表紙 目次 | 2015.1.4 楽器分類の底流を探る現代日本では、楽器分類としては、Hornbostel-Sachs型「体-膜-弦-気」が使われているようだ。1914年に発表された音楽民族学の論文が原典らしい。・・・●Idiophones/体鳴楽器 ●Membranophones/膜鳴楽器 ●Chordophones/弦鳴楽器 ●Aerophones/気鳴楽器 ○(Electrophones/電鳴楽器) 時代性もあり致し方ないが、物理的な楽器の音を電子的に作れるようになると、電鳴楽器なる概念は次元が違うので使えない。 そんな欠陥があることが理由でもなかろうが、一般的に通用している分類概念とは言い難い。 常識とされているのは、西洋式の3分類だろう。これは、ドイツの作曲家Sebastian Virdung[1465-n.a.]の考案。 ●管楽器(木管と金管) ●弦楽器 ●打楽器 但し、「その他」が加わることが多い。例外とみなして、無理に3分類のどれかに入れたりはしないのである。 例えば、オルゴールのようなタイプは、楽器と呼べるのかははなはだ疑問だが、上記の打楽器に入れる訳にもいかない訳で。 そして、鍵盤楽器も独立扱いすることが多いようだ。ピアノを打楽器と見なす意義が余りに薄いからだろう。チェンバロと同類とするなら弦楽器になるが、現実の演奏で弦を意識する訳でもないから、バイオリンと同類とするよりは、アコーディオンと同類とする方が納得感があるから当然のこと。 しかし、一番の問題は、管楽器を木管と金管に分ける考え方。実態的には構造分類だが、素材名になっているので、現実の使用素材と合わないからだ。登場した歴史を忘れずにという精神を大切にしたいのだろうが、分類名称変更が望ましかろう。 ●口唇リード(マウスピース)楽器=金管 ●管腔(エア)リード ●一枚(シングル)リード ●二枚(ダブル)リード ●孤立(フリー)リード 笙,等 要するに、木/竹笛(含骨笛)と角笛(金管系)を分けた訳だが、それなら、弓系の弦と非弓系の絃も分けたくなる。大陸乾燥地帯文化"命"の西洋からしてみれば、海人神霊器たる後者は視野外だから致し方ないとはいえ。 現代中国は、西洋思想に倣った分類を用いているようで、「弦・管・打」のようだ。 ただ、こちらは、「管」ではなく、「弦」を2つに分別している。 見かけは"いかにも"科学的分類だが、後述する、大和朝廷の和風分類の模倣でしかない。 ●吹奏(吹管)楽器(笛子/笙類) ●弾奏(弾撥)楽器(琴/筝類) ●拉奏(拉弦)楽器(胡類) ●打撃楽器 なにせ、古代中国では素材分類なのだ。いつからかは定かでないが、綺麗さっぱり、その分類を捨て去ったのである。 その素材だが、骨や貝が欠落しているのがいかにも意味ありげ。中華に従わない勢力を除外した、網羅的分類と言うことでもある。それを「八音」と名付け、儒教の精神とみなしたのである。 ●金/metal ●石/stone ●糸/silk ●竹/bamboo ●匏/gourd ●土/clay ●革/leather ●木/wood おそらく、各地域の代表的楽器を中華として纏めあげ、さらに技術的に高め、それを公認楽器とする仕組み。そのなかで一番技術的に高度なものが、高級官僚コミュニティで定番化していく風土。 従って、楽器はなんでも集めた筈である。例として、<打撃楽器>とその類似系統で見てみよう。これだけ揃えれば、壮観の一語に尽きるのでは。ここからは、音楽性や精神性は感じようもなかろう。そこにあるのは中華帝国の網羅的統治意識の発露のみ。これが中華音楽の本質。 ・鼓(小堂鼓、扁鼓、大鼓、缸鼓、戰鼓、排鼓、板鼓、等) ・揚琴【撥弦類】 ・鈸/Cymbal(大鈸、小鈸、等) ・鑼(京鑼、大鑼、小鑼、雲鑼、等) ・鉦鼓、銅鼓 、鐃 、鐸 ・(仏教)木魚、木鐸、魚板 ・沙的、梆子、 拍板/拍子木、梆子/梆板、鼓板、笏拍子 ・鈴(碰鈴,手鈴、等) ・搖鼓 ・(仏教)梵鐘(釣鐘) ・編鐘/特鐘---青銅製吊鐘群 ・方鐘 ・編磬/特磬---石琴 ・編鏧---鉄琴 ・柷---箱内の落下音 ・椌---小さな柷 ・漁鼔 ・敔[ギョ]/木豆 or 楬---彫虎背に27刻目 簓[ささら] ・Castanets[響板]、Slapstick[楽鞭] ・Tambourine[鈴鼓]、Triangle[三画鉄] このなかには、演奏開始や終了の時のみ音を出すものもある。もともとの発祥民族は不明だが、中華帝国が公的に定めた楽器なのだろう。音楽性とはおよそ対立的な楽器だが、朝鮮半島には現存しているようだ。 日本の体質だと、そのような楽器が渡来すれば、一旦は従う姿勢を見せただろうが、おそらく気に喰わぬ筈。従って、物理的にも精神的にも残存させようとは思うまい。楽器の扱いから、その文化の違いに気付かされることになる。 日本の雅楽用楽器でも同様。 この場合、中華「八音」の素材分類をそのまま踏襲しているとされる。唐楽やその影響下の渡来の楽を「演奏」していたから、楽器作成/修理や保管上不可欠なのは当然だ。しかし、よく見ると、それに従っているとは思えない。 現実の分類観は奏法。神との交流の為に、ヒトが奏じる仕方にこそ意味があると見ていたことがわかる。古代倭楽の原点にのっとっており、音楽性の点からも至極自然な分類になっている。現代の視点なら、大和朝廷が創作したオーケーストラ概念と言えよう。 ●打物 鼓・・・鰐を動かす。 ●吹物 龍笛 ●弾物 龍琴 → 「八音と日本の雅楽」[2014.12.2] → 「原初琴を考えてみた」[2015.1.3] 一方、思弁的思想発祥の地と思われるインドでは最初から音を発生させる観点の分類。流石である。 ●弦楽器/Veena ●管楽器/気楽器 ●皮製打楽器 ●金属製打楽器 ジャイナ教も同じ。 ●皮楽器 ●弦楽器 ●金属打楽器 ●気楽器 ところが、仏教は、不思議なことに上記の弦楽器が欠落。皮楽器が細かくなる。 でも、考えてみれば、ソリャ当然かも。 読経が楽そのものであり、旋律楽器をかぶせる必要などないからだ。 ●片皮楽器 ●両皮楽器 ●前皮楽器 ●打楽器 ●気楽器 ただ、日本の仏具では、鳴物・打物となり、概念が全く違うようだ。仏教楽としては、おそらく声明であり、それに付随して、仏具に音を生ませる修行が加わるということでは。 ●鳴物 鈴(磬,鏧),喚鐘 ●打物 団扇太鼓,木魚,音木 弦楽器も使用されただろうが、それはもっぱら琵琶ではないかと思う。しかし、宗教組織内では盲僧ギルド用だったようにも見える。 ただ、声以外の旋律楽器は宗教的に避けた可能性はあるかも。イスラム教徒の姿勢からの想像にすぎぬが。(歌舞音曲的なものは避ける傾向があるというだけの話。)とはいえ、イスラム教にでも、音楽宗教スーフィズムが生まれているから、なんともいえないが。その指導的地位にあったと思われる哲学者al-Fārābī[870-950年]は2分類。・・・ ●打奏し、弾奏し、摩奏する固体の楽器 ●吹奏される空気を満たした楽器 現代だと、リズム楽器とみなされる打楽器は独立させるしかないが、それは嫌ったのである。リズムで「踊らされる」のではなく、神への帰依としての歌舞を自らの意志で行うという精神からかも。さすれば、アフリカ発祥の踊りたくなるシンコペーションなど唾棄すべきものかも。 文化論の目次へ>>> 表紙へ>>> (C) 2015 RandDManagement.com |