■■■ 「說文解字」「爾雅」検討[12釋水]■■■
巻十二は、山に引き続いて、水の文字を、同様に一応整理しただけ。
勿論、中華帝国の地誌の基本でもある<五岳四瀆>が記載されてはいる。
  東 長江[沱]
  西 黄河
  南 淮河[滸]
  北 濟水(大清河)[濋]
 ---八流---
 ≪黄河支流≫
  洛水[波]
  渭水
 ≪淮河支流≫
  汶水[灛]
  潁水[沙]
  (濄水/涡河)[洵]
  泗水
  沂水
 ≪長江支流≫
  漢水[潛]
  沔水
「山水經」と同一ではないものの、崑崙源流説を受け入れて、黄河の大曲を記し、さらに、支流九河のジャーゴン的名称にも巻末で触れている。

しかし、文字そのものに関する検討や、地誌的な水系には、さほどの興味が無さそう。
舟という重要な項目も、ほぼお座なり。
「說文解字」の水部所属文字での徹底追求姿勢とは好対照。もしかすると、河伯信仰を危惧したのかも、と思うほど。

・・・≪水≫部が釋水とかなり異なっているのは、誰でも気付くが、その理由の説明を見かけないので、一寸書いてみたが、小生は両書の思索パターンの本質的な違いに由来していると見ている。
 ─[凖 北方之行]…<水⊂出〜山 入〜>
  ─𡿨[水小流]
   ─[水流澮澮]
    ─[貫穿通流水]=巛/𡿧 ⇒ 𡿭
     ─[水原]=𰤔  ⇔ 井/丼 ⇒ 𣸕
      ─[n.a.]
         𢀎/𠫐
          /河
[水⊂出昆侖山 發原注海]
           導河 積石 至于龍門 南至于華陰 東至于砥柱 [「夏書」禹貢]

            海
[天池 以納百川者]
曰:谿
  谿曰:
   曰:
    曰:
     曰:
    泙/洴[谷] 澤/沢[光潤] [疾流] [n.a.] [回水]

「爾雅」は当たり前に河riverとしているが、「說文解字」はもっぱら水river表記。河を水waterとも呼ぶとの考え方が常識だが、どうして呼び替えが必要かは実は自明ではない。分析整理に留まっていれば、"どうあれ、そんな使用がなされている。"との結論で十分だが、これは思索の上での判定とは程遠い代物。「說文解字」は、その姿勢に大いに不満で警鐘を鳴らしていると考えることもできる。
河とは黄河の固有名詞であり、もともとの普通名詞riverの文字は水[涌流]と見なすこともできるからだ。字形から考え、川streamと見なすなら、この見方は妥当という気もする。("流"は、水部所属文字として収録していない。)
(字体型分類自体は分析なのでご注意あれ。・・・押しも押されぬ「爾雅」注釈者が、波とは水の皮skinと説明したので、それなら、"滑は水の骨bornかネ。"と蘇東坡が言ったとの話がある。<世傳東坡問荊公:“何以謂之波?” 曰:“波者 水之皮” 坡曰:“然則滑者 水之骨也?” [羅大經:「鶴林玉露」甲編巻三]>要するに、何故に身体用語を使う必要があるのかというimplicationを欠く分析結果に大した価値はないと言う事。もっとも、わからなければ音符にするのも同じこと。それらしい説明をつけた、漢字のお話にたいした価値はないのは当たり前。)

≪禹疏九河故道(黃河下游九分道…禹治洪水 播為九河 厥功偉矣)≫ の名字が篇末に記載されている。
  【発】
  徒駭河(漯河)…[最北]"徒眾起" @河北 蒼州〜
  太史河…"禹大使徒眾通其水道"@南皮縣 天津南
  馬頰河…"河勢上廣下狭形狀如馬的面頰@安コ縣
  覆釜河(覆鬴河)…"水中多渚往往而處形狀如覆釜"
  胡蘇河…"其水下流"@山東 平原 胡蘇縣
  簡河…"河水深而大 簡兮簡兮"@臨津
  級ヘ…"言河水多山石 治之苦" or "水多 狀如麻一"@山東 コ州以北
  鉤盤河…"水曲如鉤 流盤桓"@山東 コ州 東陵
  鬲津河(四女寺减河)…[最南]"河水狭小 可隔以為津"@鬲縣 大口河-无棣縣入海
  【出】

--- 参考(分流併記) ---發干縣(城西)⇒貝丘縣(城南)⇒甘陵縣(城南)⇒艾亭城(城南)⇒平晋城(城南)⇒霊縣(城南)⇒鄃縣(城東)⇒平原縣(城西)⇒繹幕縣(城東北)⇒鬲縣(西)⇒修縣(城東)⇒安陵縣(西) [「水経注」515年卷五河水]

≪釋水 第十二≫
泉一見一否瀸 井一有水一無水瀱汋
濫泉正出 正出…【涌出】
沃泉懸出 懸出…【下出】
泉穴出 穴出…【仄出】
湀闢流川 過辨回川
灉 反入 潬 沙出 汧 出不流 歸異 出同流 肥 瀵 大出尾下
水醮曰:厬 水自河出
濋 汶灛 洛波 漢潛 淮滸 江沱 濄洵 潁沙 汝濆 水決之澤汧 決復入
河水C且灡 漪 大波瀾 小波淪 直波
江有沱 河有灉 汝有濆
水滸 香@水草交
濟有深渉 深則 淺則掲 掲者…【掲衣】 以衣渉水 繇膝以下掲 繇膝以上渉 繇帶以上氏@潛行
汎汎楊舟 紼縭維之 紼…【繂】 縭…【緌】
天子造舟 諸侯維舟 大夫方舟 士特舟 庶人乘泭
水注川曰:谿 注谿曰:谷 注谷曰:溝 注溝曰:澮 注澮曰:
逆流而上曰泝 順流而下曰泝游 正絶流曰:
江 河 淮 濟四瀆 四瀆者…【發源注海者】 水泉
水中可居者曰:洲 小洲曰:渚 小渚曰:沚 小沚曰:潏 人所爲爲潏 水中
河出崑崙虚色白 所渠并千七百一川色黃 百里一小曲 千里一曲一直
  ━━河曲
徒駭 太史 馬頰 覆釜 胡蘇 簡 鉤盤 鬲津
  ━━九河
  

     

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