■■■ 2012.11.14 ■■■ ハワイ語の数を眺めて 日本語の数表現は実に面白い。様々な言い方が同居しているからだ。 例えば、麻雀のピンズ(筒子)牌を日本語らしくないように言う。「いー、りゃん、さん、すー、うー、ろー、ちー、ぱー、ちゅー」といった具合。これが、マンズ(萬子)牌だと、普段の数字の読み方で読む人もいたりと滅茶苦茶。しかも遊びながら、コーヒーふたつくれる、などと和語もつかいつつ。これが亦楽しからずや、なのである。 西洋渡来ゲームになると、当然、そちらの言語を使いたくなる。カードなら、ワン・ペア、スリー・カード式になる。テニスは完全に英語ベース。野球もそうなりそうなものだが、そうでもない。9(きゅう)回裏2(ツー)アウト、バッター三(さん)振、と言うのが通り相場。 外来語好きだが、こうした混交状態を最も好む体質があるのは間違いなさそう。 だいたい、標準用語そのものが渡来語だ。 1.イチ、2.ニー、3.サン、4.シー、5.ゴー、6.ロク、7.シチ、8.ハチ、9.キュー、10.ジュー この程度なら、それほど驚くような話ではない。土着語が覇権的言語に合わせる動きは当然のことだからだ。印欧語は、祖語が分裂したように語られるが、見方を変えれば、それぞれの土着語がサンスクリット流の標準化で一大言語群化したとも言える。 しかし、日本語の場合、標準用語を使う一方で、それ以前の言葉もそのまま残し、二刀流、三刀流、はたまた四刀流を身に着けるという離れ業をやってのける人々だらけ。日本人以外にはなかなか真似できまい。雑種民族としての矜持ということかも知れぬ。ともかく、数字の呼び方にはニ系列あり、時に混ざり合ったりするのだから、非合理的なことこの上なし。 1.ヒとつ、2.フたつ、3.ミっつ、4.ヨっつ、5.イつつ、6.ムっつ、7.ナナつ、8.ヤっつ、9.ココノつ、10.トお(トう) こちらは、おそらく、相当古い言葉が含まれていると思われるが、どれが一番古いのかとか、それはどんな概念から生まれたのかとか、外来語はあるのか、等々、誰も皆目わからず状態。もちろん、仮説が無いとは言えないが、ゴロ合わせ的な理屈でしかないから、信用に足るようなものではない。 素人目にも、はっきりしているのは以下の点のみ。 ・基本は2音節語である。 -頭の1音節だけでも通用する。 -必要ならこれに「つ」という接尾語をつけ3音節にする。 -2音節の後は「つ」類似語尾で、発生しやすいように音韻変化する。 -7と9は若干例外的。 ・10だけは「つ」という接尾語をつけない。 -数列の終わりを意味している。 ・倍数関係にある数は同一子音で始まるとの指摘あり。 -4が「Yi」で、8が「Yu」ではないからルールではないかも。 コレ、明らかに、文字使用開始以前の言葉である。そこで、無文字言語だったハワイ語と一寸比較してみたくなった。 ついでに、何故、南島語にこだわるのか簡単にご説明しておこう。・・・南島語の広がりは驚くべきものがある。東はイースター、西はマダガスカル、南はニュージーランド、北はハワイ。数字は音韻から見て、素人が見ても同根。そんな状態でポリネシア系が日本列島に到達していない理由を述べる方が難しかろう。ところが、数字では、日本語と似ているものがさっぱり見つからない。不思議。 それでも、検討する意味は少なくない。なんといっても、日本語同様に独自の文字を開発する必要性を感じていなかった言語だからだ。ハワイ語にしても、アルファベット記述化はごく新しい話。口述を英語音声化したにすぎない。いわば古事記の世界。そして、その古事記で思い出すのは、枯野という高速船。どう考えても、これは南島系。残念ながら、イースター島に端的に見られるように、大木は南島全域で消滅してしまったから、その木を使った船を表す単語もはるか忘却のかなただろうが、音からいえばカヌーに近そう。唯一、間違いなさそうなのは、「野」の音とはハワイ語のnui(大きい)という点ぐらいか。 こんなことを考え、南島語を眺めてみたくなった訳。 さて、話を元に戻して、以下、わかり易いようにハイフンを挿入してハワイ語の数を書いてみよう。 (1) ‘e-kahi [‘e-は数詞用の接頭辞だろう。] (2) ‘e-lua (3) ‘e-kolu (4) ‘e-hā (5) ‘e-lima (6) ‘e-ono (7) ‘e-hiku (8) ‘e-walu (9) ‘e-iwa (10) ‘umi (11) ‘umi-kūmā-kahi [=10+1] | (19) ‘umi-kūmā-iwa [=10+9] (20) iwakā-lua [=10x2] (21) iwakā-lua-kūmā-kahi [=10x2+1] | (30) kana-kolu [=10x3なら、koluはluaか?] | (40) kana-hā [=10x4] | (60) kana-ono [=10x6] | 英単語ハワイ語化語彙 (100) haneli、(1,000) kaukani、(1,000,000) miliona、(1,000,000,000) piliona 1から9までは、(4)hāを除けば、基本は2音節語と言えそう。10が、いわばアガリ。10以降だが、構造的には現代日本の数字表現とほぼ同じの十進法。形容語は前置きではなく後置きの言語だから、11は「十一」と表現できず、「十と一」のように間を分ける「と」という言葉を入れる必要がある。20も「二十」ではなく、「十二」(「十だが、二つある状態」)という表現になる訳だ。 さて、この(5)limaだが、腕ないしは手という意味もある。指はmanamana limaと意味深。まあ、5は、常識的に見て、5本の指を現すのだろう。しかし、親指はlima nui(大きい手)、小指はlima iki(小さい手)であり、(1)kahiに関係しているようには見えない。manaの指として重要なのは、manamana kuhi(人差し指)のようが、(2)luaの意味は洞窟で、(4)hāの意味はわからなかったが息の音のような感じがするから、指を示す言葉ではなさそう。 一方、人称代名詞の区別から見て、人数に関しては、1人、2人、沢山という概念があるから、3つの数字が最初に生まれたということだろう。例えば、(1)kahi、(2)lua、(沢山)‘umiということ。そして、序所に新たな数字が加わっていった訳である。例えば、片手の指の数として5とか。それぞれ、なんらかのシンボルがあるということ。そして、10進法が到来して、(沢山)が(10)という数字になったと見るのである。 日本語には2人という概念の人称代名詞は無いから、こうした考え方を取り入れることはできない。しかし、よく似た発想をしていた可能性はある。「半分、在る」と「沢山」だったかも知れないから。つまり、「1、2、沢山」から始まった訳である。次ぎに生まれたのが3だが、同時に倍数の6が生まれることになる。そうなると、間にある4と5の表現も必要となる。さらにもう一歩進めると、4の倍数8。ここまでくると沢山は8ということになる。日本語では、ここが頂上だったのでは。7はお呼びで無い数字だったかも。 そのうち10進法が入ってくると、まず10が設定され、9が必要となったということでは。言うまでもないが、日本人的特性を考えれば、10進法が両手の指の数から来ているから、「ヒ、フ、・・・」をどのようにして手で数えたらよいか、研究したに違いない。指の動きの語呂合わせも創作して、覚えやすくしたりと。 (ご注意) ハワイ語のウエブのリソーシスを利用したが、原典不明なものだらけなので、参照先未記載とした。単語の発音は地域差も大きいし、聞き取り者の音韻学熟練度も関係するので、単語の綴りが違ってもおかしくないと思われる。 「超日本語大研究」へ>>> トップ頁へ>>> (C) 2012 RandDManagement.com |