■■■■■ 2013.5.6 ■■■■■

  解説本より、財務相講演録を推奨したい

本屋の平積はアベノミクス本だらけ。おそらく、連休に読んだ方々も多いことだろう。どんな内容の本が多いのか全く知らぬが、小泉内閣発足時を彷彿させる動き。本だけの空回りにならなければよいが。
小生は解説本より、少々古いとはいえ、麻生財務大臣講演録をお勧めしたい。

ただ、安全保障についての強調箇所は考えもの。
米国のように、様々な意見が飛び交う国だと、統一見解を読むのが骨だが、どう見たところではっきりしているのは、「第二次大戦の戦勝国が敷いた安定の仕組みを壊すな」との姿勢。どこかでガラガラポンが始まったら、ドミノ現象が発生しかねないので、それだけは阻止しようと考えているに違いないのである。従って、この体制を根底から見直そうと聞こえかねない提案は避けた方がよかろう。口に出さないだけで、一悶着間違いなしだから。そうした観点で、海外でどのような政治家と見られているか考えずに、正論を声高々に語るのは、国内的には良いだろうが、国際的にはプラスになるどころかマイナスになる可能性も考えて欲しいもの。下手すると、孤立化を仕掛けられたりしかねないからである。簡単に言えば、米国は、自由主義の理念が揺らぐことはないが、現実主義の国であり、日本より中国との関係が重要ということ。

例えば、中韓が閣僚を欠席させたアジア開銀総会で、「日本はアジアの一員として、アジア各国による努力を下支えしていく決意だ」というだけのなんの変哲もない演説が、米国ではどう見られているのか十分注意して欲しいもの。米国政府は、"一貫して"、日本独自の動きに対して横槍を入れてきた歴史があるのだから。そうそう、インド商工会議所連盟で、「われわれは過去1500年以上の長きにわたり、中国との関係が極めてスムーズにいったという歴史は過去にない」との"事実"をストレートに語ったようだが、それが波紋をおこさないか気になるところ。日本は軍事的に米国の傘の下で生きている国であり、それを変えることが米国から期待されているとは言えまい。そもそも、米国が日本を"最"重要パートナーと位置付けている筈もなかろう。鳩山首相時代ほどではないにしても、オバマ大統領の安倍首相への"歓待ぶり"がそれを如実に示している訳で。

それはともかく、アベノミクスについての財務相解説はまともだしわかり易い。日銀前総裁の日本の病の診断とたいした違いが無いのも特筆もの。
  お勧め読み物-白川日銀総裁最終講演[2013年2月28日] (2013.3.18)

要するに、(1)日銀が金融緩和の名目で、大量に国債を引き受け、(2)政府が大盤振る舞いして実需を膨らませ、(3)その流れのなかでTPPと大胆な規制改革をするということ。・・・言うまでもないが、(3)ができるくらいなら1000兆円もの借金が積みあがることはないのである。
自民党とは(3)をなんとか先延ばしすることがレゾンデートルの「大きな政府」志向の政党だから、どうにもならなかったともいえる。実際、そこから脱皮すると称した小泉政権にしても、掛け声だけで、満足な規制緩和は何ひとつできずじまい。銀行の不良債権処理の推進だけは二重丸で、地方自治体のバラ撒きを減らしたのも丸だが、そこですべてが終わったと言ってよいだろう。引き継いだ第一次安倍政権が一所懸命に元に戻したからである。
要するに、米英のように、中央銀行の大規模な金融緩和が経済成長に繋がることは期待薄。単なる政府予算の垂れ流しで終わるだけ。その辺りが、海外はよくわかっていない。
しかし、アベノミクスを始めてしまった以上、後戻りはできない。バズーカ砲は1回しか撃てないからである。失敗すれば、長期金利が上昇し、国が借金返済できなくなり、住宅ローンも焦げ付くし、国債を大量に保有する金融機関の経営も揺らぐことになり、どうにもならなくなるだろう。まさにパールハーバーのようなもので、一過性の輝きは生まれるものの、その先は薔薇色の世界どころではないのである。
今の状況は、まさにパールハーバーと全く同じで、支持する以外にない状態に追い込まれた訳である。しかし、実態と言えば、円安と株高実現で大喜びの図が生まれ、およそ緊張感とはほど遠い状況。なにせ、何の苦痛もなしに、繁栄を謳歌できると考えている人だらけなのだから。そのような緊張感無き楽観主義から抜け出ることができるかが問われていると言えよう。

それはともかく、麻生財務相の指摘は的確である。
 ・銀行は自分たちの不良債権の圧縮にしか関心が無く、
  企業は負債の返済しか考えて いませんでした。
 ・日本企業は、
  将来の成長につながる新たなアイディアや製品に投資するよりも、
  賃金カットでコストをぎりぎりまで引き下げることを選びました。
 ・労働組合側も雇用を守るために、
  賃金カットを受け入れました。
 ・お金の価値は、モノに対して相対的に徐々に上がりました。
 ・政府以外のほとんど誰もが投資したがらぬということで、
  成長は減速しました。
 ・自分たちが悪いサイクルから逃れられなくなっていると気付いた時には、
  もう手遅れです。
 ・リスクテイクの精神を呼び覚ますには、
  経済の絵姿を劇的に描き直さねばならぬと考えました。
  とにかく、最初のバズーカは大胆な金融政策です。
  ---まさに「衝撃と畏怖(shock and awe)」を実行しました。

ということで、パールハーバーと同じで、後は野となれ山となれ、走るしかないのである。協力する以外に手はなかろう。
財務相の主張は正論なのだから。

ただ、自民党支持基盤の姿勢が変わった訳ではなく、突然にして、こんなことができるとはとうてい思えまい。でも、踏み切った以上とことんやり抜くしかない。行くところまで行く以外に手はない。こうなると、民主党は不要というか、邪魔な存在以外のなにものでもない。
 ・政府にとって真の課題は、「解き放つ」ことです。
 ・私たちがすべきことは、
  ただ、企業自身が輝く に任せることです。
 ・日本は、
  ジョン・メイナード・ケインズが言うところの、
  アニマルスピリットが成功を呼び込む場所、
  イノベーションのための場所であらねばなりません。
まさしく、その通り。

(リリース)
アベノミクスとは何か 〜日本経済再生に向けた日本の取組みと将来の課題〜 麻生太郎 副総理兼財務大臣兼内閣府特命担当大臣 平成25 年4 月19 日/米ワシントンDC、CSIS http://www.mof.go.jp/public_relations/statement/other/20130419.pdf
(ニュース)
麻生氏 アジア開発銀年次総会で演説 5月4日 19時38分 NHK
「中国とスムーズにいった歴史ない」麻生副総理 日印米豪の協力強調 2013.5.5 01:12 産経


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