■■■ 「說文解字」「爾雅」検討[9da釋地]■■■
【九府】【五方】の記載パターンについては、という文字について取り上げたが、個々の記述についても見ておこう。細かな点を追求したいのではなく、全体として、何を表現したいのか考えるための検討。
例えば、小生なら、8方角として、絲竹金石匏土革木(音器の材分類)を当てたくなるが「爾雅」はそういう安直な設定をしている訳ではなさそうだし。
 東方美者 醫無閭c玗h
 東南美者 會稽竹箭
 南方美者 梁山犀象
 西南美者 華山金石
 西方美者 霍山多珠玉
 西北美者 崑崙虚璆琳琅玕
 北方美者 幽都筋角
 東北美者 斥山文皮
 中岱岳 與其五穀 魚 鹽生 ━━九府

【c玗h】
夷玉ということになる。地域的に錦州石を指し、瑪瑙との説があるが、現代商業的には遼寧省鞍山市岫岩满族自治縣産岫岩玉が該当するとされているようだ。
(醫無閭とは「山海經」での東夷語と思われる鮒魚の可能性もあるらしく、その場合、記載から見て4蛇体を意味する玉との見方も生まれる。)

【竹箭】(如竹箭曰:苞@釋木)
…竹製矢とするものの、実体不明。鏃が金属とか石あるいは角なのか、これも加工竹細工の箭頭かも知れない訳で。鏃が石だとすれば、軸木は竹でも、中子は葦である可能性が高い。現代感覚だと、軸は当たり前の様に細竹の篠竹と考えてしまうが、古代は蓬莱竹あるいは根曲がり竹が使われていた可能性が高い。その場合は、鳥の尾羽根が付いていると見た方がよいと思う。
小生は、遠くから鳥を射落とす狩猟用具の、特別な種の竹で作られた、先が鋭利で細くて長い矢と見る。とてつもない性能を発揮していたことになろうが、装飾品としても美麗そのものだった筈。

【犀象】
戦争に象が使われていたことは、知られていた筈で、獰猛さが賞賛されていたのは間違いなかろう。
  其人民乘象以戰・・・然聞其西可千餘里有乘象國 名曰滇越
     [「史記」卷一百二十三大宛列傳第六十三]
  周公相武王 誅紂 伐奄 三年討其君…驅飛廉於海隅而戮之
     滅國者五十 驅虎豹犀象而遠之---天下大ス

     [「孟子」滕文公下]
王朝としては、それを踏まえて、盃や箸として用いていたということか。
  犀象之器不為玩好
     [「史記」卷八十七李斯列傳第二十七]
  紂為象箸而箕子唏
     [「史記」卷十四十二諸侯年表第二]

【金石】
奇險天下第一山たる華山の象徴ということになる。風化花崗岩の断崖絶壁ということで、金石からできているということなのだろうか。
「禮記」四嶽を引用記載した西嶽華山廟碑(漢隸@前165年)でも著名な地だが、この意味での金石という訳でもなかろうし。

【多珠玉】
玉は現代の評価からすれば硬度が宝石類からすれば低すぎ。玉とはそういうモノだが、どうして、価値が高いのかという疑問が湧くことになる。しかし、その美しさを語る書籍の類は五万とあるものの、納得のいく解説を見たことがない。ともあれ、璧を中核とする祭祀器として、禮に制度的に組み込まれたので、儒教的宗族信仰が確立すると、切っても切れない関係が出来上がったということか。
(倭国には勾玉があるものの、玉と比較すると独自性が高すぎて、どう見ても玉文化と繋がりありとは言い難いところがあるし、玉文化が流入した気配も無い。現代に至るまで、収集の意気は感じられない。この環境下では、玉文化を云々する能力が育っている訳がない。)
「說文解字」≪玉≫は美玉文字だらけ。
  彼汾一曲 言采其藚 彼其之子 美如玉 美如玉 殊異乎公族
     [「詩經」國風 魏風 汾沮洳]
  言念君子 溫其如玉 在其板屋 亂我心曲
     [「詩經」國風 秦風 小戎]

【璆琳琅玕】
美玉 緑松石珠(トルコ石的) 孔雀石と言われている。
  厥貢 璆・・・厥貢 惟球 琳 琅玕
     [「夏書」禹貢]

【筋角】
地理的には渤海沿岸から内陸部が該当するのだろうが、"筋角"が標章用語になりそうなその地の特徴的産物が思い浮かばない。幽的雰囲気で、古代から続く強国が存在できた根拠は、ここらの地勢や気候とは思えないから、強固な農兼兵の徹底収奪的奴隷制度が敷かれていたのだろう。
それを考えると、これは産品ではなく、祭祀青銅器の独特な牛文様を指していると考える方がよいかも。当たっているとは考えにくいものの。

【文皮】
革の製品化技術はノウハウの塊で、装飾品化するには高度な渋鞣しと漆利用方法を磨く必要がある。
おそらく、刻印作業による物理的浮き出しと染色及び漆塗布を施した革製装飾帯を指しているのだろう。

【五穀 魚 鹽】
現代であれば、安全保障的な意味での食糧・水・エネルギーに相当する記載内容が当たるということか。
  

     

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