■■■■■ 2013.7.21 ■■■■■

  「肥満を防ぐ遺伝子を新発見」報道を眺めて

「【肥満を防ぐ遺伝子を新発見】遺伝子の違いで体重2倍のマウスも」(47ニュース-共同通信 2013/07/19 11:38) とのニュースタイトルにはビックリ。

多分、肥満症状を呈さない個体には、当該遺伝子に異常がないことから、これは凄い発見となったのだろう。まあ、「遺伝子異常が肥満の原因かも」という程度ならわかるが、これはセンセーショナル過ぎる。

と言うのは、小生は、たった1つの遺伝子変異で疾病が説明できるのは例外的なものに限られると見るからだ。例えば、癌や肥満だと、見かけは似ているが、明らかに様々なタイプがある。にもかかわらず、一律に原因同定を図るのは無理筋と考える訳である。
当該遺伝子の異常で肥満が発生するとしたら、それは限定的な例だと見ざるを得ない。
癌や肥満に限らず、特定の遺伝子異常や欠損が発症原因との研究成果はそれこそ年中行事。間違いでなくても、包括的な指摘ではないことがわかり下火になるのが普通。
ただ、なかには筋がよさげに見えるものもある。そうなると、薬剤開発が進むが、たいていは途中で断念の憂き目に合う。機作が予想と違うことが多いからだ。しかし、それはそれで知見が増えるから決して悪いことではない。イノベーティブな発想を生む土壌作りになっているからだ。

それはともかく、今回の成果の意味を判断する上で重要なのは、肥満症状を呈する人のうち、どのくらいがその遺伝子欠損者かという点だろう。もちろん、マウスでなく、ヒトでの話。上述した観点で考えるなら、せいぜいが数%の筈。
そうだとすれば、その数%の人達だけを対象にする限りは、【肥満を防ぐ遺伝子を新発見】と言える。だが、それ以外の人への適用は論理的に無理。
実際はどうなのか、論文を読み込む素養がないからわからぬが。

それに、一般には、欠損があっても、他の遺伝子がカバーすることで発症しないことも少なくない。ヒトのシステムは単純ではないのである。
そんなことは、癌を殺す因子が発見された1980年頃から薄々わかっていたこと。理屈では効く成分の筈だが、そうはいかなかったのである。その理由としては、免疫システムは複雑系というのが一番納得性が高かろう。
それは、おそらく、滅茶苦茶込み入っているということではない。単純な原理の世界であっても、様々なものが互いに作用し合うから、ある一つのミクロの動きを増幅させても、予想した結果が得られないだけの話だろう。従って、同じ処置をしても、個体によって結果が全く異なることは十分あり得る。

そういう意味では、漢方の考え方は一理ある。漢方は副作用が少ないとかいう理解不能な理屈をつける人が多いが、その特徴とは、処方はあくまでも個人別という点。患者の体質を見抜いて、その症状に合う薬剤を選び、投与量も設定するのが大原則。ただ経験則と言っても、それは大まかなガイドラインにすぎず、診断者のセンスで決めることになる。
雑多な原因で症状を呈する患者を一括りに処方したりしないのである。
従って、よく似た肥満者であっても処方は異なってくる。西洋医学的に言えばテーラーメイド医薬の世界。残念ながら、遺伝子診断はまだまだそこまで行きつかない。
しかし、だからといって、漢方が先進的とは思えない。理念はわかるが、診断者の直感に頼る治療だからだ。それが、妥当な処方になるとの根拠は余りに薄弱。ただ、診断者の力量を信じることができるなら、プラセボ効果は抜群なのは間違いあるまい。
もっとも、全くのプラセボという訳ではない。明らかに、人体になんらかの刺激を与える訳で、システム全体の変化を誘導しようとしているのは間違いないからである。それがプラスになるかマイナスになるかはなんとも言えぬ訳だが。

こんな風に考えると、この研究成果は結構重要な点を指摘しているように思えてくる。
「どの遺伝子か」という話として見なければ、ある意味、極めて重要な点を示唆したともいえそう。
・・・要するに、肥満調節は「脳」が司っているということ。脂肪が溜まっているといっても、それは何年も貯蔵されている訳もなく、日々更新されている筈。代謝方針が変われば肥満は解消されるのは間違いなかろう。

つまり、どのような「姿勢」で当該カロリーを摂取し、消費しているかで、肥満になるかが決まるということ。
基礎代謝量、運動量、摂取カロリー量が全く同じでも、生きる「姿勢」が違うと異なる結果に繋がるのでは。その「姿勢」の選択が、遺伝子の違いに結びつくのかはなんとも言えぬが。
簡単に言えば、無為にダラダラ食べて運動しているだけだと、劇痩せや劇肥りになりがちということ。

(論文) Masato Asai, et al.: Loss of Function of the Melanocortin 2 Receptor Accessory Protein 2 Is Associated with Mammalian Obesity Science 19 July 2013
(記事) Gene Mutation in Mouse Study May Point to Obesity’s Cause By Elizabeth Lopatto - Jul 19, 2013 1:01 PM GMT Bloomberg


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