表紙 目次 | 「我的漢語」 2015年1月26日 牛漢字受験生だらけになると言われる「始め天神」ということで、菅原道真の梅を詠んだ歌でもタネに何か書こうと思っていたら、ついつい漢詩へと進んで、毛沢東の詞にまで発展してしまった。→ 「咏梅」[2015.1.25] 漢詩の題材として定番中の定番だから、梅の歌が残るのはわかるが、天満宮の神使として臥牛像が置かれるのは、なんともわかりにくい。もちろん、色々な説明はあるにはあるのだが。・・・ 道真の出生年は丑年である。 大宰府への左遷時、牛が道真を泣いて見送った。 道真は牛に乗り大宰府へ下った。 道真には牛がよくなつき、道真もまた牛を愛育した。 牛が刺客から道真を守った。 道真の墓所(太宰府天満宮)の位置は牛が決めた。 まあ、どうでもよい話だが、白川静さんの「字統」を眺めていたら、その模範解答が記載されていることに気付いた。日本人大好きな単なる習合にすぎなかったとは知らなかった。 学問の神様とされるにしては、牛を選ぶとは、センスに欠けると思っていたが、これで氷解。 要するに、天神様が清涼殿に雷を落としたことが、そもそもの始まり。それが春雷だったのかは、調べてはいないが、牛=雷ということらしいのである。 言うまでもないが、日本における牛とは、肉用でもなければ、乳用でもなく、もっぱら役用である。貴族社会では牛車用で、民衆的にも運搬荷役だったのは確かだが、一番重要なのは春耕である。 これを怠ると収量は激減するから欠かせない。それを始める合図が、春雷だった。季節的には、おそらく、啓蟄の辺り。 かたや牛だが、厄払いとして、大寒前夜に「土牛童子像」を門に立て、立春前夜に撤去する儀式が行われていたそうだ。守護神を入り易くするためであろうか。そうなれば、春雷に合わせて、土牛を飾る風習もあってしかるべし。 それが、天神様を祀るという方向に進んだ訳である。 ということで、せっかく「字統」を手にとったので、「牛」について。(ママ引用ではないのでご注意のほど。) 先ずは、正面から見た象形文字。 牛/牜=「Ψ(角頭)+V(腰骨)」 :[農耕的変化「V→−」 当然ながら、性器の形状を示す文字も作られた。 ♂牡=「牜+⊥」 ♀牝 羊にも、字体は違っても、同様な文字があったのだろうが、どれが該当するのかはっきりしない。牛の性別表現だけが残ったのだろう。♂♀の文字としては、雄雌もあるが、それはトリであるから小型向き。大型は牡牝を当てるのだろう。 それでは、集合字体を見てみよう。 犇(奔)=「牛x3」 現代では忘れ去られているが、牛はビックリすると集まって走る。と言うか、恐怖感からひしめきあって奔走する。馬[驫]や鹿[麤]も同じ。羊[羴]は集まると臭くなるが。犬[猋]も群れて疾走し始めることがあるが、それは驚いたからではなく、狩猟本能に火がついた時。 𤛭=「牛x4」はよくわからず。 2頭は喧嘩なのか、仲間を確かめあうのか、よくわからぬが鳴き声のようだ。犬[\]だと間違いなく果し合いの声だろう。 牪=「牛x2」 鼻環と縄をつけて引いていく時の鳴き声は別である。 牟=「ム+牛」 縄をつければ引く行動。 牽=「玄+冖+牜」 その綱の文字もある。・・・牶 角木を付けて使役という場合もある。・・・牿 巨大な動物だから、大勢で食べる体制が整わないと肉用にしにくい。従って、最初は農耕用家畜だったと思われるが、どうなのだろうか。 犂/𤛿は牛が牽引する農具。ヒトが土を掘り起こす道具は鋤と呼ぶ。機能は似ているが、全く違うものである。 そのスキ(勿)で土を撥ねる牛は、極く普通の種類。 物=「牜+勿」 この牛は、一般的だから雑種ということになる。毛色も雑色と考えてよいだろう。一般物という意味として使う訳である。 一般とは呼べなくなると文字は変わる。 特=「牜+寺」 特殊な種という訳ではなく、去勢しない♂牛である。ご立派ということにつきよう。 去勢する方は、いくつかの文字があるのは、やり方が違うということではないか。動物が違うなら、偏を変えればよいという訳にはいかないようだ。・・・犍/犗/㸫(最後の文字は折るのだろうか。恐ろしき。) 中華帝国としては、農業用より重要なのは、祭祀用である。素晴らしい生贄を捧げることが最優先されたのは言うまでもない。 犠(犧)牲 犠は宗廟用という意味らしいが、最高というか、完璧な生贄(=「牜+生」)が要求される訳である。 雑毛牛"物"と対比的なのが、純色牛で牷。これが正式な生贄用だろうか。優れているという意味では斑牛(犖/荦)だが、儀式用は一色モノが基本だろう。 尚、日本的な神人相和す型の、酒食舞楽の祭祀は特別で、犪とされたらしい。単に、軍門用の宴会というか、労いの場合は、犒。 面白いと思ったのは、牢。いかにも牛舎だが、家とは違い柵で囲ったものだったそうで、これは間違い表現らしい。「冖」たるべきとか。日本の農村だと、家だった可能性もありそうだが。 一方、放つのが、牧。草原で食む状態だと𤘠。なかなかの感じ。 牛の漢字は極めて多数にのぼるが、これは牛の分類が多岐に渡るということだと思われる。当然ながら、字義が良く分からなくなっているものも多い。 羊では結構わかるものが多いが、こちらはかなり難しい。 → 「羊文字圏のお散歩」[2015年1月2日] そのなかで、牛とは言い難き動物をあげておこう。 牨/𤘺・・・水牛 𤚑・・・麝香鹿 犀・・・角皮堅強動物ということか。 犛はカラウシと呼ぶ、西南夷の長髪牛とされているが、調べていないので何を指すのか想像もつかない。羚牛(ターキン)のことかも知れぬ。各地の様々な家畜品種それぞれに名前がついていただろうが、ほとんどが消え失せているから、漢字は残っていてもナンダカネの世界だろう。 ただ、犦は想像がつく。絶滅した原牛/オーロックスでは。それなら、瘤牛があってもよい筈だが、みつからなかった。 家畜の分類用語としては、西洋でも、♂♀に子供は別単語が原則であるから、仔を見ておこう。なんとなく、贖を連想してしまう。・・・犢 犝はどうなのだろうか。 孕んでいる場合は、𤚏である。種と似た概念か。 年齢別ももちろん存在する。・・・㹑-犙-牭 力があるものもしっかりと分別。・・・牞 角の形状分類もありそう。・・・㸷、𤙜、㸭、[無角]㸰 他の部位の特徴でもいくつか分類はあるようだが、マイナーなものではなかろうか。 ということで、この辺りで。 (C) 2015 RandDManagement.com |