表紙
目次

■■■ 本を読んで [2015.9.28] ■■■

貝殻写真集を眺めて

生物学者の図鑑といえば、ところどころに命名の薀蓄があったり、発見の逸話話が加えてあったりすることが多いが、その手の本とはいささか違い、学者の学術的解説がメインではなく、いかにも写真集然とした本に出合った。源氏物語ではないから、短文でいくか。
翻訳本。

学者というより貝殻コレクターが公開した標本のマクロ写真集である。その収集方針がふるっている。珍しさの発想ではなく、ただただ「美しさ」に徹したとか。その姿勢を知れば、プロカメラマンなら、なんとしても写真集に仕上げたくなるのは自然な流れ。
   (C) Paul Starosta photographe naturaliste-Coquillages

ただ美的感覚とはあくまでも主観的なもの。「美しさ」の押し売りに映る人もいそう。
なにせ、ここのところ、そんな図鑑本のラッシュなのだから。一体、どういう加減なのだろう。

原題はなんのてらいもなく、"Shells"。
邦訳になると「不思議で美しい」という枕詞が付随する。
確かに、ママでは売れ行き不振かも。そういう点では、その程度の装飾で購入者が増えるなら結構な話。その目論見での価格になるからだ。
なにせ2007年出版の英語本(版面寸法/レイアウトは違う。)の中古価格は日本の新刊本を上回る。新品だと2万円を越す。それがが、翻訳版になると、少々違うといっても5000円でお釣りがくるのである。実に、有り難い。
・・・図鑑好きなら、宣伝を見た瞬間にスイッチが入ってしまう筈。まさに喉から手が出る状態に陥って、価格などどうでもよくなるだろうが、小生はその範疇には入らない。

それにしても、続けざまの「美しい貝」図鑑の出版には驚かされる。貝殻集めがブームなのだろうか。

ところで、貝殻の美しさだが、花を愛でるようには好まれてきたとは思えない。遺骸だから、そこから生気を頂戴することができないため。
しかし、だからこそ、ただならぬ貝の威力を見出したとも言えよう。護法螺貝、水字貝、里芋貝類、大蔦の葉貝は倭人が霊魂を感じていたようだし、沖縄では今でも水字貝は魔除けの現役。古代から、悪鬼貝や骨貝等の棘には邪を払う力ありと感じていたのだろう。輪宝貝は仏教にあてたのだろうが、法螺貝の音になると、もっと古層の信仰に繋がっていそう。
   「棘霊貝類と重厚霊貝類」[2015年5月14日]

一方、象形となった、貝殻の裂け目は豊穣の象徴とされ、寶貝や子安貝として古代人の心のよりどころにもなった訳だ。

こうした使われ方は「美意識」からとは言い難い。美しいとされたのはもっぱら真珠層の"煌めき"。日本の場合は、特に夜光貝の螺鈿細工が愛された訳だ。装身具としての貝殻は早くに廃れたということ。

こんなことをツラツラ考えながら眺めるのには向いた写真集である。

上述したとてつもない形状の貝がゾロゾロ並んでいるのも面白いが、毛色の変わった貝の観賞もなかなかのもの。
 閻魔の角貝(18cm!) →微小貝データベース by Machiko YAMADA
 仏塔玉黍貝 [photo@Wiki]
 茸玉貝 [photo@Wiki]
 帝王夏桃貝 [photo@Wiki]

そうそう、ヒザラガイがこれほどファッショナブルなセンスを持っているとは露知らず。・・・
 綴火皿貝 [photo@Wiki]

小生としては、写真を眺めていて、寶貝や芋貝はやはり実物でと感じた。出来れば、表面を触りたいし。もっとも、貝殻を拾ったことはあるが、購入をするまでには至ってはいない。従って、審美眼はほとんどゼロと言ってよいだろう。そのレベルの眼力でも、写真に撮られた貝殻は一級品だとわかる。一見の価値あり。

(2015年出版の貝図鑑)
ポール・スタロスタ&ジャック・センダース{高田良二監訳]:「不思議で美しい貝の図鑑」 創元社 2015年8月15日
真鶴町立遠藤貝類博物館:「The Shell 綺麗で希少な貝類コレクション303」 成山堂書店
学研教育出版[奥谷喬司監修]:「美しい貝殻」学研教育出版
武井哲史,黒住耐二[監修]:「美しすぎる世界の貝: 洗練をきわめた配色から神秘のフォルムまで、自然が創る驚きのデザイン」 誠文堂新光社

「でんでん虫図鑑を眺めて」
 本を読んで−INDEX >>>    HOME>>>
 (C) 2015 RandDManagement.com