■■■ 「說文解字」「爾雅」検討[3i釋訓]■■■
「爾雅」は字書としては、網羅性に欠け、中途半端とも言えそう。というか、そういう書であることを読者に伝えていると考えるべきだろう。流石、儒教経典の感あり。

網羅的というと誤解を招くかも。
要するに、複数存在を示す時には、<○○等>と記載するし、分類の際のは<その他>の項目を設けるのが普通というだけの話。論理的に網羅性を担保しているだけで、実際に網羅的検討がなされたか否かの問題ではなく、体裁だけ。

この観点では、釋訓の重畳表現で、同一連句を記載しているのは拙い。これでは、意義は色々あるものの代表的なもの1つを選定しているとの体裁が崩れてしまう。
  穆穆 肅肅…【敬】
  肅肅 翼翼…【恭】

熟語"肅肅"は字画が多くて面倒にもかかわらず、未だに現代日本語でも使われているし、詩吟の言葉"鞭聲粛粛夜過河"として大衆化している表現だから、特に目立つ。(意味は【敬】【恭】以外もあることは確実で、情緒的に"多彩"な表現がされていることになり、多分にオノマトペ的と言えそう。そこらが、古代表現的なので日本人好みと言うことだろうか。)
マ、儒教経典として読む上では、どうでもよい話なので「爾雅」が関心を示す道理が無いが。

ただ、溜息が出る。

漢代に於ける「爾雅」の学習とは、上記の2行を見て、以下の詩がすぐに頭に浮かんでこないと、ほとんど何の意味も無い、ということでもあるからだ。

科挙合格者の凄さは、現代の優秀な受験生とは訳が違う。最難関とか言われていても、要領よく"傾向と対策"を練れば、テストをパスするのはそう難しいことではないので、真剣度が違うとも言える。認官されなければ、帝国内で人間としての地位を得られないし、宗族浮沈を背負って肅肅と受験に臨むしかないのであり、文字通り必死。
この程度の暗記などどうという話でもない。・・・

 肅肅兔罝 椓之丁丁 赳赳武夫 公侯干城
 肅肅兔罝 施于中逵 赳赳武夫 公侯好仇
 肅肅兔罝 施于中林 赳赳武夫 公侯腹心

    [「詩經」國風 周南 兔罝]  …恭謹
 嘒彼小星 三五在東 肅肅宵征 夙夜在公 寔命不同
 嘒彼小星 維參與昴 肅肅宵征 抱衾與裯 寔命不猶

    [「詩經」國風 召南 小星]  …迅速
  芃芃黍苗 陰雨膏之 悠悠南行 召伯勞之
  我任我輦 我車我牛 我行既集 蓋云歸哉
  我徒我御 我師我旅 我行既集 蓋云歸處
  肅肅謝功 召伯營之 烈烈征師 召伯成之
  原隰既平 泉流既清 召伯有成 王心則寧

    [「詩經」小雅 魚藻之什 黍苗]  …嚴正
  :
  仲山甫之コ 柔嘉維則 令儀令色 小心翼翼
  古訓是式 威儀是力 天子是若 明命使賦
  :
  肅肅王命 仲山甫將之 邦國若否 仲山甫明之
  既明且哲 以保其身 夙夜匪解 以事一人
  :

    [「詩經」大雅 蕩之什 烝民]
  有來雝雝 至止肅肅 相維辟公 天子穆穆 於薦廣牡 相予肆祀
  假哉皇考 綏予孝子 宣哲維人 文武維后 燕及皇天 克昌厥後
  綏我眉壽 介以繁祉 既右烈考 亦右文母

    [「詩經」周頌 臣工之什 雝]
  肅肅鴇羽 集于苞栩 王事靡盬 不能蓺稷黍 父母何怙? 悠悠蒼天 曷其有所
  肅肅鴇翼 集于苞棘 王事靡盬 不能蓺黍稷 父母何食? 悠悠蒼天 曷其有極
  肅肅鴇行 集于苞桑 王事靡盬 不能蓺稻粱 父母何嘗? 悠悠蒼天 曷其有常

    [「詩經」國風 唐風 鴇羽]
  思齊大任 文王之母 思媚周姜 京室之婦 大姒嗣徽音 則百斯男
  惠于宗公 神罔時怨 神罔時恫 刑于寡妻 至于兄弟 以御于家邦雝雝在宮 肅肅在廟 不顯亦臨 無射亦保
  肆戎疾不殄 烈假不瑕 不聞亦式 不諫亦入
  肆成人有コ 小子有造 古之人無斁 譽髦斯士

    [「詩經」大雅 文王之什 思齊]
  鴻鴈于飛 肅肅其羽 之子于征 劬勞于野 爰及矜人 哀此鰥寡
  鴻鴈于飛 集于中澤 之子于垣 百堵皆作 雖則劬勞 其究安宅
  鴻鴈于飛 哀鳴嗸嗸 維此哲人 謂我劬勞 維彼愚人 謂我宣驕

    [「詩經」小雅 鴻鴈之什 鴻鴈]
  

     

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