■■■ 「說文解字」「爾雅」検討[12a釋水]■■■
釋水で気になるのは、「淮南子」(地誌として37河川記載。)の<六水(河 赤 遼 K 江 淮)>について触れていない点。

--- 突然だが附記。 ---
「爾雅」以外のすべての字書は、政治的に葬り去られたと考えるのが自然。(洞窟や陵で特別に秘匿する意義もなさそうだから、発掘の可能性は低い。)・・・漢王朝は、始皇帝の方針に倣った帝国統治を推進している以上そうならざるを得ない。しかし、表立っての文字統一のための焚書的行為は大被害を被った儒教を国教とする以上あり得ない。しかし、大方針として国教化を推進しているのに、文章が異なる古今字体経典が存在してしまい、教典が定まらないという無様な状況。しかも、科挙制度がある以上学問的対立で留めることができる訳がない。帝国維持には、古今勢力融合を図るしかないが、それには抑制的なフレームアップと雑音元の表立たない形での抹消は不可欠。この時代に、その方法論が磨かれたのは間違いなかろう。(天子独裁-官僚統治の思想基盤である儒教には、必然的に教派が生まれる。教派指導層は皇帝差配へ関与せざるを得なくなる。その家族視点の道徳的"ご指導"排除を図り、機能的中央政治を重視した法統治スタイルを追求したのが始皇帝。ところが、始皇帝に倣い帝国化に邁進する漢朝は儒教国教化によって宗族信仰を第一義とした。これにより、国家的統制を家族運営・個人精神レベルに迄及ぼすことに成功。真の帝国化に成功したとも云えよう。もっとも、それが、前漢終焉の引き金になった訳だが。)
数少ない残存書が再編されて、儒教経典が公定されることになり、そのなかに、「爾雅」が位置付けられ、確固たる地位を占めることになっただけ。
しかし、儒教経典でもないのに、儒教教派にとっても重要な"雜"書が例外的に存在した。それが、「淮南子」。思想的にはどう見ても土着の"道"だが、"儒"容認であり、思想的並列気にせず。(漢代初の淮南王劉安の命で編纂された書。「說文解字」の著者が注解書を記しているのも、偶々、ということでは無い。)
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"水"を記載するとなれば、原典は「山海經」しかない。(後世の「水經注」はこれの解析を土台とした水系詳細記述書。)しかし、魑魅魍魎的記述満載で、いかにも奇書。当然ながら、解題さえママにならず、それをわかり易く地誌化した書といえば、「淮南子」<地形訓>しかない。

ところが、「爾雅」釋水と「淮南子」に関連性無しなのかも。

この<地形訓>だが、中味は正直なところ思想的に雑多な上、統制を取ろうともしないのでゴチャゴチャ感は否めない。言い方を換えれば多彩で、異教から易・五行迄入れ込んだ情報豊富な記載書となるが。
但し、<用略訓>にどの様な内容なのかは記載されている。
 所以 窮南北之脩 極東西之広 経山陵之形 区川谷之居 明万物之主 知生類之衆 列山淵之數 視遠近之路

具体的には、地形観は単純。・・・
  天地之間 九州八極…土有九山 山有九塞 澤有九薮 風有八等 水有六品
ところがこれに沿って九山名称が記載されているものの、すぐに後述する箇所での名称が一致していないのである。9という網羅を象徴する数字が確定しているだけで、代表的山の選択は時の王朝の好み以上ではなく、たいした意味など無いことを暴露している様なもの。
しかし、四方八方はわかるが、6という数字はナンだということになろう。
・・・河川の場合は異常気象や大地震で生ずる変動や、流路変更土木工事もあり、網羅数字の規定はナンセンスということだろうか。そういう意味では、禹のプロジェクトで設定された9という見方は正鵠。

【河】:水⊂出焞煌塞外昆侖山 發原注海
     洮:水⊂出隴西臨洮 東北入河
     渭:水⊂出隴西首陽渭首亭南谷 東入河
       洛:水⊂出左馮翊歸コ北夷界中 東南入渭
        ⇒洛爲波@釋水
       :水⊂出安定陽幵頭山 東南入渭 雝州之川
       汧:水⊂出扶風汧縣西北 入渭
        ⇒水決之澤爲汧@釋水 🅏出汧縣之蒲谷ク弦中谷
       澇:水⊂出扶風鄠 北入渭
       漆:水⊂出右扶風杜陵岐山 東入渭
     湟:水⊂出金城臨羌塞外 東入河
     汾:水⊂出太原晉陽山 西南入河
     沁:水⊂出上黨羊頭山 東南入河
【濟】:水⊂出常山房子贊皇山 東入泜
   ⇒濟爲濋@釋水
【四川】…岷江+沱江/涪江+嘉陵江(渠江)+烏江
     涪:水⊂出廣漢剛邑道徼外 南入漢
     灊:水⊂出巴郡宕渠 西南入江
【江】:水⊂出蜀湔氐徼外崏山 入海
   ⇒江爲沱@釋水  沱:江別流⊂出㟭山東 別爲沱
     涐:水⊂出蜀汶江徼外 東南入江
      ⇒汶@釋水
     湔:水⊂出蜀郡緜虒玉壘山 東南入江
     沫:水⊂出蜀西徼外 東南入江
【淮】:水⊂出南陽平氏桐柏大復山 東南入海
   ⇒淮@釋水
     汝:水⊂出弘農盧氏還歸山 東入淮
      ⇒汝@釋水
      滍:水⊂出南陽魯陽堯山 東北入汝
      澧:水⊂出南陽雉衡山 東入汝
      澺:水⊂出汝南上蔡K閭澗 入汝
     潓:水⊂出廬江 入淮
     灌:水⊂出廬江雩婁 入淮
     淠:水⊂出汝南弋陽垂山 東入淮
     潁:水⊂出潁川陽城乾山 東入淮 豫州浸
      ⇒潁@釋水
      潩:水⊂出河南密縣大隗山 南入潁
      瀷:水⊂出河南密縣 東入潁
      潕:水⊂出南陽舞陽 東入潁
      瀙:水⊂出南陽舞陽中陽山 入潁
      𣳦:水⊂出汝南新郪 入潁
      洧:水⊂出潁川陽城山 東南入潁
      濦:水⊂出潁川陽城少室山 東入潁
     濄:水 受淮陽扶溝浪湯渠 東入淮
      ⇒濄@釋水
     泗:受泲水 東入淮
      泡:水⊂出山陽平樂 東北入泗
      洙:水⊂出泰山蓋臨樂山 北入泗
      沂:水⊂出東海費東 西入泗
【漢】:漾 東爲滄浪水
   ⇒漢@釋水
     潛:涉水
     涪:水⊂出廣漢剛邑道徼外 南入漢
     潼:水⊂出廣漢梓潼北界 南入墊江
     漾:水⊂出隴西相道 東至武都爲漢
【沔】:水⊂出武都沮縣東狼谷 東南入江
  

     

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