染に他ならない。
・欧州に、こうした「恐れ」が広がり、原則使用禁止となった。
・GreenpeaceやFriends of the Earthが、この懸念を世界に広げた。

(総括)
・「遺伝子組み換え作物は危険」キャンペーンは大成功を収めた。

(現時点の反省)
・これは反科学運動だった。

(そう考えた経緯)
・地球温暖化現象の検討で、科学的信頼性の考え方を身に着けた。
・政治学や近代史での学びは、こうした理解には役に立たないことがわかった。
・気候変動否定論者説得にかかわり、科学的見方の重要性を説くことになった。
・ところが、遺伝子組み換え問題に関しては、こうした態度をとってこなかったことに気付いた。
・主要な科学的論文に目を通したことさえなかったので、検討してみた。
・反対の信念を揺るがすような結果が示されていた。
・引き金は、反遺伝子組み換え論に対するコメント。
    「大企業による市場開拓反対ということですか?」
・自分の信念とは、「緑あふれる都会」という情緒にすぎなかったことを思い知らされた。
・「フランケンシュタイン」ラベル貼りをしてきたが、本来は反科学運動の方にすべきもの。

(真実)
・害虫抵抗性作物は農薬使用量を減らす。
・害虫抵抗性作物を植えつけると、農民はコスト低減で大きな利益が得られる。
・採種できなくするターミネーター化が進んでいる訳ではない。
・古くからハイブリッド種子はつかわれており、自家採種権喪失問題とは無縁な話だった。
・インドでは、農民が遺伝子組み換え作物を使いたがった。
・遺伝子組み換えは、特定遺伝子だけの変異だが、在来型育種作物はランダム化の結果なので、なにが混ざっているかわからない。
・植物以外からの異種遺伝子の導入は、もともとウイルスによって発生しており、科学の分野では知られている現象にすぎない。

(何故、遺伝子組み換え作物が必要なのか?)
・急速に環境は変化している。
・気候は大きく変動する可能性が高い。
・農業に利用できる耕地面積、水資源、肥料投入量、農薬使用量を増やすことは難しい。
・2050年までに、世界の人々が食べていける仕組みを作る必要がある。

(同様な問題が解決できた事象からの教訓)
・何億という人々が餓死するとの警告が出たことがある。
・しかし、グリーン革命が食糧増産を可能にしたため、この予測は外れた。
・科学技術が問題を解決したのである。

(現在も同じ手が使えるかという視点での懸念)
・バイオテクノロジー拒否勢力が主流になれば、飢餓や生物多様性喪失の危機に直面するだろう。
・厳格な規制があるため、利用には膨大な資金が必要となってしまった。
・従って、オープンソースやパブリックな研究から、解決策が生み出されることは望み薄。
・当然の結果として、利用価値ある作物が登場しても、とてつもない高価格になる。

(認可状況)
・EUは認可凍結状態
・反バイオテクノロジー国では利用不能。(フランス、オーストリア)
・グローバルで眺めると、規制による遅延はさらに進んでいると言わざるを得ない。

(食糧供給状況)
・グローバルに見て、主要作物の単位収量の伸びが低迷してきた。
・人口増加は続いているから、需要増は変わらない。

(研究パイプラインの状況)
・かなりありそう。

(問題解決の桎梏についての考察)
・「有機農業が人にも環境にも良い」との主張は有害である。
・豊かな層だけの話で、低所得の栄養不良層は救えないからだ。
・しかも、その手の作物が健康に良いとの説に対する科学的反証が示されている。
・有機農業の生産性は単位収量でみればかなり低く、耕地面積拡大につながるから、生物多様性に悪影響を与える。
・労働集約的農業でもあるから、価格は上昇する。
・化学物質忌避が環境に良い理由が、信仰的な次元でしかない。(車を拒否して荷馬車を使うアーミッシュ的主張)
・事実から見れば、耕地面積拡大による自然破壊を阻止しているのは、化学物質利用技術にほかならない。
・従って、環境保護主義者が有機農業促進に手を貸すことは自己矛盾。
・しかし、現実にはそんな姿勢が横行している。
・その理由は、技術は危険というドグマ。
・さらに言えば、自然が良くて、人工は悪いという信念。

(ドグマの被害はすでに発生)
・独での有機スプラウト汚染により、2桁の死者と膨大な数の腎不全者が発生。(チェルノブイリ以上の災害である。)

(なにがおきているか)
自然主義的な美学で生きていきたい少数の富裕層が、環境保護に有益である改良作物を絶対に使わせない状況になっている。

(主張)
・持続可能な社会を構築するには、グローバルな規模で、反バイオテクノロジー主義を駆逐する必要がある。
・技術を活用しやすくするために、規制を緩和すべきである。
・古い技術と新しい技術のどちらを使うかは農民の選択権で、その自由を奪ってはいけない。

(原文)
Mark Lynas: Lecture to Oxford Farming Conference, 3 January 2013 http://www.ofc.org.uk/files/ofc/papers/mark-lynas-lecture-oxford-farming-conference.pdf
(The Guardian関連記事)
GM food: British public 'should be persuaded of the benefits' guardian.co.uk, 3 Jan 2013 by Fiona Harvey
GM farming and crops: news and resources round up guardian.co.uk, 6 Jan 2013 by Emily Drabble
(同氏著の邦訳書)
マーク・ライナス(寺門和夫 訳):「+6℃ 地球温暖化最悪のシナリオ」 武田ランダムハウスジャパン (2008/1/31)


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