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2005.12.20
 
 


古事記を読み解く [根の国参り]

 “大国主の登場”で出雲の政治体制は大きく変わるかと思われたが、首領が暗殺されてしまい、旧来型統治スタイルは全く崩れなかった。
 しかし、「オオクニヌシの神」は復活を賭け、“根の国参り”に挑戦することになる。
  → 「古事記を読み解く [大国主の登場] 」 (2005年12月14日)

 暗殺されて拠り所を失った、「オオクニヌシの命」派は、本家本元の宗教勢力に思想的に訴えることにした。
 出雲は武器庫であり、国のまさに急所だ。大陸と上手くいかなくなった状態は、国の危機である。
 宗教勢力は宗教統治に専念しているとはいえ、国家総体の弱体化を見過ごす訳にいくまい、と考えたのである。

 見込み通りだった。
 この要請に応えて、海の勢力に詳しい者を送り、交易派を支援したのである。
(参上于天請神産巣日之命時. 乃遣[討虫]貝比売與蛤貝比売. 令作活爾[討虫]貝比売岐佐宜集而. 蛤貝比売持水而. ・・・)

 そこで「オオクニヌシの神」派は一時的に復活に成功する。

 しかし、既存勢力は強固である。
 今度は、山林分野で力を持つ勢力が立ち上がり、「オオクニヌシの神」派は再び潰されそうになっててしまう。
(於是八十神見. 且欺率入山而. 切伏大樹. 茹矢. 打立其木. 令入其中即打離其冰目矢而. 拷殺也. )

 これで大勢は決まったかに見えたが、そうはいかなかった。

 地域は一枚岩ではなかったのである。

 木の国の「おおやびこの神」(大屋毘古)が「オオクニヌシの神」派の動きを支持して、この勢力を匿ったのである。
 交易重視への政策転換は国の存続に不可欠と判断したのである。

 緊張は高まったが、「おおやびこの神」は、「オオクニヌシの神」派に、政策転換のリーダーシップ発揮を期待したのである。
 復活した「オオクニヌシの神」は、その器量が問われることになった。

 「いざなきの神」が黄泉の国にいる亡妻「いざなみの神」を訪れたように、「オオクニヌシの神」も根の堅洲国にいる亡きスサノオの命」のもとへと向かい、勇者ぶりを見せる必要があるのだ。

 「スサノオの命」の家に到着すると、出てきたのは娘の「スセリヒメ」(須勢理毘売命)だった。一目で相思相愛状態となる。
 時代の先頭を走る魅力的な神だから、当然である。

 当然の如く、「スサノオの命」は「スサノオの命」に次々と試練を与える。

 第一の試練は、蛇。
 第二の試練は、ムカデと蜂。
 何れも、「スサノオの命」の勢力基盤だった旧来勢力のシンボルである。

 この危機は、「スセリヒメ」のアドバイスに従い、なんなく難を逃れることができる。旧来勢力は知恵には滅法弱いのである。

 次は、焼畑勢力の好む野火が襲う。常識的には、死を避けようがない状況に陥ったのだ。
 この危機も乗り切る。鼠の謎の言葉を冷静に解釈できたので、穴に入って、焼け死なずに済んだのである。
 稲作中心で進もうと考える勢力の意向を聞く耳を持っていることを示した訳だ。
(鼠来云. 内者富良富良. 外者須夫須夫.)

 さらに、「スサノオの命」に頭の虱を取れと言われる。ところが、実はムカデ。そこで、「スセリヒメ」のアドバイスを取り入れ、ムカデを取っているように見せかけ、その場をとりつくろう。

 そして、隙を見て、「スセリヒメ」を背負って、「スサノオの命」の大刀と弓矢をかかえて逃げ出したのである。
 しかし、音がしたので、気付かれてしまう。
 とはいえ、髪が柱に結びつけられているので、「スサノオの命」はすぐに追えない。それでも、柱を倒してまで追う。

 だが、それも、境になっている黄泉津比良坂まで。

 ここで立ち止まり、突如、言葉をかける。大刀と弓矢で八十神を討ち、大黒主神として国王になり、「スセリヒメ」を妻とせよというのだ。
(遥望. 呼謂大穴牟遅神曰. 其汝所持之生大刀生弓矢以而.・・・於宇迦能山.)

 呪術と武力の時代が終わったとの宣言である。

 恐ろしいものが来襲しても恐れる必要などなく、周囲の知恵を活かす頭脳さえあれば、難を避けることができることが証明されたのである。

 知力を持つ神が、武力を統括することに決した訳だ。
 まさに大転換である。

 「古事記を読み解く」 (次回に続く)>>>


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