■■■■■ 2013.3.18 ■■■■■

  お勧め読み物-白川日銀総裁最終講演

日銀ホームページに白川日銀総裁の最終講演録がようやく掲載された。日銀人事も決着がついたから、まあ、頃合。常識人としての、当たり前のことを話しているだけ。ご一読をお勧めしたい。
すでに、日本の財政は破綻している訳だが、それを日銀のファイナンスでなんとか保っている。それをいかに糊塗して、日々の経済活動に支障がでないようにするかが、日銀の努め。・・・とは書いてはいないが。

ともあれ、この状況を突破するには、民間企業によるイノベーション創出しかありえまい。そのために、全体最適化を図る必要がある訳で、その辺りを十二分に理解していた総裁だった。
しかし、バラ撒き政党にとっては、財政規律を言い出すような総裁は目の上のタンコブそのもの。首をすげ替えたくなるのは当然と言えよう。

ただ、日銀総裁人事より、先ずは安定政権の確立が先である。権力闘争ズレした政治屋と、課題設定がさっぱりできない烏合の衆による不安定な政治状況から脱出できるなら、誰が総裁でもかまわぬ。
と言うか、大ウケ狙いの露骨な人事も致し方あるまい。要するに、日銀に大々的金融緩和をさせようというだけのこと。・・・
・大々的財政バラマキを再開するから、日銀はファイナンスせよ。
・米英型の金融バブル主導路線に習って、経済活性化を図ろう。
・Yenの垂れ流しで円安の流れをつくろう。
  −低迷する輸出企業を助けよう。
  −国産品市場の縮小を抑えよう。
こりゃ、嬉しがる人続出であるが、筋は恐ろしく悪い。
自民党は自由主義経済主義者の組織ではないから、こんな手を使っても、産業の新陳代謝を抑えることはあっても、促進する効果は期待薄だからだ。ただ、ファンドビジネスにとっては大儲けのチャンスが巡ってくるので、一時的に活況を見せることになろう。残念ながら、グローバルな金融業展開で経済を支える構造の国ではないので、その効果は限定的。
一方、副作用はとてつもなく大きい。
特に問題なのは、公共事業。建設・土木セクターはすでに供給力不足状態だからだ。ここが好景気に沸くことになり、実に厄介極まる。自治体はすでに深刻な財源不足に直面しており、これから始まる老朽化インフラ更新のファイナンスは不可能に近いというのに。経済刺激策としては、悪手としか言いようがなかろう。
実質ベースで見れば極端な円高に見舞われたとは言い難い状況で、円安誘導というのもどうかと思う。技術競争力基盤を喪失し、ブランドイメージに頼るしかなくなった企業を助けるような策は奏功するどころか逆効果になりかねまい。改革の先送りをさせかねないからだ。しかも、折角本格的に始まりかけた海外直接投資費用が急激に膨らむことになる。一方、ドメスティック産業セクターでは、ユーティリティや調達コストが一気に跳ね上がる。人口減と老齢化による需要減に対応した供給能力削減を避け、新しい需要喚起能力を欠く地場産業が、これにどう対応するかは自明。この先、どうなることやら。

日銀が超金融緩和策を打ち出したところで、どうにもならないのは誰でもがわかっていること。
銀行にも、企業にも、カネは大いに余っているからだ。国内に投資する先がみつからないし、海外投資は、覇権国ではないから、逡巡せざるを得ないから当然の結果。ほとんどの産業セクターで自由主義経済ではない仕組みが貫かれている以上、金融政策で民間投資が活発になる理由はどこにもないのである。従って、カネが回る先は、資本コスト割れでも惰性で続けている事業や、税金にぶるさがって利益を出す事業となる。もちろん、ニーズに応えるべき事業企画などその気になればいくらでも生み出せる。しかし、その手の新規事業は、既存の仕組みとの齟齬を必ず生み出す。そうなれば、そんな事業は潰される可能性が高い訳で、にもかかわらず投資しようと動くとしたら、そこには何か裏があると見るべき。それが、日本の実態である。これが変わらない限り、今の状態から脱することはどう考えても無理。

自民党の支持母体には、生産性が低いセクターが多い。地方の末端組織は、そうした仕組みを守ることがレゾンデートル。バラ撒きと、保護施策を実現させるための組織である。新陳代謝を図る政策が打てる筈がないのである。そんな政権下で、どんな経済理論を持ち出そうと、中央銀行にカネをじゃぶじゃぶ流させたら、行くつく先はわかりきったところ。
ただ、短期的には金融バブルが生まれ景気が上向く可能性は高かろう。これは、一種の成長の先喰い。自由経済を信条とする米英の政策を踏襲しただけだが、社会主義的経済が真似するのだから、活況に繋がることはなかろう。しかも、金融と軍事の覇権国でもないのだ。
ともあれ、この路線を選択した以上、覇権国との共通経済基盤作りは急務。それなくしては安心して海外投資ができないからである。それを、どこまでやりきれるか。

こうして全般を眺めると、玉虫色の政策で、なんとか丸く治めようという政治を志向していそう。そんなことが可能な筈はなく、結局のところバラ撒きで適当にお茶を濁すことになるのだろう。それが一番実践的と考えているのかも知れぬが、借金をさらに積みあげ、問題を先送りするだけに終わるのではなかろうか。

(リリース) 日本経済の競争力と成長力の強化に向けて:日本経済団体連合会常任幹事会における白川総裁講演 2013年2月28日[作成3月15日]http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2013/data/ko130315a1.pdf


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