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■■■ 日本語の語彙を探る [2015.4.10] ■■■
ヒキ v.s. ガマ

和語の「かえる」は、いかにも感あり。

陸上棲の生き物が、歌垣の季節になると、淡水棲に返り、なんとしても伴侶を得ようと必死に鳴き続ける姿に感動を覚えた故の言葉としか思えないからだ。
紅葉(もみじ)を歌に詠む時は、カエデ(蛙手)とするのも、そのセンスを大切にしたいが故だろう。

もっとも浪速では、「小便」というジャーゴン(スラングではない。)に使われる生物でしかないようだ。そんな高尚な扱いはトンデモない話だと言うのだろう。言うまでもないが、買ワズは小便をひっかけて逃げる輩だと見なしている訳である。多分、江戸の軽口「蛙の小便(田へしたもんだ)」対抗で編み出したものだろう。
その手で考えれば、変態にビックリして「変わる」と呼んでいたのがカエルになったとか、カエルが鳴くから「帰ろう」に由来するとか、・・・といった語呂合わせはいくらでもありそう。(オヤジギャグを開陳すると顰蹙モノなので止めておくが。)
従って、こうした駄洒落が辞書に正式の由来であるが如く登場しかねないのが和語の特徴でもあろう。つまり、辞書学者は、さりげなく自作を入れ込むことも可能なのである。それこそが辞書学者の特権だから、これを活かさぬ道理はなかろう。一人でほくそ笑んで、手酌する姿が目に浮かんでくるが、そんなことを言いふらすのは無礼千万。几帳面で真面目で有能な先生ほど、やりかねないと、小生は睨んでいる訳だが。

ともあれ、漢字では、「蛙」と「蟆」を峻別する訳だが、倭ではどうしてもそれはできなかったのが面白い。端から、大陸とは感覚が違うのである。
ガマは大陸でよく使われる「蛤蟆[há ma]」という言葉から来ているようだが、これもそのままにしておけず、「ガマがえる」と変えるのだから、相当な思い入れがあると見てよかろう。
  カエル食概念について [20150408]
  日本人のカエル観 [20150405]

ただ、よくわからないのが「ヒキがえる」という呼び名。

FlogとToadを分ける感覚から言えば、「跳ぶ類」と「引き摺る類」となるが、もともと跳ぶことにそれほど関心を示していなかったからこそ有名になった小野道風のお話。しかも絵がガマ風になっていたりするから、結構、無神経なので、この説は今一歩である。
一方、「餌を長い舌で引く」生態に特徴を見出したということなら、蛙全般に当てはまる。そうなると、「かえる」の古語と考えるしかない。確かに、古くは「かわず」や「びき」と呼んでいたようだからその可能性はありそう。前者はどう考えても河鹿蛙を指しているが、後者はガマを含めたカエル全体のようだし。

そうなると、「ヒキ+カエル」は古語と新語をダブらせた語句となるが、いくらなんでもそれは。
どうも、今一歩すっきりしない。

考えあぐねていたが、ヒキガエルの方言分布を見ていてなんとなく感じるものがあった。・・・
ガマは特別な信仰に関係していそうだkらだ。

【先島】 フナ

ビキ系>
【南島】
 沖縄本島 ワクビキ・・・(水)湧くか?
 奄美 アタンビキ・・・植物のアダンか?
【土佐山側】 ゴトビキ
【瀬戸内海南側】 オンビキ・・・御か?
【明石辺り】 〃
【長州全般】 ドンビキ・・・殿か?
【長州日本海側】 ニュードービキ・・・入道か?
【中国地方山側】 ヒキ or ビッコ
【紀伊山側】 ゴトビキ
【中部】 ヒキ
【畿内・山陰・越】 ヒキガエル
【関東・甲州】 〃

ゴト
【阿波】 マツゴト
【紀伊半島西南】 ダンゴト
【紀伊半島先端】 ゴト

【長崎の島嶼】 オンジョーコ

<竈[クド]守系>
【鹿児島】 ドンク
【九州】 ワクド
【大分】
 南 ヤマバクド・・山竈守か?
 中 タンノバクド・・・丹野竈守か?
 北 カサバクド・・・(雨降り)笠竈守か?
【土佐海側】 ヤド(モリ)・・・宿守か?

ガマ系>
【北関東・北海道】 ガマガエル

<転移>
【伊豆】 オバガエル・・・琉球方言「おはぁ」か?
【房総】 アンゴガエル・・・アタンビキのカエル化か?

カエルについてもわかっていないと、全体像がわかりにくいので触れておこう。こちらは結構単純な分布。
カエル」が主流で、関東〜相馬辺り、畿内〜中国地方東側。
「かわず」がこの2地域に挟まれた山がちな場所で、長野〜東海。北陸はその濁音化(ガ,ギャ)。
ヒキ」はこれらの外周部。長州〜瀬戸内北沿岸と土佐。濁撥音化地域は、東北や九州。それに、奄美大島、愛媛の一部、紀伊半島先端、伊豆半島。
南島は別で、沖縄本島は「アダビチー/アダビチャー」。ビチとビキは違うのか、同じなのかよくわからない。
先島は「アウ/オッ」。

(source) 佐藤亮一 監修:「方言の地図帳」 小学館 2002[新版]

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