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「我的漢語」講座

第20回 金属 2010.10.14
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金属の色表現は結構曖昧なようだ。
 色彩の漢字話をすると、どうしても五行の色になる。そこで思い出したのが“五金”。
 気になったので金属工芸材料名を眺めてみた。すると、・・・
  黄金 [金 Gold]   赤金 [銅 Cupper]   青金 [錫 Tin]
     白金 [銀 Silver]   黒金 [鉄 Iron]
 おや〜。
 大和言葉では、“あおがね”は “なまり[鉛 Lead]”ではなかったのか。(1)まあ、どちらでもよいということのようで、結構、いい加減なものだ。
 だいたいにして、“なまり”はキン、ギン、ドウ、テツ、スズとは明らかに違う系列の発音。日本古来の金属と考えて良いと思うが。もっとも、何に使っていたのかはわからない。
 そうそう、嫌われた文字は鉄では。なにせ、鐡をよりにもよって、金を失うと省略したのだからおもしろい訳がなかろう。金に矢という誤字は、恣意的な間違いが大半と睨んでいるのだがどんなものだろう。

 そういえば、白金という表現もどんなものか。地名ならシロガネだが、普通はハッキンでプラチナをさす。その一方でホワイトゴールドなる言葉もあり、これは金+銀+パラジウムの合金。紛らわしいことこの上ない。
 尚、非鉄金属→有色金属とされている。鉛や錫は青とみるのかも知れぬが、銀は有色とは思えず、非鉄のどこまでが有色に入るのだろうか。非鉄概念や有色金属という用語も避けた方がよさそうである。

 合金も同じように色名があるが、色を増やすのはもっぱら日本的な好みのようである。
  青铜[铜+锡] Bronze・・・唐金/砲金とも  黃铜[铜+锌] Brass・・・鍮石/真鍮とも
  白铜[铜+镍] Cupronickel----55:45にすると康铜 Constantan・・・熱電対用
   赤銅[銅+金]・・・日本独特   黒銅・・・日本流の表面仕上げ
 日本では、銀の合金ではない洋銀(洋白)[ニッケル+銅+亜鉛] Nickel Silver も大いに好まれる。旧五百円硬貨は洋白、百円硬貨は白銅、十円硬貨は青銅である。
 仏具・茶道具・刀剣では矢鱈に凝った作品が多いので、日本の合金技術は深堀されていそう。当然、様々な名前がつけられている筈。素人には知るよしもないが、例えば、響銅/胡銅[銅+鉛+錫+少量の銀]や朧銀[銅+銀]は耳にすることがある。どんな成分か想像は全くつかない。

金属名の一文字簡体字大洪水には対応しかねる。
 こうした代表的な金属名の簡体字は間違うことはない。偏が省略形になっているだけだから。
                 
 しかし、そこから外れると、全く違う字体になったりする。プラチナは創造の範囲内だが、水銀は金偏を取り去ってしまったのでわかりにくい。なんとなく記憶の片隅にあるから、わからないでもないが。
   白金   亜鉛   水銀

 ちなみに、周期律表の元素名を見ると、全て漢字1字である。ガス系は「」構、液体は「三水」。固体は「石」偏と、金属の「金」偏。これを覚えるのかと思うと気が遠くなる。「」だけ以下に表記してみたが、正直のところうんざり。例えば、カリ肥料は钾肥と書く訳だから、覚えるのはもっぱら専門家という訳にはいかない。
 もっとも、勝手に命名されたものを丸暗記させられるのだから、たいした違いはないが。
  Li→  Be→  Na→  Mg→  Al →  K→  Ca→  Sc→
  Ti→  V→  Cr→  Mn→  Co→  Ni→  Ga→  Ge→
  Rb→  Sr→  Y→  Zr→  Nb→  Mo→  Tc→  Ru→
  Rh→  Pd→  Cd→  In→  Sb→  Cs→  Ba→  La→
  Ce→  Pr→  Nd→  Pm→  Sm→  Eu→  Gd→  Tb→
  Dy→  Ho→  Er→  Tm→  Yb→  Lu→  Hf→  Ta→
  W→  Re→  Os→  Ir→   Tl→  Bi→  Po→  Fr→
  Ra→  Ac→  Th→  Pa→  U→  Np→  Pu→  Am→
  Cm→  Bk→  Cf→  Es→  Fm→  Md→ No→  Lr→

 余りの凄さに、日本はどうなっているのか、“和製漢字の辞典”を見ると、(2)金偏の国字がずらっとならんでいる。日本でも創作は大好きだったと見える。新しく金属製品ができたりすると、金偏の新文字を造って祝ったのかも。そんな習慣が廃れてよかったと、つくづく思わされた。
 そういえば“Y,Ce〜Lu”は希土と書いたものだが、何時頃からか、レア・アースに変わってしまった。意味は同じだが。

金偏文字が金属工学周辺に留まってくれれば覚えやすいのだが。
 ただ、漢字ファンは違ったお考えも。漢字検定は未だに大流行らしいから、金偏漢字の薀蓄話が盛り上がっている可能性もありそうだ。なにせ、常用漢字でも200字近くある。流石に三水や木偏ほど多くはないとはいえ、人偏、手偏、糸偏、と同じ位豊富である。
 もっとも、魚偏の漢字が沢山書いてある鮨屋の湯呑茶碗は人気があるが、金偏の漢字を飾りにした金属カップはついぞ見かけたことがない。そこまでは親しみが湧かないということかも。

 小生は大学院では相転移の熱力学理論は勉強したが、金属工学については用語も全く知らないズブの素人。間違いだらけになりそうだが、鉄近辺の金偏文字を整理してみた。

 まず、金属の作り方だが、鉱 こう ---> 錬[れん] ---> 銑[ずく] ---> 鎔/鑄/鋳[ちゅう]、といったところか。そういえば、鎖に“とかす”と書いてあったりするが、そんな用語があるのだろうか。“くさり”としか思えないが。まあ、この辺りは小生にとっては専門用語に近い漢字で、簡体字に興味は湧かない。ただ、錬は簡体字ではなので注意。
 青銅器時代には、銀“錯”という、の象嵌技法があったそうだ。錯体などという化け学用語はそんなところからか。
 鉄の場合だと、鋳造した粗鋼を鍛えて、刃金[はがね]=鋼にする。尚、砂鉄からつくるスポンジ状の粗鋼は、ヒ [けら]と呼ばれる。確かに、母である。タタラ式の製鉄所址の観光案内にたいてい書いてあるが、そんなものをじっくり読んでいる人を見たことがない。
 板状にすると板金[いたがね]。普通は鋼板と書くが、鋼鈑が正式な漢字なのかも。鋼索も同じように金偏の文字がありそうだが、漢字リストではみつけそこなった。と言うのは、どこかで見た覚えがあるから。
 金属加工用語はどんなものがあるのが知識がないのだが、錆[さび]を防ぐための鍍[めっき]や、繋げるための鑞[ろう]の程度は常識レベルだろう。もっとも、小生は鑞は書けないが。

鉄製品の簡体字には若干の注意が必要そう。
 さて、そこで簡体字。
鉄の一番の問題から。赤錆と言いたくなるが、赤とは限らない訳である。
 従って、鉄錆→铁锈
 錆を完璧に防ぎたいならステンレススチール→不锈钢
 メッキという手もある。代表はやはいトタンか。といっても、亜鉛は結構さびやすいのだが。波板はプラスチック製品に代替されてしまったようだが、メッキ鋼板は今もって基本材である。亜鉛鋼板→镀锌铁板
 ブリキの方はスズが高価だから滅多に見かけない。(防災用バケツ、缶詰、高価なノスタルジー玩具といったところか。)漢字では“錻力”だが、どういう意味だろうか。トタンと同じということで镀锡铁板と書きたくなるところだが、马口铁。う〜む、どういう意味なのか気になってしまうが、そんなことはどうでもよいか。
 工場名はご想像の通り、 鋳造工場→铸造厂  製鉄所→钢铁厂

 そうそう、日本の場合、「鉄」と「鋼」の使い分けが曖昧な感じがする。このため、簡体字にすると間違い易いので注意を要する。
 鉄条網→铁丝网 はまあわかる。針金→铁丝 もよかろう。鉄線とも呼ぶのだから。
 しかし、鉄兜→钢盔はまず間違うのでは。鉄骨構造→钢骨结构も同じことが言えよう。なかには、言葉自体が異なるものもある。
   鉄砲 拳銃 機関銃→歩枪 手枪 机关枪  (銃殺→枪杀)
   鉄琴→钟琴 (時計→钟表)
   鉄棒→单杠

金属用語ではないが、そこから来ていそうな漢字の扱いは慎重に。
 金属材料とは無縁の意味の金偏漢字がいくつかある。もともとは金属のなんらかの形質を示していたのだろうが、そんな感覚は消えているから、下手をすると誤用しかねない。十分留意してかかる必要があろう。
 “鎮”は結構見かける文字である。これはどうもそのまま簡体字化するだけでは使えないようある。 鎮火→灭火  鎮魂曲→安魂曲
 一方、“鋭”や“鈍”の意味はほぼ同じ。だが、用法は似ていると言ってよいかよくわからない。 激減→锐减   鈍感→感觉迟钝

 こんなところから始めると、オイオイ、先ずはおカネの話ではないかと言われそう。そうしたかったのもヤマヤマ、素人には手があまる感じがしたのである。
 金はMetal一般を指すが、もともとはGoldの意味。そこから、Moneyにの意味に転化というのが素人的見方。これが正しいのかは疑問。
 「銭」という文字が別途あるからだ。これは貨幣を指す言葉だが、意地汚さを感じさせる用語として使われることが多い。そのイメージを和らげるのが“お金”という言葉のようにも思えるからである。尚、紙幣はもともとは「交鈔」と呼んだらしい。
   紙幣→钞票
 “○○鈔集”と書くと、ご立派な方の言葉の抜書き集の書名になるので、そんなものかと思っていたら、違った。と読むらしいが、重要な言葉をコピーするといった意味とは違う感じがする。訓読みはないようだ。今や、人名漢字でしかお目にかかれない欽も同じようなものかと思ったら、“つつしむ”とされている。“うやまう”といった気分の漢字かと思っていたらハズレ。
 おカネではないが、千鈞という言葉がある。おカネに相当する重さの単位と習った覚えがあるが、春宵一刻値千金と混同しているようでもありよくわからん。

 お金の話になったので、間違い易い言葉を追加しておこう。
   販売高→销售量
 もちろん、贩卖や、售货でも通じるのだろうが、销售价格と書いてあるものが多いから覚えておくべきだろう。
 それと、見かけない漢字にもご注意あれ。それは“鈷”[コ] 。どこかで見かけた文字という印象はあるだろう。密教の修法用具である。こんな文字がでてきたように見えたのでビックリ。よく見ると、“古”でなく、“占”。賛の略らしい。钻研という熟語で登場するが、順番を逆にした“研鑽”のことである。“研鑽有素”として使うようだ。

金属製品は生活文化と係わるので面白い。
 観光本には自転車→自行车は必ず掲載されているが、その一部の用語である、钥匙 车锁 链条はみかけない。日本だと、この手の用語もあったのだろうが、自転車がビジネス用でなくなるとどうでもよくなるのではないか。
 ただ、鍵→钥匙 钥锁 关键 とか、錠→となることは覚えておく必要がありそうだ。尚、とは、画数が多い鑰の略字。

 そうそう、本の名前を覚えていないが、観光本のコラムに日本語の活字は鉛字だと書いてあったのを思い出した。確かに、活版印刷→铅印となるようだ。まあ、木版に印刷なら、鉛版印刷としておかしくない。日本の場合は、活版屋さんが自分達の勢力を見せ付けたかったということなのだろう。いかにも日本的。

 さて、伝統文化を金属器で眺めるとなれば、普通は4分野。「食器」、「酒器」、「水器」、「楽器」だ。ただ、それは青銅器時代の話。食器/酒器/水器の種類はとてつもない数だったろうが、塗り物が生まれ、セラミックスやプラスチック素材が簡単に作れるようになれば廃れて当然。今残っている文字は当時の面影程度か。
 例外は、宗教だけ。そう、僧侶用の鉄製だ。日本は仏教国なので、木鉢なという用語も使うが、非仏教国だと違和感があるのではないか。

 ただ、食器ではなく、調理器なら金属器は全盛である。鍋→という文字は残った。
 もっとも、多種多様なので、呼び名は必ずしも決まっているという訳ではないようだ。
   日本・・・鍋  北京, 長沙, 南昌・・・
   廈門・・・鼎
   広州・・・  蘇州・・・镬子   梅県・・・镬头
 これは百度のデータなのでどこまで信用してよいのかわからないが、青銅器でしか知らなかった“鼎”という文字が実際につかわれているらしい。耳がついて、圏足になっている“”という青銅器もあるから、こちらの文字もどこかで使われているのだろうか。
 尚、フライパンのような浅鍋の青銅器は“”[ゴウ]だが、これは使い勝手がよさげだが、どうなっているのだろうか。
 そうそう、 汽缶室→锅炉房である。

 酒器では、日本には重要な用語が残っている。ご存知“お銚子”。徳利と間違っている人もいるが、金属器で、柄と嘴がついた小鍋である。縁起物として存在しているが、普段は見かけない。自動燗器がある位なのだから、当然だが、言葉だけ残っているのが不思議。簡体字にも、“”はあるようだが、使うシーンが考えにくい。
 青銅器は美術館や博物館に並んでおり、読めない漢字名がついているが、まさかそんなものが現代も使われているとは思えないが、大陸は広いから宴会シーンでは使われるものがあるかも。例えば、酒壷の“ ”[ほう]とか、温酒器の“ ミ”[けん]。

 そうそう、“鍋”と取上げるのなら、“釜”はどうしたと言われそうだ。まあ常識を働かせればわかるが、鍋の一種と考えてよかろう。青銅器だと足つきの釜のような器具 “”[キ]があるが、流石に今はないようだ。“鑵”[カン]も湯釜だが、今は金偏でない缶の方が多いか。
 青銅器の名称は矢鱈に多くて素人にはなにがなんだか状態に陥るが、面白いと思ったのは“鑑”。耳付きの広口水入れらしい。これがどうして図鑑(→图谱)とか鑑賞(→欣赏)になるのだろうか。尚、鑑の簡体字は偏がなくなり。記録で使う“録”もとなるが、実に紛らわしい。

 ついでに青銅器の「楽器」も調べようかとは思って手をつけかけたが、対象のモノが文章ではよくわらかず大変そうだから、勘弁いただこう。他も厄介そうから、日本の漢字のリストに留めた。ウエブリソース利用であり、正確さは保障できないのでご注意のほど。
 これで、おわかりになると思うが、日本人も漢字名大好き民族なのである。調べれば、使われなくなった創作漢字続々の可能性もありそうだ。あるいは、縁起かつぎで別名で呼んでいるかも知れぬが。

 ただ、個人的に気になるのでひとつだけ追加。
   鍼治療→针疗 鍼灸は针灸となる。
   針仕事→针线活

【金属楽器にはこんなものがあるようだ。】
鈴, 鐘, [はく], 鉦[しょう], (銅)鐸[たく], 鐃[どう], ロ于[じゅんう], [はく], (銅)鑼(+鎚)[どら]
【分野で適当に分けてみた。いい加減である。】
●針子/小間物: 針[はり], 鋏[はさみ], 鑷[けぬき], 釦[ボタン], 鏡, 釵/鈿[かんざし], 錺[かざり], 鈕[つまみ]
●左官: 鏝/鐺[こて]
●鍛冶: 鏨, 鑢[たがね/やすり], 鈩[ふいご], 鈑[バン], 鋲[びょう], 鋼[はがね], 鎹[かすがい]]
●大工: 釿[ちょうな], 鋸[のこぎり], 鉋[かんな], 錐[きり], 鑚[サン:穴あけ], 鑿/鐫[のみ], 鎚[つち], [ホン], 鉈[なた], 鉞[まさかり], 錘子[とんかち], 釘[くぎ]
●左官: 鏝[こて]
●農: 鋤[すき], 鍬/犂[くわ], 鎌[かま], [チツ], 鉞[まさかり], 鉤[かぎ]
●漁: 銛[もり], 錨[いかり:碇], 釣[つり]
●武: 銘[しるす:記載することが重要だったらしい.], 鏃[やじり], 鏑矢[かぶらや], 鎧[よろい], 錣[しころ:兜のスカート], 鉾[ほこ], 鎗/槍[やり], 鐙[あぶみ], 銃[じゅう/ツツ]
●処刑: [フ/おの], [シツ/かなとこ], 鉗[くびかせ], [サツ], 禁錮, 鎖/鏈
●日本刀: [はばき], 鎬[しのぎ], 鍔[つば], 色々ありそう.
●医: 鑷子[せつし/ピンセット], 鉗子[かんし], ハ[おおはり/メス], 鍼[はり], 銓[はかり]+錘[おもり]
●その他: ス[かりも:牛車などの車軸の摩耗を防ぐため中に入れる鉄の管]・・・好事家しか興味がなかろう。
■中国的用語: 鍄[中国の打楽器の一種], [太鼓の音]・・・音偏でないが。

 小生は漢字マニアでもないし、漢字検定にはさらさら興味が湧かないが、世間一般には逆のようだ。その御蔭で、Wikiや辞書/字典等が充実しているようだ。一番人気の金偏文字はなんだかわからないが、小生の当てずっぽうでは、以下の熟語。
 二文字なら“錚々”。“杰出的成员”より感じが出ており、小生は残したい言葉である。
 四文字は彫心鏤骨ではどうか。なんとなく非大陸的な言葉だが、日本の漢字マニアが一番に好みそう。
 今時、「錦を飾る」など死語に近いだろうし。

 と言うことで、第二十回はこれまで。
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 --- 参照 ---
(1) 本草綱目 金石部 金類 金属  http://www.i-apple.jp/honzo/honzo081/


 
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