■■■ 「說文解字」「爾雅」検討[11c釋山]■■■
「爾雅」記載から見ると、<東 西 南 北>の文字は4方位以外に用いられていないと判断してよさそう。ただ、方位といっても、漢語には品詞が無いから、現代の抽象化概念と一致している訳ではなく、east eastern eastwardという曖昧イメージである。ここらの違いは現代人にとっては理解できないかもしれないが。(尚、方位は4ではなく、12。東西南北ではなく、卯〜酉〜午〜子が正式。実用性が高い8方位には不適合。)
  釋訓   朔…【北方】
    天子命我 城彼朔方 [「詩經」小雅 鹿鳴之什 出車]
  釋宮-(隅)(廂)   樞達北方謂之落時 落時謂之戺 {門檻}
  釋天-風 星名
  釋地-九州(河) 八陵 九府 五方 四極
  釋丘-(河)
  釋山-(河) (嶽) (朝夕)
  釋草 離南 活莌  組 似組 東海有之  苀 東蠡
      {紙八手}    {昆布}    {小蒲}
  釋魚 科斗 活東 {オタマジャクシ[お玉杓子]}
  釋鳥

しかし、四という分類観からすれば、東⇔西 & 南⇔北という感覚が濃厚であっておかしくない筈。にもかかわらず、それをさっぱり感じさせない字体である。それでも、「說文解字」記載の原義からは、なんとなくその由来を感じさせるものがあって面白い。
そんなところで了としたいところだが、白川甲骨文字論を参考にするとそうもいかない。

甲骨文字研究成果を踏まえると、「說文解字」記載の原義は甲骨文字を参考にしていないので、誤謬だらけとの結論になろう。ママ受けとれば、2〜3割が該当することになりそうだから、参考にすること自体が疑問とならざるを得まい。
しかし、小生は、全く逆の見方をしている。それこそ、「說文解字」はその2〜3割こそが素晴らしい解釈となる。そもそも、漢字が王朝官僚によって創成されたという主張とは、一部の特殊御用専門家の秘匿された呪術の縛りから、文字を政治的に解放したと考えるからだ。

・・・小篆創出は、天道説と地道説のコペルニクス的転回に匹敵すると考えている訳。小篆なかりせば、まともに文書統治ができず、現代のピイイン同様に、表音文字への転向を図った可能性さえあろうと見る。

従って、一番の課題は、甲骨文字の象形由来探索ではない。それはもともと、当たるも八卦の世界だからだ。
その推定象形をとりあえず妥当とした上で、それをどうして方位とみなしたのか、元義はどうして継承されていないのか、情緒ではなく論理的に説明する必要があろう。
これは仮借であると、名付けたところで、論理が欠落しているなら、単に不詳とは書きたくないだけ。

ここらを、まともに考えれば、論理展開を目指しているのは「說文解字」しかないことに気付く筈。現代人からすれば、甲骨の推定元義を正しいとして、そこから、どうしてEast-West-South-Northの意義を持つ様になるのか、統一的に語れないなら、元義推定に失敗していると考えるべきだろう。冒頭で示した様に、方位以外の字義が存在していない以上。

:動[木 官溥說 日在木中]   [derivatives]棟 重 涷 凍 鯟
【甲骨-元義】両端を縛った袋の象形⇒束 or
【小篆-原義】⇒東
    太陽が袋に入れられて木につけられている。

西:鳥在巢上[象形]日在西方而鳥棲 故因以爲東西之西   [derivatives]茜 洒 垔
【甲骨-元義】鳥の巣の象形⇒棲(栖)
【小篆-原義】⇒卥/西
    太陽が休む。

≪𣎵≫:艸木至南方 有枝任[𣎵+𢆉]   [relatives]湳
【甲骨-元義】苗族の懸下式鼓樂器"南任"の象形
 鼓鍾欽欽 鼓瑟鼓琴 笙磬同音 以雅以南 以籥不僭 [「詩經」小雅 谷風之什 鼓鍾]
 "周南" "召南"[「詩經」國風]

【小篆-原義】⇒南
    草木は枝を太陽方向にむける。

:𣎵[二人相背]   [derivatives]背 邶
【甲骨-元義】人が二人背を向け合った象形⇒背
【小篆-原義】⇒北
    太陽(~)にそむく。

・・・これを象形と呼ぶべきか、抽象化された字義に合わせたイメージ創作として、別分類すべきかは、実はどうでもよい。六書分類そのものが分類になっていないからだ。

東西南北の合字造りは、「說文解字」の対象とした時代より後世の方が活発だった可能性があろう。そのパトスの根源はよくわからない。・・・
<木艸竹米禾>
棟 栖 楠 (橷)
菄 茜 萳 苝
𰪀 䇴 䈒 𬔶
_ 粞 䊖 䉾
𫞸䵔 䄽 𥠮 (乘)
<馬牛羊犬豸>
𩣳 𫘊 _ _
_ 牺 _ 𤘿
䍶 _ _ _
𤟈 𤞏 献 _
𧳣 _ _ _
<魚虫>
鯟 𫙘 _ (𩸼)
蝀 𬠂 蝻 𧉥
<燕鳥>
_ _ _ 嬊㷼燕鷰兠
鶇𪂝 𪀹 𪃢 𩿻
<火水木金土>
_ 𤈇 煵 𰞃
涷 洒 湳 𰛗
棟 栖 楠 _
錬 𫒖 𨩇 鉳
埬 垔 𡎜 㘳
<山丘>
崠崬 𡶼 𪩂 (𡷒)
_ _ _ 𠤢(丠)
<人彳>
倲 _ 㑲 _
𢔅 徆 㣮 _
<手足月>
㨂𢬣 拪 揇 𢫣
_ 跴 𨂾 𨀈
腖 𦚵 腩 背
<言口心>
諌 𧧍 諵 _
㖦 哂 喃 𫩡
𢛔 恓 𰑳 𢘠
<others>
𮟽 𨚹 _ 邶
陳 䧈 _ 𨸾
𤷆 𤶈 _ 𱱍
𩜍 _ 𫗕 𩚾
𱁛 _ 𩄑 𫕡
娻 㛉 婻 _
𰖍 晒 暔 𭥣
𤦪 𤥒 𪻳 𤤘
䦨 閪 𨵴 (𮤱)
𬨮𧼓 廼迺 遖 _
𨌿 舾 _ 軰
凍 _ 㓓 _
𧡍 _ 𫌢 _
㼯 _ _ 㼱
𠁋 _ _ 𪟪
_ 𰀾 𫡫 _
_ 絤 䋻 _
_ 𨠴 𨡯 _
_ 𤿢 𥀇 _
𫳒 𡧳 _ _
氭 氥 _ _
𫨽 𪠧 _ _
𥓝 硒 _ _
𩭩 (𩬼) _ _
  

     

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