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「我的漢語」
2014年3月10日

蓮こと荷

806年創作の白居易の「長恨歌」には、都へ戻った玄宗皇帝の姿が描かれている。宮殿は、池も庭もみな元のまま。しかし、殺されてしまった楊貴妃だけは居ないのである。未央宮の北にある太液池で咲く"芙蓉"の花を眺めると、それが懐かしい彼女の顔のように映り、涙が止まらないのである。

  歸來池苑皆依舊
  太液芙蓉未央柳
  芙蓉如面柳如眉
  對此如何不涙垂

この"芙蓉"とは、蓮のこととされる。いわゆるフヨウは木芙蓉で、蓮は水芙蓉ということ。素人にはどうしてそうなるのかよくわからぬところ。紛らわしいが、致し方なし。

楊貴妃ほど有名ではないが、臥薪嘗胆で知られる呉王 夫差の妃西施も溺愛されたクチ。蘇州 霊岩山に蓮池"玩花池"を作ってもらったのである。・・・というか、現在の観光地の謂われ。

それにしても、中国では、どうして、そこまでハスに入れ込んだのだろうか。
先進文化の地インドへの憧れと言うことかネ。
ヒンドゥー教の美と豊穣と幸運を司る、吉祥天女ことLakshmi(最高神の湿奴/Vishnuの妻)は、蓮華の目と蓮華の色をした肌を持ち、蓮華の衣を纏っており、蓮の女神そのものだから。その後、それが仏教に入ってくる訳である。
  目浄修広如青蓮
   仏の目は、清浄で広くカバーし、青蓮の如し [維摩経 仏国品]
仏教では青蓮華を尊ぶ訳だが、青は蓮の花の色ではない。黄蓮華という用語も使われているそうだから、睡蓮と蓮が混交してしまったようである。中国では、美人の花だったから、紅色と決まっていたのに、仏教伝来で変わってしまった訳だ。以後、中国では、蓮/Lotusと睡蓮/Water Lilyはゴチャゴチャに。もっとも、英語も、通常は両方ともにLotusで通用しそうだから、無理もない話か。
日本は中国仏教を取り入れたから同じような感じかも知れぬ。

それはともかく、中国美人は、観蓮がことのほかお気に入りだったことがよくわかる。

一方、日本では、以下のように、万葉集を見る限りそうはならなかったようだ。と言って、仏教色も無いのである。
[#3289]---剣の池
  御佩乎 劔池之 蓮葉尓 渟有水之 徃方無 我為時尓 應相登 相有君乎 莫寐等
   母寸巨勢友 吾情 清隅之池之 池底 吾者不<忘> 正相左右二

詠荷葉歌[#3826]---蓮葉v.s.芋葉 [→「葉が食事用品として使われた木 」]
  蓮葉者 如是許曽有物 意吉麻呂之 家在物者 <宇>毛乃葉尓有之
獻新田部親王歌一首[#3835]---勝間田の池
  勝間田之 池者我知 無 然言君之 鬚無如之
[#3837]---蓮葉上の水玉
  久堅之 雨毛落奴可 蓮荷尓 渟在水乃 玉似<有将>見

以後、仏教に席巻され、日本では蓮は宗教的なものと化したようである。それを打ち破ったのは、おそらく俵屋宗達の水墨画。
  → 国宝「蓮池水禽図」 [京博所蔵]@e國寳
これが日本的な観蓮ではないかという気がする。絶世の美女が登場する雰囲気とはかけ離れている。

ところで、フヨウという漢字がどうにも気になるので、諸橋・大漢和辞典の「冠(艸)」の部を覗いてみた。すると、ハスには様々な漢字があてられている。ただ、その使用は引用文献でマチマチと、混乱状態。各漢字が何を指すかは定かではない。
折角眺めたので、そのままにしておくのも能が無いということで、小生の勝手な解釈で以下のようにしてみた。
  ハスという植物・・・""
  荷の蕾・・・"" (異義:ふじばかま)
  荷の花(開花)・・・""
  蜂巣/蜂窩・・・""
  荷の実・・・""
   種子が入っている場所が「蓮房」
   保存種子は「石蓮子」
  荷の種子・・・"" (勺は的の略字)
  荷の茎・・・""
  荷の根元・・・""
  荷の根 [→]・・・""
  荷の葉・・・"[+遐]"

美女に現を抜かす時代の蓮は、豪華な庭での鑑賞用でしかなかったが、それ以前は様々な部位が食用とされ、極めて重要な植物だったことを物語っていそう。

(ハスの花のイラスト) (C) お花のアイコン館 [美咲] お花のアイコン館 http://flower.girly.jp/hanasakuin/text/006hax
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