トップ頁へ>>>

「我的漢語」講座

第25回 騎馬民族  2010.11.30
「漢語講座」の目次へ>>>

 



河西走廊には、当然ながらモンゴル系少数民族が残る。
 4民族がぶつかり合う地“河西走廊”を眺め、現代の中・露・イランの角逐を見ていると、少数民族の辛さを思わずにはいられない。
 シルクロードの古代ロマンということで様々な人が訪れる地になっているが、感傷に浸るような地ではないような気がする。大きな戦乱が発生しないのは、異民族が漢族によって制圧されたにすぎまい。昔も今も状況は本質的になんら変わっていない感じがするのだが。
       「關山月」  李白 (701-762年)
     明月出天山、蒼茫雲海間。
     長風幾萬里、吹度玉門關。
     漢下白登道、胡窺青海灣。
     由來征戰地、不見有人還。
     戍客望邊色、思歸多苦顏。
     高樓當此夜、歎息未應閑。

 そうそう、とり残されたように住んでいるチベット系イスラム教徒の少数民族の話をしたが、折角だから、モンゴル語系の少数民族もあげておこう。

突厥族
 の地域
蒙古族の地域
-北山- 黄河
・・・“河西走廊”・・・漢族進出地域
敦煌−酒泉−張掖−武威−蘭州
阿尔金山脉(アルチン)・祁连山脉(チーリェン)
柴达木盆地(ツァイダム) 青海湖 ■・・・
阿尼瑪卿山(アムネマチン)
黄河源 鄂陵湖(オリン) ■・・・
【西域南側山嶺の続き】 昆仑山脉(クンルン)
青蔵族の地域
 モンゴル語に近い言語を用いる少数民族なら、チベット仏教徒と思いがちだが、なんとイスラム教徒も存在する。その場所は黄河岸の蘭州。
  东乡族・・・トンシャン族
 名称から見て、東に住む人だ。西域が根城の突厥族系ということかな。蒙古人と融合してしまい、モンゴル語使用の一族になったのでは。場所柄から見て、両者を取り持つ交易一族ということか。

 その南側の山にも、モンゴル語が通じる言語のイスラム教少数民族が住んでいる。生き残った理由は、腰刀ブランドを確立したからだろう。開発が進むと山岳生活を続ける若者は激減するだろうから、おそらく残るのはブランドだけで、言葉とともに民族文化は消滅していく運命かも知れぬ。
  保安族・・・バオアン族

 チベット仏教のモンゴル語系の少数民族は、酒泉の南側の山で遊牧生活をしている。こちらは、いかにも残されてしまったという雰囲気ありあり。土地柄からみて、十分な土地が確保できなかったり、定住化政策が進む可能性が高く、民族文化の維持は大変だろう。
  裕固族・・・ユグル族

 ただ、チベット仏教でモンゴル語系と言っても、青海側に入っている少数民族になると、生活文化は完璧にチベット型。高地農業と牧畜であり、蒙古が育んだ遊牧文化とは程遠い。仏教伝来のルートに住んでいたためチベット化したようにも思えてくる。
  土族・・・トゥ族

蒙古族も漢族とスラブ族巨大国家に挟まれ、辛い境遇にある。
 ずいぶん寄り道してしまったが、西域から東へと話を戻そう。地勢は概念的に、以下の図表のようになっている訳だ。乗りかかった船で、漢語にこだわらず眺めてみるか。

 内蒙古(中国)+外蒙古(蒙古)としてあるが、蒙古族地域として考えるなら、北側も触れておかねばなるまい。贝加尔湖の東側にある布里亞特[Бурятия](俄国)である。もちろん、ブリヤート人は少数で、ロシア人がほとんどだが。

【山岳地域】 【高地】【山間部】【中・低地】【沿岸部】【海洋・島嶼】
←西 
帕米爾高原
 兴都库什山脉
 (ヒンドゥークシュ)
西域 外蒙古高原
−[砂漠]−
内蒙古高原
大兴安岭山脉
(ターシンアンリン)
 
 
太行山脉
(タイハン)
 





東 朝
北 鮮
平 半
原 島
日 日 太
本 本 平
海 国 洋
 喀喇昆仑山脉
 (カラコルム)
昆仑山脉
(クンルン)
   
黄土高原
 
【超高度地域】
青藏高原
   
四川盆地
 
喜马拉雅山脉
(ヒマラヤ)
   
云贵高原
 


 モンゴルは、日本にとっては、相撲力士でお馴染みの出身地なので、なんとなしにわかったような気にならないでもないが、まったく知らない地域と言ってよいだろう。
 小生にしても、検索していて、サイチンガ(1914-1973年)と言う内モンゴルの詩人の存在を初めて知った位だ。モンゴルには窓という概念が無く、日本で知ったと言う。冒頭の二行だけ引用するが、たったそれだけで、わかるものがあろう。もちろん、文化大革命ではスパイ扱いである。
     「窓」 サイチンガ   [チョルモン(潮洛蒙)訳] http://midnightpress.co.jp/mokuroku/mpl%20vol.3.10.10.pdf
   流してくれ、窓よ!
   憂鬱な心を照らしてくれる黎明の光を ・・・・・  


 ところで、現代においても、ざっくり見れば、西域の宗教は伊斯兰教(遜尼派)で、蒙古は藏传佛教;とされている。しかし、両者の状況は相当違うのではなかろうか。
 前者は古兰经さえあれば信仰は従前同様に続く。清真寺とは単に礼拝用の集会場にすぎず、宗教的指導者も一般信仰者のなかから何時でもあらわれうるからだ。後者はそうはいくまい。経典は万人の知るようなものではないし、特別に作られ開眼儀式を経た偶像も必要となるからだ。そんなこともあり、スターリンは僧侶集団を特に敵視したに違いない。紅衛兵も仏典・仏像・宗教施設すべてを破壊しつくしただろう。多分、遺産として残っているものは、ほんの僅か。塔利班(タリバーン)の挙動となんらかわらない。
 つらい話だが、これが現実。

ツングース系は独特の精神文化をもっているかも。
 話をさらに東へと進めよう。
 蒙古族の出自は狩猟民族ではないかという話をしたが、よく考えると、より正統の後裔ではないかと思われる一族が存在する。通古斯(ツングース)系の言葉を使っている民族だ。蒙古平原から東側はことごとくこの系統の民族地域と考えてもよいのでは。
 驚くことに、この地域には、自然の恵みだけで生活している少数民族もいるそうだ。
 黒竜江辺りの漁撈民である。
  赫哲族・・・ホジェン族/ホーチォ族
 圧倒的に生産性が高い農耕民の周囲で生活する漁民ではなく、独立独歩で民族として生き抜いているというのはたいしたものである。漁撈で集団を形成するには生半可な決意でできるものではないからだ。それほど水産資源が豊かな土地であるということも言えるのだが。

 東北平原を根城にする満州族は“清”王朝の出自だが、その精神文化はそんな自然生活が基盤にある可能性もあるのではとつい思ってしまう。
(尚、“清”王朝の元は女人族と呼ぶれている一族らしい。又、その原点は山側のオロチョン族とも。その昔の、渤海や金の流れを汲むのだろうか。狩猟から遊牧へと生活基盤の大変貌をとげてしまえば、もともとの地がどこにあったかはよくわからぬなろう。定住型でないから記録を残すことにも不熱心だろうから、永久に出自はわからないのかも。)

 おそらく、朝鮮半島に住む民族も満州族と同じような出自だろう。国家としては、朝鲜民主主义人民共和国 大韩民国;だが、どちらも体質的には“清”と似ているところがある。ともあれ中華文化を否定し、民族が取り込まれないように、必至に動かざるを得ないから、そうなるとも言えるのではあるが。
 ただ、“清”王朝崩壊後の満州族はそれはできなかったようで、独自文化は失ないつつあるようだ。漢民族にとっては、鬼門の地だから、そうならない限り、枕を高くして寝られぬというところ。

 こうなるのは、満州族王朝が、中国古来から続く「宦官」制度を信奉していたことの影響も大きそうだ。要するに、漢族差別のために家畜型制度を採用したということ。
 当然ながら、朝鮮半島でもこのミニ版が展開された。高級奴隷の宦官たる内待と、大量の一般奴隷、奴婢の両輪で国家を支えることにした訳である。
 朝鮮半島は、もともと、北の高句麗、三韓、済州島は違う民族だろうから、内部分裂を避けるために、家畜型身分制度を敷いたと見ることもできよう。
 話はとぶが、そんな時代を美化したい人だらけなのにも驚かされる。近代化されても、精神的には変わっていないということだろう。・・・北朝鮮の統治の仕方など、李朝的身分制度とどこが違うのかといった風情だし。
 こうした体質が、もしかするとツングース系文化の底流にあるのではないかと思ってしまう。もしそうだとすると、東北平原に逃れた北朝鮮難民は奴隷化している可能性もある。朝鮮半島の住民は、それを平然と眺める図が浮かんでくる。

 ところで、中国国内に存在する朝鮮族だが、これはどうみても、難民的に朝鮮半島から流入した人達だ。朝鮮半島北側は寒冷地だが、そこで米作を可能にした訳で驚異的スキル。しかし、冷害には極めて弱体である。現代でもそれは変わらなかろう。
  满族・・・満[州]族
  锡伯族・・・シボ族/シベ族
  朝鲜族・・・朝鮮族(おそらく、高句麗)

 そうそう、ここで、この東西に繋がる遊牧というか騎馬民族ベルトを切る訳にはいかない。朝鮮半島のさらに東には日本があるからだ。
 当然ながら、ツングース的な文化も流入したに違いない。しかし、不思議なことに、宦官制度を受け入れることはなかった。それに、野生動物の狩猟は一向に気にならないにもかかわらず、家畜の去勢・屠殺には不浄感を抱いたようで、えらく嫌ったのは間違いない。ツングース系は生贄儀式が重要だが、日本では、その風習にはどうしても馴染めなかったようである。野生動物の肉を神に供えることはあっても、血や内臓は禁忌なのである。
 なにか根本的なところで、文化的な違いがありそうだ。

 と言うことで、第二十五回はこれまで。
<<< 前回  次回 >>>


 
    (C) 1999-2010 RandDManagement.com