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「我的漢語」講座

第16回 山鳥 2010.9.1
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 ケリ[麦鸡]、クイナ[秧鸡]、バン[水鸡]はすべて“鶏”であることを知った。いかにも食の中国らしい分類であり、納得できるものがあった。ということで、先ずはそこから。
▲“鶏” ニワトリ▲ 万葉集2803  ---
古事記の記載を考えても、とてつもなく昔から家禽化されていたことがわかる。食用もさることながら、朝の時計代わりに重宝したということもありそうだ。
様々な改良種が生まれているから、名前も五万とあろう。尚、矮鶏とはベトナム系の血筋を持つチャボのこと。日本の天然記念物だから、おそらく中国名はなかろう。
話は飛ぶが、「鶏目」をご存知だろうか。漢方薬薬局に一度足を運ぶと訳のわからぬ文字が溢れていて面白い。小生は食用のサフランを買いに行くついでに色々眺めるだけが、そこでこの字を目にしたのである。ビタミンA不足で発症する鳥目用の漢方薬かと思ったら、これがなんと「魚の目」用。(手書きPOPは、大人気の“イボ取り”となっていたが。)日本人は鶏が気に食わないので、魚にしたようなのである。

 こんな話から始めれば、次に登場する鳥は決まっていよう。
■“雉” キジ 雉子■ 万葉集1446  ---雉鸡/野鸡
日本の国鳥とされている。そんな動物を食べる国は結構珍しいらしいと、よく書いてあるが、確かにそうかも。多分、急遽決めたにすぎず、それほどたいした意味はないと思われる。
皆から好かれているのは間違いないが、その理由として、野原が燃えても、巣を守るべく焼死をいとわない強さがあげられているが、後付では。雉香炉のイメージが大きく影響している可能性もあろう。
▲“鶉” ウズラ▲ 万葉集775  ---鹌鹑
なぜ、二文字にしているのかよくわからないが、は形容詞みたいなものなのかも。庵のように、草陰に隠れる手の鳥ということなのだろう。そうでない鶉がいるのかはわからぬが。
木曾の山道を歩いていて、道を横切る一列縦隊の親子に出くわしたことがあるが、コソコソ隠れて住んでいるにしてはずいぶんお太りになっていた。鶉はそんな感覚の文字なのかも。
△Turkey△   ---火雞
まあ、そんなところか。

 ニワトリは多用途鳥だが、同じように扱われている鳥がある。
●ハト 鳩●   ---鸠鸽
“九”と鳴く鳥というところだろうか。二文字好きはわかるが、“合”の字も必要なのはどういうことか。群れるという意味にはなりそうにもないし、どうも腑に落ちぬ。
ところで、斑鳩は山鳩の一種なのだろうが、聖徳太子が好きだったのだろうか。万葉集には鳩がみつからなかったが、人気薄だったか。ハトが隼人を思い起こさせるので嫌った訳でもないと思うが。
それにしても、日本では大切にされすぎてはいまいか。小生は、煙草の缶ピースのハトを好んでいたことはあるが、一番嫌いな鳥である。とてつもない臭い一発をスーツに落とされたことがあるからだ。
中国にはPeace感覚などなく、3タイプ共存では。・・・信鸽、菜鸽、观赏鸽

 そうそう、万葉集に登場しない有名な小鳥がいた。どう考えても意図的に外されたのである。
●スズメ 雀●   ---麻雀
お米をついばむのが許せなかったのだろうか。雁、雉の小さな鳥になる訳だから、中国では食物の対象として重要だったのではないか。日本でもおそらく食べていたに違いないが、どうでもよかった食材との位置付けだったのかも。なにせ、骨ばかりで今一歩。
米作という点で、燕歓迎、雀放逐的な感覚でもあったのだろうか。しかし、朱雀信仰は続いていた筈である。もっとも、キトラ古墳の朱雀を見ると、スズメの類ではなく孔雀臭いが。
そうそう、貴族は雀の子を飼育して可愛がっていたのであり、どこから感覚が生まれたのかよくわからないところがある。尚、小雀はコガラだが、褐头山雀である。山麻雀はニュウナイスズメ。日本で使っていた文字は違うような気がするが、入内雀とされている。
■“燕” ツバメ 燕■ 万葉集4144  ---
のど赤き玄鳥(つばくらめ)とも言う。季節感を出す時はこちらの用語に限る。瓦でお馴染みの玄色が浮かんでくるからだ。この細やかな色彩感覚が日本独特なのだが、今や、それがわかる人は稀。
■“麻氣利” アトリ■ 万葉集4339  ---燕雀
昔はさぞかし大群だったろう。
△カナリア 金糸雀△  ---金丝雀
△ブンチョウ 文鳥△  ---文鸟
△ジュウシマツ 十姉妹△  ---十姊妹

 万葉集ではスズメは大いに嫌ったようだが、他の小鳥は愛したのは間違いないところ。先ずは、鳴き声で評価というのが日本的文化かも知れぬ。
■“比婆理” ヒバリ 雲雀/告天子■ 万葉集4292  ---百灵
百霊とは気味悪き命名と思ってしまうが、心を揺るがすような美声を発するということ。
●シジュウカラ 四十雀●  ---大山雀
●ゴジュウカラ 五十雀-●  ---
■“于具比須” うぐいす 鶯■ 万葉集824  ---
■“霍公鳥” ほととぎす 杜鵑/不如帰/時鳥/霍公鳥■ 万葉集1466  ---杜鹃
■“喚子鳥” よぶこどり/カッコウ 郭公■ 万葉集1419  ---鹃/郭公
ご存知“Cuckoo”。
●ブッポウソウ 仏法僧●  ---佛法僧
様々な本で取り上げられる鳥だが、中国でも同じ呼び名とは思わなかった。どういうことなのだろうか。
●ヒヨドリ 鵯●  ---鹬鹎
●ムクドリ 椋鳥/白頭翁●  --- 灰椋鸟

 目だった特徴があれば、声より、顔だちで注目する場合もある。
●メジロ 目白●  ---绣眼鸟
●ホオジロ 頬白●  ---三道眉/草鹀

 これは美しいと誰でもが認める鳥は特別か。
●カワセミ 川蝉/翡翠●  ---翠鸟
当て字に蝉はなかろう。河瀬見にして欲しいもの。それよりは、“翠”鳥だと思う。それとも華やかなのは、好かんということかな。

 もちろん、心地悪き鳴き声もある訳だ。
■“奴延鳥” ぬえ 鵺 (→ トラツグミ 虎鶇)■ 万葉集2031  ---斑鸫
どんなものかわからぬが、知りたくはない。夜の鳴き声がえらく気味悪いらしい。
 その一方、神々しい鳥も。
●ライチョウ 雷鳥●  ---岩雷鸟
昔、日本に高山に登る習慣があったのか定かではないが、“雷”は神以外のなにものでもない。小生が南アルプス這松域で出くわしたのは夏だった。霊的な出会い感ゼロで、親しみ易そうな生き物の印象しかない。真価は冬鳥か。

 出典がよくわからないが、鳥の名前の“ス”とは鳥を表わすので、“○○ス”とは“○○”と鳴く鳥ということと書いてあることが多い。“ウグイ〜”とかウグイ〜”ホトトギ〜”というのは、どうも感覚が合わないが、確かに“カ〜、カ〜”というカラスは言われればそんな気にならないでもないが、胡散臭い説明である。
■“烏” からす 鴉/雅■ 万葉集1263  ---鸟鸦
ハト同様、二文字重ねる理由が気になるところ。ハシブト+ハシボソではなさそうだし。。
●カケス 懸巣●  ---松鸦
なんとなく雀みたいな鳥だが、“カケ”と鳴くと言われればそうかも。

 そうそう、特別な鳥は伝来文字をそのまま使うようだ。神に子孫の作り方を教えた由緒ある鳥の名前を勝手に変える訳にはいくまい。
●セキレイ 鶺鴒●  ---鹡鸰

 残っている主要な鳥のなかで、特徴的なのを加えておこうか。
●けら/キツツキ 啄木鳥●  ---
“裂”の鳥である。納得。
●フクロウ 梟●  ---鸱鸮
△Ostrich△  ---鸵鸟
△Parrot△  ---鹦鹉

 最後は猛禽類。
 と言っても、先ずはそれに該当しそうにない小鳥から。
■“百舌” モズ 百舌/鵙■ 万葉集2167  ---(牛头)伯劳
生贄作りで知られる鳥だから、日本で好かれるタイプではなさそう。凶行成功の鍵は、百枚舌能力にありということか。

 大型猛禽類は賞賛の嵐だったようである。もちろん貴族階級だけだろうが。
■“鷲” ワシ■ 万葉集1759  ---
■“多可” タカ 鷹■ 万葉集4013  ---
●ハヤブサ 隼/鶻●  ---游隼
●トビ 鳶●  ---
 沿岸が主体の魚食性の鳥もあげておこう。
■“美沙居” ミサゴ 鶚/雎鳩■ 万葉集362  ---

 最後にオマケ。
△ガビチョウ 画眉鳥△ △ソウシチョウ 相思鳥△  ---画眉 红嘴相思鸟
両者ともども、日本の侵略的外来種ワースト100。伊豆半島や丹沢の竹薮を占拠しつつあると耳にしたのはだいぶ前の話。観賞用の飼い鳥が逃げたのだろうが、全国的に繁栄しているらしい。今やハワイでも。

 と言うことで、第十六回はこれまで。
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--- 万葉集での表現の引用元 ---
http://etext.lib.virginia.edu/japanese/manyoshu/AnoMany.html
--- ご注意 ---
Wikiやウエブの各種辞書を利用しており、納得できない内容はカットしたが、内容の信頼性についてはなんとも言えないので、そのおつもりで。


 
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