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■■■ 本を読んで [2015.10.1] ■■■

雑草の話[続]

雑草生態学の専門家の随想本を読んでからかれこれ10年。
   「雑草の話」[2005.10.13]

それ以来ご無沙汰なので、雑草本を読んでみるかという気になった。出版社名が樹木専門的な感じがするから、と言いたいところだがそうことではない。
時折り、科学書新刊リストを眺めていたサイトを眺めていたのだが、多分そのリストにあがっていたから。更新されなくなったようなので、本のメモも捨てようと思ったのだが、そこに記載されていたので、ちょっと気になったのである。
どうしてその時に注目したのかはさっぱりわからぬが。

自然に遊ぶというか、観察すればそこには感動がある訳で、「楽しいゾ」というお勧め本を読んだから気付くというものでもなかろう。
好きな人はもとから好きというだけ。ただ、sのようなチャンスに出会わなくなったのは確か。昔は、オオバコの引っ張り勝負とか、ネコジャラシで擽ったり、はたまた、ペンペン草で遊んだりと、雑草は子供社会に密着していたのだが、そんな文化も廃れているに違いない。

雑草談義で有名なのは、昭和天皇[1901-1989]と田中直侍従[1923-2006]の、吹上御所の会話だろう。・・・
 「どうして庭を刈ったのかね。」
 「雑草が生い茂ってまいりましたので、
  一部お刈りいたしました。」
 「雑草ということはない。」
当事者の気分は別として、実に愉快な会話である。

実際、それぞれ名前がついている訳で、"情緒"を感じさせるものが多い。と言うか、大笑いさせてもらう命名も少なくない訳で。

【タデ系】:犬蓼,痛取(or 虎杖),ギシギシ,姫酸い葉,道柳
【イネ系】:犬稗,力芝,狗の子草,風草,鴨萱,髢[かもじ]草,行儀芝,雀の帷子,雀の鉄砲,雀野稗,庭埃
【ヒユ系】:
【キク系】:タンポポ,荒地野菊,掃溜菊,野襤褸菊,泡立草,生揉,地縛,母子草,父子草,野芥子,姫昔蓬,豚草,姫女苑
【アブラナ系】:犬辛子,道端辛子,透田牛蒡,撫菜,種付花
【シソ系】:踊子草,垣通,仏座
【セリ系】:血止草,藪虱
【クワ系】:鉄葎[かなむぐら],桑草
【マメ系】:烏野豌豆,蓍[めど]
【その他】:大葉子,大狗陰嚢[ふぐり],傍食,蚊帳吊草,小錦草,露草,蚤の衾[ふすま],耳菜草,八重葎[やえむぐら],藪枯,雀の槍,蘿[がが],,蛍袋,狐の孫,猿捕茨,吸葛(or 忍冬),屁糞蔓,紅羊歯

その「雑草」という概念だが、日本の一般通念なら、軽い気分での「邪魔な草」というのが妥当なのではないかと思うが、日本の学者の定義は色々あるようだ。しかし、キリスト教文化の発想で語る人は滅多にいないようだ。

【1】藤島弘純[1933-]支持説
   耕地に生える無用な草本(栽培植物・雑草・人里植物・野草)
【2】沼田眞[1917-2001]支持説
   作物生育を妨害する草
【3】山口裕文[1946-],他,支持説
   野生と栽培の中間の草
【4】田中正武[1921-2001]支持説
   真の野生ではなく、ヒトの生活圏に棲む草
   松中昭一[1928-2014]解説の一般通念
   人間の身の回りに自生する草(人里植物)
【5】稲垣栄洋(祥?)[1968-]支持説
   邪魔モノ扱いされている草
【6】岩瀬徹[1928-]+川名興[1939-]支持説
   栽培利用できなかった草
   (用途が見つかれば非雑草化もありうる。)
【A】アメリカ雑草学会定義
   人類の活動と幸福・繁栄に対して、
    これに逆らったりこれを妨害したりする
     すべての植物

まあ、植生の切れ目をどこに設定するかと、雑草をどの植生で生育するものとするかは、生活視点でかわるのだから致し方なかろう。
原生的植生〜自然植生〜荒地化植生〜人里植生〜農耕地近隣植生〜栽培地植生
JAに限らず栽培者にとっては精力を費やしている植物以外はすべて雑草なわけで、そこらに生えている草を愛でる住民が考える雑草と、概念が一致する訳もなかろう。
例えば、以下のような差である。
483種の雑草掲載・・・広田伸七:「ミニ雑草図鑑」 全国農村教育協会 1996
形質で同定・・・野草・雑草検索図鑑 千葉県立中央博物館・茨城大学教育学部情報文化課程 2010
日常の散歩で、見かける植物を見ての感想・・・本吉總男:「雑草の世界へ」2008

ただ、雑草を愛でるといっても、それはずっと親しくしてきた種での話。例えば、土手のスカンポ(痛取 or 虎杖)も楽しませてくれる訳で、食べてみるのも一興という類の植物。→「酸模の話」[2008.9.16]
しかし、所変われば、そんな感覚はたちどころに吹っ飛ぶのである。"Ministers surrender in battle to eradicate Japanese knotweed"(25 Jul 2015 Telegraph )となることもある訳で。邪魔モノの域を通り越してしまうとえらい騒ぎである。しかし、それこそが「自然の姿」そのもの。

(本) 盛口満:「雑草が面白い―その名前の覚え方」 新樹社 2015年5月18日
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