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■■■ 超日本語大研究 2015.12.2 ■■■

12月表記方法の多彩さ

七十二候の「橘始黄」は、Wikiでは"黄葉し始める"だが、"実が黄色になり始める"ではないか。落葉樹の黄葉に引き続いて、常緑樹の緑実さえもがほんのうっすらでしかないが黄色になってきたという季節変化を描いたのでは。小生は、素敵な時候表現だと思う。常葉の木と詠われていても、そこまで行くのを目にして、シミジミ感が湧いてくるということ。
  「冬十一月左大辨葛城王等賜姓橘氏之時御製歌一首」
  橘は 実さへ花さへ その葉さへ
   枝に霜降れど いや常葉の木

    [万葉集#1009]

十二月】用の言葉は誰でもよく知っているが、手紙文の冒頭挨拶例にはさらに様々なパターンが用意されている。小生的には以下を典型としたい。
  年の瀬もおしせまり、
   寒気いよいよつのり、
    多忙のおり、・・・


公的に制定された暦では最後の月だし、冬の季節としての厳しい気候に日々さらされるから、その辺りを表現する用語は存在して当然だが、多忙というのは商品経済が相当に発展してからではないか。雪中を出歩いて長時間仕事をする訳にはいかんだろうし、せいぜいが家内手工業どまり。燈火の関係上それもたいした時間ではない。

と言うことで、ようやくにして、シワスの語源は"古いことなので分からない"が定説となったらしい。
師走/師趨
万葉集では十二月を「しはす」と読んでいたらしい。どのようにして推定するのか方法論は知らぬが。そうだとすれば、師走は後世の当て字ということになる。
    「紀少鹿女郎梅歌一首」
  十二月[しはす]には 淡雪降ると 知らねかも
   梅の花咲く ふふめらずして

    [万葉集#1648]

常識的には、この言葉が指すのは、参拝旅行的講の組織化に、全国津々浦々まで東奔西走していた御師の姿だろう。言ってみれば、・・・。
【[多]忙月
そもそも、寺院事業経営者やその従業員なら走り回らざるを得まいが、お坊さんが修行でもないのに走る必要などない訳で。
と言っても、宗派対立が激化していた平安末期の高僧達は、正月を迎えるための準備指導のために、必要とあらば馳せ参じたに違いなく、そんな寺院ジャーゴンはあったに違いなかろう。
師馳

気になったのでレファレンスサービスを眺めてみたら、12月の別名は数々ある。というか、ありすぎ。
 『日本史必携』・・・約60例掲載
 『日本語大シソーラス』・・・22例掲載
 『暦の百科事典』・・・39例掲載

中国語の別名は、想像通り、天子設定用語。
臘月 月 臈月 猟月 (窮臘)】
農暦冬至(旧暦11月)後の第三戌の日に狩猟の成果を生贄とする「臘」祭が挙行されていた。これを重視したため、漢代から臘月と呼ぶことにしたようだ。
 嘉平月[夏]
 清祀月[殷]
 大臘月[周]
 臘月[漢] (漢應劭:「風俗通義」)

唐代の詩にも登場しており、完璧に定着した用語と見てよさそう。
    臘月独興」 于時年十有四  菅原道真
  玄冬律迫正堪嗟 還喜向春不敢
  欲尽寒光休幾処 将来暖気宿誰家
  氷封水面聞無浪 雪点林頭見 有花
  可恨未知勤学業 書斎窓下過 年華


    「題平泉薛家雪堆莊」  白居易
  怪石千年應自結 靈泉一帶是誰開?
  蹙為宛轉青蛇項 噴作玲瓏白雪堆
  赤日旱天長看雨 玄陰
臘月亦聞雷
  所嗟地去都門遠 不得肩舁毎日來


尚、夏暦は「子」から始まるので、嘉平月とは十二支表記だとこうなる。・・・
 [冬至月/現11月]建子之月
 [現12月]建丑之月/牛月
 [太陽暦正月]建寅之月

【暦上の暮れ】として、勝手に色々と名付けても、通じるということ。「月」ということでなければ漢詩の描写用語になろうが、具体的に暦に当てるのは天子の領分に手を出すということで中国では嫌がられるのでは。一方、日本語世界では、TPOに合った用法であれば大歓迎。機智に富んだ表現と賞賛の対象になるのであろう。だからこそ和の月名に人気が湧くのだと思われる。・・・
 暮歳 極月 限月 
  終月 除月 余月 年満月
  限りの月 果ての月 暮来月
 星回節
 凋年

一種のアナロジー的なものもアリ。
乙子月 弟月 親子月
乙子=末子ということ。
大呂
中華帝国公認音楽の標準12楽音(十二律)の一つ。

当然ながら、「冬」の季節感での代用も可能である。一種の季語的表現と言えよう。
【冬の気候取り込み】
 極寒 栗[]烈 鑿氷
 氷月 冰月 厳月 雪月
 三冬月
 季冬 晩冬 暮冬 末冬
  厳冬 隆冬 残冬
  黄冬 窮冬

【春の前としての情感表現】
 春待月 梅初月

しかしながら、気候以外となると、同様に使えるかは注意を要する。
【冬の動植物漢字】はあるにはあるが、月名としては余り見かけないようだ。そもそも、柊を除けば、何を指すかわからぬものだらけだが。
 柊月 月 月 月 

ただ、茶の湯の世界に入り込むつもりなら、師走など使わず、実用的語彙を用いるのは当然の話。
茶月
釜を冬用に代える時期ということだろう。一方、華道は"師走の花"としか言わないようだ。

それにしても、日本語のこの語彙の多さには、今更のように驚かされる。

(参照) 「月の異名を調べるには」 戸田市立図書館 平成23年12月23日

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