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■■■ 2015年5月14日 ■■■

棘霊貝類と重厚霊貝類…



 群青の
 海原の果て
 まで続く
 倭人辿りし
 貝殻の道

護法螺貝縦割:鍬形石,有鈎銅釧(男性用釧)
 [→2009年4月3日]
水字貝横輪切:巴形銅器(半腕輪 or ミニチュア)
 [→2007年4月27日]
里芋貝類横輪切:石釧,銅釧,ガラス釧(女性用釧)

大蔦の葉貝頂部切断:車輪石(子供用釧)
 [→2009年5月22日]

長くて本格的な棘が伸びている上に、それが反り返っている貝がある。
沢山の棘というだけでなく、殻口から下に巻棒状の部分が伸びている点も他異質感を与える点だ。
そんなこともあり、印象が強いので、標本を一度みれば忘れようが無い。ただ、こんな貝を拾えるとは思えないが。
厄介なのは名称で、「アッキガイ」とされていて、いかにも覚えにくい。漢字で書いてあれば忘れようがないのだが。
  悪鬼貝/Troschel's woodcock
おそらく、その用途から言えば、魔除貝となろう。鬼で邪を寄せ付けないとい効果を期待したのだと思う。ただ、それは、棘だらけということではなく、天辺から見ると放射状に棘が出ているから。それは、南島の一級品に似ており、代替本土品とされたのだと思う。
その類縁には、全体像から見て、まさにピッタリの命名もある。
  骨貝/Venus comb murex/維那斯骨螺
言ってみれば、これらは棘霊貝類ということ。

これらほどは、棘が発達していないし、骨ばった印象を与えないが、全体の形状は類縁とわかる貝もある。極めて繊細な造形であり、芸術作品的な雰囲気を醸し出しているから、いかにもマニア向け。珊瑚礁辺りに棲む希少種。
  華仙貝/Lischke's Latiaxis/〃氏花仙貝
棘だけが落ちた印象を与える貝になると、おそらく、魔除力は期待薄。しかし、逆に、悪鬼貝を入手したマニアは、お隣に並べたくなりそう。
  土佐螺[トサツブリ],薩摩〃
  紡績車[イトグルマ]/First Pagoda/紡軸螺,(明星〃,華蘚〃,化粧〃)

さて、南島での正真正銘の棘霊貝類の代表と言えばこちら。
文字が使われるようになって、「水」の名前が当てられたのだろうが、文字以前の言い回しは残っていないようだ。
  水字貝/Chiragra Spider Conch/水字螺
  蜘蛛貝/Lambis lambis or Spider conch
  蠍貝/Orange Spider Conch/蠍螺

棘霊貝類とは、信仰対象というよりは、畏怖感を与える貝殻ということ。ギザギザの柊の葉と臭い鰯で邪鬼を追い払うのと同じ効果が期待されていると考えるのが自然。

この手の貝で最大は、大悪鬼貝と思いきや、・・・。
  天狗貝/Ramose murex or Branched murex/大千手螺

分類学上での仲間を見ると、必ず棘がある訳ではない。すでに取り上げた"目"立つ貝も入ってくる。
  籬貝[マガキガイ]/Strawberry Conch/紅嬌鳳凰螺 [→2013年2月1日]

里芋貝類もそうだが、倭人は、この手の貝殻を輪切りにして霊的な貴重な装飾品として大事に使っていたことが考古学的にわかっている。南島で大量に獲って貯蔵していたようで、それを九州だけではなく、下関にまで運んでいた。その先もある筈だ。
そうした類の貝での最高峰ははっきりしている。
  護法螺/Laciniated conch or Heavy frog conch/唇鳳凰螺

本州でも、護法螺に似ている貝がいくつかある。要するに、殻が重厚く、口の袖部分が広がっているタイプ。
  昔袂/Changeable Conch@伊豆〜小笠原

口が大きく広がっているということは、餌の対象が大きいということだろう。その張り出した「袖」部分に関心が湧くと欲しくなるということか。博物学的愛好者向かも。
  水晶貝/水晶鳳凰螺@小笠原・・・どこが水晶か理解できず。
  厚袖貝/Thersite Stromb
  枕袖/Fragile Conch
  しどろ貝/Japanese Conch

こうした一連の貝にも、倭人達は霊的なものを感じていた可能性もあろう。本土の広い範囲で、里芋貝類と共に、南島から調達し、貝輪に加工し装飾品として用いていたからだ。貝殻の重厚感が歓びでもあったのは間違いないと思う。
しかも、そこに霊的なものを感じとっていたのだろう。従って、小生的には、重厚霊貝類と呼びたい。

霊的な感覚は、貝殻よりは、その生前の姿から来ている可能性もあろう。南島では、生きた貝を捕獲していた訳であり、その特徴は「な子[眼]」だから。

整った様相とは言い難いが、「アッキガイ」の仲間と言われれば、無理矢理そう思わされる貝もあるが、名称はバラバラ。
 瓔珞貝[ヨウラクガイ]・・・天蓋装飾用仏具類似
 岩石法螺/Adusta murex/黒千手螺
 鬼栄螺/Asian murex/亞洲千手螺・・・真珠光沢無し
 芭蕉貝/芭蕉螺・・・鰭のような部分が印象的。
 唐犂/Club murex・・・消滅農耕用具なので感覚湧かず。
 枝貝/Dog winkle・・・蔓枝(苦瓜こと、ゴーヤ)か。

尚、大蔦の葉貝とは大型の笠貝である。
   「笠貝類と偽笠貝類」[2015年4月27日]
おそらく、笠貝のママの貝殻に霊的なものを感じたのではなく、貝輪に加工すると、魔除けになるとされたから。考古学者は貝輪の石製模造品を「車輪石」と呼んでいるが、本質的には水字貝的装飾品。棘の抽象表現が車輪石のスポークに当たるだけのこと。
ここで用いられている「車輪」という名称は、「"法"螺」と同類であり、仏教渡来後の用語だから、適当とは言い難い。栄螺類には棘があるが、信仰対象だったとは思えないからだ。例えば、以下の栄螺は霊的な貝とは見なされていなかったと思われる。ほとんどの場合、底曳き網にかかる貝だから、古代には、注目されていなかっただけと言えないこともないが。
 輪宝貝[リンボウガイ]/Triumphant star turban
 針輪宝貝/Yoka star turban/長棘星螺
 日輪栄螺 or ヘリオトロープ貝/Sunburst star turban
   「栄螺類」

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