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2008.11.16
 
 


ソニーがどこかおかしい [1]…

 2008年10月、ソニーの株価が大幅下落。
 ソニーショックと言えば、普通は、2003年4月の話。第1四半期に巨額な赤字を計上したことによるもの。
 すぐに新しい経営方針が提起されたが、どう対応するのかよくわからない内容だった。
 当時の印象はとうだったかといえば、・・・「どこを見ても、統一的な技術マネジメント思想が感じられない。しかも、こうした商品群全体の将来像も提起されなかった。テクノロジー企業のエレクトロニクス事業の方針とは思えない。ソニーは変わったのだ。」
  → 「ソニーは普通の会社になるのか 」 (2003年5月30日)

 そして、その5年後、ついに衝撃的な株価。
 金融事業を抱えていることもあるが、現象的には、3月期決算の営業利益予測数値が、アナリスト事前予想の半分以下だったことからくる株価下落とされているようだ。しかし、この先、短期的に、為替は\100/ドル\140/ユーロという設定より円高は確実だし、欧米のクリスマス商戦の低迷も予想され明るい絵が描きにくい。長期的にみても、大きく伸びるものがあるという感じもしないから、そんなところが妥当なのかも。
 まさに、前途多難である。
ソニーのPBR(1)
2000年3.5
2001年2.6
2002年1.7
2003年1.7
2004年1.5
2005年1.7
2006年1.8
2007年1.1
 PBRが1を切るというのは、理屈からいえば、ブランド価値も将来性も無いということになるが、そんな見方が広がりつつあるのかも。

 優秀なエンジニア/研究者を抱えながら、どうしてこんなことになるのだろう。どこかおかしい。
 少し考えてみたくなった。

 外部から見て、一番の問題は、よくわからない事業と家電事業が同居している点。
 まずは、エンターテインメント部門だが、インターネットの時代に入り、家電事業発展には寄与どころか逆効果を発揮しているように見える。本来なら、コンテンツを利用して、シナジー効果を狙うのが筋だと思うが、さっぱりである。独立のメディアビジネスという印象しかない。
 さらに、家電となんの係わりも持たない“国内”型金融ビジネスを抱え続けている。一体、この事業になんの意味があるのかさっぱり理解できない。ここまで市場の評価が下がっても、この構造を変えるつもりはなさそうである。
 この点では、驚くほど保守的な企業である。

 それはともかく、エレクロトニクス事業全体をざっと見てみよう。
 この部門の利益を支えているのは、ビデオカメラ事業とコンパクトデジカメ事業なのは間違いない。
 前者は高収益であるし、画面のHD化で今後も有望かも知れない。しかし、「ハンディカム」の2008年度売上台数は対前年度で70万台減少の700万台。(2)そうそう高単価商品が売れ続けることができるものではなかろう。
 一方、後者は堅実に大きな利益を出していそうだ。だが、そろそろ技術的に成熟してきた製品の市場だ。実際、「サイバーショット」の2007年度売上は2,350万台で、2008年度は2,400万台と飽和感も否定できない。それに一番の問題は、価格低下の流れ。おそらく、今迄のような収益は見込めなくなってくるだろう。
 そして、厄介なのは、テレビとゲーム。両者ともに、赤字から抜け出てくる兆しが見えてこないからだ。
 米国の店頭価格を見ると、テレビはブランドプレミアムどころか、ディスカウントイメージさえ生まれかねない状況という感じがしないでもない。しかも、そこまでシェア獲得に動いても、規模の経済で優位に立てるかは不透明なのがこのビジネス。
 ゲームも、PS3の売上が芳しくない。2008年9月7日の週からXBOX360の売上台数が上回っているからだ。(3)米国では、人気ソフト「ファイナルファンタジー13」がXBOX360向けでも登場するから、この傾向は続きそうな感じだ。

 ブルーレイディスクはついに次世代規格を制覇したが、レコーダーが売れているのはどうも日本だけのようである。欧米は普及の兆しが見えない。映画のインターネット視聴が進む時代に、プレーヤーだけ普及させてもたいしたビジネスにはなるまい。
 この現象が本当だとしたら、日本の家電の凋落を意味するかも。ことは、ブルーレイに留まらないからだ。
 要求が厳しく新機能好きの日本の顧客に対応すると競争力が高まるという、今迄の成功パターンが成り立たなくなったのかも知れないからだ。こうなると、日本の家電産業は急速に力を失うことになろう。

 特に、ソニーの場合、この問題は小さくない。すでに、MDやSACDで経験済みだからだ。両者ともに、海外ではほとんど見かけない規格になってしまった。
 しかし、ソニーの音楽配信や製品はこうした規格に合わせ続けてきた。言うまでもないが、こんな日本だけしか通用しない規格にこだわれば、欧米で売れる訳がない。しかし、フォーマットを捨てる訳にいかないので続けているのが現実。トラップにかかってしまったのである。

 しかし、業界をあげて、そんな方向を是としているのが日本の実情。テレビにしても放送規格が欧米とは全く違う上に、ICカードまで必要となる。日本独自の設計が必要で、世界統一プラットフォームを利用したビジネスがしづらいようにしてきたのである。それでも、こんな市場に参入しようと考える海外企業が存在するのだから驚き。日本の製品価格が余程高いと見られているのかも。
 だが高価となる原因は国内での凄まじい新製品開発競争によるところが大きい。新しいものでないと売れないのだから致しかたない。当然ながら、膨大な開発業務が必要となる。国内で確実に利益を生む体制を構築できなければ低収益に苦しむしかない。

 このことは、プラットフォーム開発と個別モデルの開発のコストをどう考慮するか、調達コストをどう加味するか、といった“戦略的な”経理能力の徹底強化が重要ということを意味する。これが弱体なら、規模をいくら拡大しても収益性は上がるどころか下がったりしかねない。コスト管理がわかり易い、部品事業とは性格が違うのである。

 まあ、これは、ソニーに限らず、多かれ少なかれ、日本の家電企業すべてが抱える問題である。ただ、ソニーは事業規模が大きいから、目立つだけのこと。

 と言う事で、ソニー独自の問題に移ろう。気付いたのは2点。

 一つ目は、2003年に始まった「QUALIA」、(4)プロジェクト。
 これ自体の成功失敗はどうでもよい話で、問題なのは、自社技術体系を理解していないとしか思えない展開の仕方。
 ソニーファンが声援を送ったようだが、ピントがずれているとしか思えない。
 なにせ、「ネットワークカンパニー」と称しながら、映像表示機器として登場したのが、130万円のブラウン管のカラーモニターなのである。今時、大きくて重いブラウン管の製品を出して意味があるのだろうか。
 このような製品は、オーデイオでいえば100万円以上の真空管アンプのようなもの。それはそれで商品としてひとつのジャンルを形成している。おわかりだと思うが、そのような高級オーディオの分野には別なリーダーがいるのだ。そうした企業が活躍している分野に乗り込んでどうするのだろう。
 同時に発売された高級プロジェクターも超高額。普通のマーケティングなら、BARCO社製品と比較することになるが、そんな商売を追求したい訳でもなさそうだ。そうなると、このビジネスの意味はなんなのか?

 アナログ技術の中堅マネジメントが消えてしまったから、ネットワーク時代における高級ブランドを作ろうと苦闘するのかと見ていたが、全く逆なのである。この方針には正直のところがっかりである。

 もう一つ見てわかる変化があった。それは新製品の登場の仕方である。ソニーはいかにも管理を嫌っている風情を感じさせるようなやり方だったが、この印象が急速に薄れたのである。
 もちろんこれはこれで悪くない方針である。製品開発プロジェクトマネジメントの質を向上させ、納期とコストを守ることでもあるのだから。収益改善の決め手になる可能性もあるし。
 ただ、効果を発揮させるためには前提が必要である。プロジェクトそのものの取捨選択の眼力がなければ、開発は予定通りでもさっぱり売れないかもしれない。
 ソニーの場合、これは簡単ではないと思う。新製品を強引に出し、後から生産体制を上手く構築し、そこから利益を出していく仕組みで成功してきたから、なかなか馴染まない筈である。
 要するに、失敗が多くても、大当たりがでればよいという風土から脱却することが必要になる訳である。一般にこうした風土の組織に、納期とコスト厳守の仕組みを持ち込めば、斬新な製品は生まれにくくなる。わかりきった新しさと、無理のない製品しか出せなくならざるを得ないからだ。一発大当たりはなくなり、他社とたいした差がない製品しか登場しなくなるかも知れないのである。この点を考慮に入れたマネジメント体制ならよいのだが。

 つまり、自社の技術体系と知恵が生まれる組織体制を理解した上で、その力を生かせるような戦略的な展開が必要ということだが、「QUALIA」的な技術の見方が続いているとすれば、かなり難しそうな気がする。
→ 続く (来週)

 --- 参照 ---
(1) http://www.sony.co.jp/SonyInfo/IR/library/fact/qfhh7c00000hmajp-att/FB_FY07Q4_J.pdf
(2) http://www.sony.co.jp/SonyInfo/IR/financial/fr/08q2_eleki.pdf
(3) http://vgchartz.com/hwcomps.php
(4) http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press_Archive/200306/03-0610/


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