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「我的漢語」講座第15回 水鳥 2010.8.31 |
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祝日と季節感について考えてみたが、少し自然を表わす漢字を眺めてみたくなった。題材としてはとりあえず鳥にしてみた。 鳥の字は難しい。と言っても、鶏、鶴、鴨、鳩、烏程度ならだれでも書ける。しかし、これが鷲、鷹になると、たいして字画が増えた訳でもないが、地名で馴染みがある人を除けば普段話題にすることも稀だから、いざ書こうとするとすぐにでてこないのではないか。頭の引き出しから、どうやら出てくるといったところでは。 これが、鶯、鵜、鷺、鴎、鵞鳥、辺りになると、読めるのだが、書くとなると一寸自信がもてなかろう。 さらに、鴛鴦、鸚鵡、鶺鴒になると、わかっていた筈なのに、現実にはお手上げ。こうしてお気軽に書けるのは、パソコンの御蔭。なんの苦労もない。しかし手書きではとても無理だ。 ・・・といった状態を勘案すると、鳥の漢字を沢山覚えるのはご勘弁願いたいところ。しかし、中国にはカタカナ文字が無いから、漢字でいくしかなかろう。鳥に表音漢字を組み合わせた文字なのだろうが、ただならない記憶力が必要となる。たいしたものだ。 ■“鴨” カモ■ 万葉集64 ---野鸭 鳥を考えるなら、最初は鴨だろうか。万葉集でも定番の鳥である。結構、人の住む傍の池にやって来て、見物人を意識した動きをしたりする。川では、スイスイと流れにのって遊んだりしており、有閑人だったと思われる歌人の世界にはあっている。 などと言うのは日本的かも。中国では、食べ物が動いているとなろう。従って、“野”とつけるべきと思われる。なにせ、家禽化の大元なのだから。しかし、アヒルとは全然別の鳥のように見えるから、他の鳥と同じ文字を使っていた可能性もあるのではないか。邪推かな。 ▲アヒル 家鴨/鶩/(足広?)▲ ---鸭子 食用といえばアヒル。鴨と同じ鳥には見えないが、良く見てみれば、形は確かにそっくりである。食用というより、遊び相手のような感じの鳥だ。食肉用としてアヒル+カモのアヒガモにするのは、そんな気分を害さないための配慮なのカモ。 ■“秋沙” アイサ■ 万葉集1122 ---秋沙鸭 秋早し感の鳥ということだろう。さすれ去られつつある鳥なのは、都会では渡り鳥がやってくる季節感を完璧に失ったからでもある。 ■“鴦”オシドリ 鴛鴦■ 万葉集258 ---鸳鸯 愛玩用。なんとなく大陸的である。二字になっているのは♂と♀の文字ということなのだろうか。鳥だから、多分オスが美しいのだと思われる。 ■“二寶鳥” ニホトリ/みお/カイツブリ 鳰■ 万葉集725 ---繁体字で 「小鷿鷈/鸊鷉」 自然公園の池で良く見る鳥である。水に逆立ちして入り、暫く潜水した後に、突然に別なところから水面に登場するのが面白い。目がクリクリしていて、キリリと引き締まった表情だから、日本人好みではないかと思われる。と言うか、おそらく琵琶湖に溢れかえっていたのではないか。それにしても、“二寶鳥”とは又、えらく持ち上げた名称にしたもの。そんなこともあって、“入鳥”という創作漢字を作る気になったのだろう。繁体字には違和感があり、簡体字を学ぶどころの話ではなかった。 鴨は種類が多いから、形容された様々なものがありそうだ。まあ、この辺りで終え、もう少し大きな渡り鳥を見てみようか。 ■“鴈” カリ/ガン 雁■ 万葉集182 ---雁 情緒より、食べ物。ということで、早くから家禽化されたようだ。 ▲ガチョウ 鵞鳥▲ ---鹅 “我”と喧しく鳴く鳥ということだろう。よくこんな鳥を家禽にしたものだと感心させられる。番犬ならぬ、番鳥として重宝したのだろう。 △Penguin△ ---企鹅 飛ばない鵞でもなかろうし、およそ一種とは思えない。しかし、水族館でたまたま出くわした時に聞かされた声は体の大きさの割に凄まじいものがあった。ガチョウ並で、確かに“我”鳥だった。 ●ヒシクイ 菱喰● ---豆雁 そもそも菱が無いのだから、ヒシクイが生きていける訳がない。言葉だけ残るだけでもよしとする時代である。 白き鳥にも目を向けておこうか。 ■“白鳥”しらとり/ハクチョウ■ 万葉集588 ---天鹅 白鳥というと、魂が飛んでいく古事記の世界を考えてしまうが、食べ物にこだわっていると、ガチョウが天を飛んでいるぜということになるのだろうか。宗教観が相当違っていそうだ。 ■“鶴”ツル■ 万葉集271 ---鹤 お目出度き鳥といえば、丹頂鶴だが、日本でも鶴は鳥肉として珍重されていたのは間違いない。だいたい、マナヅルと呼ぶのだから、誰が考えたところで“真菜鶴”以外に考えられまい。 ■“鷺” サギ■ 万葉集3831 ---鹭 現代の白鳥は鷺だろう。片足立ちで孤高の姿と言えば、格好よさそうに思うが、これがゴミだらけの川だったりするから哀れ。五位を頂戴できた時代が一番華だったということか。 こうしてみると、文字自体はほとんど同じ。 しかし、白鳥と呼べそうにない鳥については、勝手な命名で済ませており、知的交流の対象ではなかったのかも。 ●トキ 朱鷺/鴇/鵇● ---朱鹮 素人目でも鷺に似ているので朱鷺は中国名と思っていたらどうも違うようだ。コウノトリの類縁だが、残念ながらコウノトリなどいないから、そう思えるのだろう。Nipponia nipponだから、本来なら日本风鹮と呼ぶべきだが、中国種のトキしかいなくなったのだから、これからは朱鷺を止めて朱鹮と書くべきだろう。 尚、辞書によっては「桃花鳥(つく)」とも呼ぶと書いてあったりするらしいが、なんとなく信じがたい。万葉集(3886)の“都久怒尓到”も同じ地名と言われても。 ●コウノトリ 鸛/鵠の鳥● ---东方白鹳 巨大鳥で圧倒的な存在感がある。“鸛”の偏はそれを表現した象形文字である可能性が高そうだ。 △Flamingo△ ---火烈鸟/红鹤 常識的には紅鶴だが、なかなか上手な意訳。 △Pelican△ ---鹈鹕 ペリカンの漢字に“鵜”が入っていて、肉としての鳥だけでなく、魚を採る相方としての鳥を思い出した。 ■“鵜” ウ/(シャグ)■ 万葉集4158 ---鹚鸬(鸕鶿を簡体字化してみた。) これはもうなんとも覚え難き文字。古事記には、羽で産屋を葺いた話があり、海彦山彦の頃から人と親しんでいたにしては、中国と文字を揃えようとの気がなかったのが気になる。重要な鳥の記述を間違う筈などあり得ないから、日本の鵜はペリカンの大口と同じ位の威力があるということを誇っていたと考えるのが自然ではないか。 今や川鵜は滅多に見れなくなったが、海鵜は全盛。浜離宮では、海鵜の皆様に木々の葉を糞だらけにしないようにご配慮頂いている位だ。 そうそう、日本の情緒感表現では、群れる鳥のシーンが重要な役割を発揮することが多い。そこら辺りを見ておこうか。 ■“乳鳥” チドリ 千鳥■ 万葉集268 ---沙鸻 “千”鳥は、いかにも群れている感じがして、状況表現としては秀逸では。ただ、実際は万鳥だったと思うが。中国では“行”を使っている。“千鳥足”で有名な、足跡行列を指すものと思われる。こちらも、情緒的であり、日本的な臭い芬々。特別な逸話でもあるなら別だが、はるばる海を越え渡ってきた日本人が感慨を覚えて名付けたような気がするがどんなものか。葦原の国だったから、水鳥の群れは至るところにいたが、日本人にとっては、この鳥だけは特別ということでは。 ■“志藝” シギ 鷸■ 万葉集4141 ---鹬 シギも見慣れた鳥だったと思われる。田圃の常連。ただ、千鳥と足が違うので、それほどの感興はなかったかも。まあ、日本ではそのうち死語になり、中国が護り続ける単語になりそうである。 ついでに、“Sandpiper”を調べたら、そのままズバリ磯シギ。・・・矶鹬だった。ひょっとしたら、鹙ではないかと期待していたのだが違った。“イソシギ”が飛び交う海岸で絵筆をとるシーンをつい思いだしただけの感傷話でしかない。 ■“美夜故杼里” ミヤコドリ 都鳥■ 万葉集4462 ---蛎鹬 鷸という字は、小生は全く知らなかったが、都鳥もその仲間ということになるようだ。尚、東京では、伊勢物語で読まれたのはユリカモメとされているが、はたして当たっているのだろうか。 日本は島国であるにもかかわらず、純粋な海鳥には、大きな海鳥であっても、余り関心を寄せていなかった感じがする。ただ、代表的な鳥には親近感は覚えていたようだ。 ■“加目” カモメ 鴎■ 万葉集2 ---鸥 “區”の鳥というのは、いかにもといったところ。一画の水面に白い泡のように浮かんでいる姿そのもの。表意文字の真価。これを“区”とされると、実につまらなぬ。 ■“味” アジサシ 鯵刺■ 万葉集486 ---燕鸥 ●ウミネコ● ---黑尾鸥 ●カツオドリ 鰹鳥● ---鲣鸟 ●アホウドリ 阿呆鳥/信天翁● ---信天翁 ●ミズナギドリ 水薙鳥● ---鹱 なんとなく水回りの鳥をみてきたが、以下のような種類も入れた方がよいか。 気になるのは、すべて“鶏”とされている点。田圃に来れば、食べてやろうではないかといったところか。 ●ケリ 鳧/計里/水札● ---麦鸡 ●クイナ 水鶏● ---秧鸡 ●バン 鷭● ---水鸡 まあ、こんなところで水鳥の一段落としたい。 と言うことで、第十五回はこれまで。 --- 万葉集での表現の引用元 --- http://etext.lib.virginia.edu/japanese/manyoshu/AnoMany.html --- ご注意 --- Wikiやウエブの各種辞書を利用しており、納得できない内容はカットしたが、内容の信頼性についてはなんとも言えないので、そのおつもりで。 |
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