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「我的漢語」
2015年2月15日

竜と龍 [続]

「竜と龍」を二十八宿と十二支で考えてみたが、尻切れトンボで終わったので、その続き。
   「竜と龍」[2015年1月5日]

考える際には、十二支の"辰"が該当しているので、そこから始めると見えてくる気がする。
と言うのは、小生は、この12の生肖は家畜化された「飼育動物」と見るからだ。そこらの考え方を整理しておこう。
   「十二支文字考」[2014年7月11日]

十二支は、あくまでも暦(太歳紀年)にかかわることであり、為政者にとって極めて重要な領域。適当に決めることが可能な訳がない。もともとは生肖が登場する余地などあろう筈もない。権力が自分の論理で決めればすむこと。
その12の記号が【子〜午】である。どうしてそのようになったかは、【孳〜】ということになる。その思想は明瞭とは言い難いが、それなりのポリシーがあることはわかる。しかし、為政者としては、記号では拙い訳で正式名が必要となる。ところが、これが厄介極まる代物。なにせ、文字を知っている現代人でさえ、何ひとつとして用語の意味がわからない状態だからだ。例えば、「赤奮若」と表記されても、この文字から何のイメージも湧くまい。すでに語源さえも推定できない状況に陥っている訳である。逆に言えば、高級官僚が覚えているなら、それでOKという考え方だったことになる。
 子-孳--困敦
 丑-紐--赤奮若
 寅-移--攝提格
 卯-冒--單閼
 辰-震--執徐
 巳-已--大荒落
 午---敦
 未-昧--協洽
 申-伸--
 酉-老--作鄂
 戌-滅--
 亥---大淵獻

しかし、中華帝国発展に本気で取り込むなら、これは拙い。異なる言語・文化の地域の人々を囲い込むには、なんとしても12ヶ月の表記を標準化させる必要があろう。
もともと暦作りとは天文学そのものでもあるから、西洋のように、12の星座というのが手っ取り早いのだが、それは沙漠を夜通行する地域を囲い込むには便利だが、東アジアの広大な大陸では無理がある。ましてや、「葉月」とか、「文月」といった情感共有を前提した名称が使える訳もない。
そうなれば、中華世界を形作る国々のシンボルである動物名称で12ヶ月を表現するのは悪くない手法である。ただその場合、天子の手元にそうした動物を置いておくべきとなるのでは。それぞれの国は朝貢してくる訳で、その象徴たる動物は飼っておく必要があるということ。
それが生肖ということになる。つまり12の現存動物が選ばれた訳である。従って亥とは野生のイノシシではなく、家畜化されたブタ(豚)である。
 子→
 丑→

 寅→
(虎)・・・虎猫
 卯→

 辰→
■・・・非実在
 巳→

 午→

 未→

 申→

 酉→

 戌→

 亥→
豚・・・表記は猪

そうなると、(虎)が気になる訳だが、現代でも虎を飼うのは難しいという訳ではない。
   「Living With Tigers: Family Share Home With Pet Tigers」 @YouTube

ただ、もう一つポイントがある。天子が飼うことが不可欠だと思うが、同時に、どの地域の人々に対しても、実物を目で見てもらえるものでないとこまる。
従って、虎模様に近い家猫も代替動物として使われたと見てよいかも。要するに、猫+虎の毛皮で、実物感覚を味わうということ。象や熊が選定されていないのはそれが難しいからである。
駱駝、騾馬、水牛、牛[ヤク]も、その観点では今一歩ということだろう。家畜化では犬と共に古いと思われる山羊が登場しないのも、性格が頑固であり、遠距離旅行に向かないからではないか。
亀はあってもよさそうに思うが、それに該当する地域を設定できなかったからか。

ただ、こうすると、一つだけ穴があく、それが辰である。龍とされているが、空想の生き物なので、そのまま受け取ると、このような考え方には乗らない訳である。
しかし、これが実在動物となれば別である。有鱗の王者とされているから、その可能性としてはこんなところが考えられよう。
 ・揚子江ワニ[]
 ・マレー辺りのガリアル[長吻]
 ・熱帯/亜熱帯アジアの水辺に棲息する鰐
 ・中国本土で絶滅した獰猛な大型種[,,]
 ・陸棲大蜥蜴
 ・海の爬虫類[蜃]

絶滅したので、仮想生物になってしまったと考えたいところだが、小生は揚子江ではないかと見る。こちらも絶滅寸前だが、簡単に養殖できるからだ。・・・中国、揚子江ワニをまたも放流 「中国国際放送局 日本語部」2007年6月14日
つまり、ほとんど「飼」。古代は家畜だっかも。肉もさることながら、太鼓用の革として不可欠だった可能性があるからだ。(古層の文化を引きずっていそうな日本が、到来した「楽」を編成して、和の雅楽を確立したのだが、その3楽器は、龍笛、龍琴、鼓。実は皮の龍鼓だった時代を偲んでいるのかも。つまり、天皇家の母方祖先の「鰐家」の楽を新時代のフォーマットで復活させたと見る訳。)

それなら、何故に「辰」を「」にしないのかとなるが、そういう見方をするのは拙い。当初は揚子江ワニだったのだが、中華帝国のシンボルとなってきたのでそれを神聖化する必要に迫られたということではないか。

何故、そんな風に考え始めたかと言えば、「竜」という文字の存在。「龍」の略字とされるが、古代から通用している文字であり、日本が勝手に略字扱いにしたと言われている。このことは、「龍」と「竜」が別な意味だったことを示しているのでは。・・・「竜」とはメスで、「龍」がオスということ。大陸では、日本とは違って、雌雄がはっきりしない生物はインチキなのだ。たとえ霊獣であってもだ。一寸眺めて見ると、その感覚がわかる筈。
 陽♂ 陰♀  阿♂ 吽♀
 牡♂ 牝♀・・・蹄家畜
 bull♂ cow♀
 stallion♂ mare♀
 羝♂ ♀   「羊文字圏のお散歩」[2015年1月2日]
 ram♂ ewe♀
 麌♂ ♀・・・鹿
 buck♂ doe♀
 ♀・・・いのしし
 boar♂ sow♀
 fox♂ vixen♀
 雄♂ 雌♀
 鴛♂ 鴦♀・・・おしどり
 翡♂ 翠♀・・・かわせみ
 cock♂ hen♀
 drake♂ duck♀


これを霊獣に当て嵌めるとこういうことになろう。
 鳳♂ 凰♀・・・ほうおう (羽分野の頂点)
 蛇♂ 亀♀・・・玄武 (特別)
 麒♂ 麟♀・・・きりん (毛分野の頂点)
 龍♂ 竜♀・・・りゅう (陸鱗分野の頂点)
 蛟♂ ♀・・・みづち (水鱗分野の頂点)

龍、竜、蛟、辺りがごちゃまぜになってしまい、「龍」に統一されてしまったのである。それを中華帝国のシンボルとしたからだろう。
それにともなって「辰」も無理矢理に「龍」にされたということでは。
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