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「我的漢語」
2015年6月6日

「聞蛙」詩

「水にカエル。そして、歌垣。」の季節がやって来る。
   日本語の語彙を探る「ヒキ v.s. ガマ 」 [2015.4.10]
と言うことで、「聞蛙」詩堪能特集。

蛙と言えば、「古池や 蛙飛びこむ 水の音」だが、蛙の鳴き声を聞こうということではないから、その手の代表作品は「色も香も なつかしきかな 蛙なく 井出のわたりの 山吹の花」では。(かはづ鳴く井手の山吹散りにけり花の盛りにあはましものを[古今]@京都府綴喜郡井手町の木津川支流玉川)もちろん、万葉集にも数々ある。(かはづ鳴く 甘南備川に 影見えて 今か咲くらむ 山吹の花 厚見王 #1435)
大陸には、その手の情緒感はなさそう。
驚いたことに、大陸で「聞蛙」というと、晉惠帝 昏庸愚昧が真っ先に頭に浮かぶらしい。検索すると、コレだらけで眺めるのが面倒になってくる。天下大荒亂、百姓餓死の大元は忘れるなと言うことか。

有名にしたのは、たった一つの質問。
 晉惠帝Q:"此鳴者為官乎?私乎?"
確かに下らん。官の池では官の為に、私の池では私の為にとしか答えようがなかろう。そこで、そう答えたりすると処罰が待っているのだろう。

さて、まともな詩の方だが、先ずは、茶詩の最後でとりあげた陸游から。このお題で詠んでいないなどありえないと踏んだら図星。
    「聞蛙」 陸游@宋代
  科鬥忽安在、蛙聲豪有余;
  雖成兩部樂、恨失一編書。
  忿怒縁何事?
  號呼可奈渠。
  廚人不遐棄、猶得伴溪魚。


素養が無いので、どのような詩を詠む人なのか全く存知あげないが、正統調もある。
    「聞蛙」 蘇頌@宋代
  蛙黽何所恃、喧喧矜善鳴。
  不知穢質、群沸沼池清。
  遊子得無泪、羈人若爲情。
  華堂有絲竹、皆厭爾虚聲。


時代は新しいが、至極わかり易い詩も。
    「聞蛙」 倪瑞@清代
  草告エ池水面ェ、終朝閣閣叫平安。
  無人能脱征徭累、隻有青蛙不屬官。


「聞蛙」という短い題ではないものもあるので、ご参考に2首。
    「道中聞蛙聲」 張舜民@宋代
  一夜蛙聲不暫停、近如相和遠如爭。
  信知不為官私事、應恨疏螢徹夜明。


    「雨後聞蛙」 良能@宋代
  雨過窗虚夜氣清,草間何處亂蛙鳴。
  休論公地兼私地,且聽蘿根呷呷聲。


なんといっても、圧巻は高青邱の作品。と言うか、驚愕は句ではなく、注釈の方。どうも、聞蛙聲以外を含め、カエルに関するお話を凝縮させたかったようだ。すべての5文字に、なんらかの詩、事績、伝承話が暗示されていそう。もちろん、冒頭の愚帝の話も"莫問官私地"という句で紹介されている。ピーター・ブリューゲルの絵を思い出させるような作品に仕上がっている訳だ。
この注釈で、小生は、ガマガエル食を始めて知った。ガマガエル食はへばるとの詩があるのだ。まあ、ガマは、皮を剥げば確実に不可な筈で、悪食にもほどがあろう。
   「カエル食概念について」[2015.4.8]
潮州に配流となった韓愈と柳宗元が北方人同士のよしみで、南方人の蛙食を半ば揶揄した詩を交換したということなのだろう。
    「聞蛙」 高青邱@明代
     [全集 律詩巻2近藤元粋 編]http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/894871
  何處多啼蛤。
  ・・・蘇軾
     "稻涼初吠蛤、柳老半書。"

  荒園暑潦天。
  股跳泥活活。

  ・・・白居易「連雨」
     "水鳥投簷宿,泥蛙入戸跳。"

  形蔽草
  野遠呼相應。
  窪深樂自專。
  斜陽漁外。
  細雨客燈前。
  莫問官私地。

  ・・・晉惠帝
  聊占水旱年。
  ・・・章孝標「長安秋夜」
      "田家無五行、水旱蔔蛙聲。"

  晴思蒲葉渚
  ・・・王建「路水驛」
     "蛙鳴蒲葉下、魚入稻花中。"

  涼憶稻花田
  高士聽空愛

  ・・・孔稚珪
     “門庭之内、草莱不剪。”

  遷人食未便
  ・・・韓愈「對柳柳州食蝦蟇」
     "余初不下咽。近亦能稍稍。
     常恐染蛮夷。失平生好樂。"

  灑灰誰解去
  ・・・周禮
     "氏掌去蛙黽。焚牡鞠。以灰灑之則死。"

  安我夜窗眠

よくよく考えれば、"聞蛙聲"は、大陸での季語のようなもの:「孟夏之月・・・鳴,蚯出,王瓜生,苦菜秀。[禮記 月令31-32]しかし、そのとらえ方は、島嶼日本のようには一様にはならないということ。

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