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2008.12.4
 
 


ソニーがどこかおかしい [3]…

 特に調べもせず、ソニーが変質してきたという調子で書いてきた。
  → 「ソニーがどこかおかしい」 [1] 、 [2]  (2008年11月16日/27日)
 当たり前だが、だからといって、昔からの“ソニーらしさ”が消えたという訳ではない。それはどんなところか見ておく必要があろう。

 そうなれば、なんといっても、デジカメ事業ではないか。
 全社で「ネットワークカンパニー」化を図ったが、デジカメ[DSC]はあくまでもパソコン周辺機器という感じだった。ネットワークに繋げる方向には注力せず、あくまでも、スタンドアローン型の家電製品を通したように映る。これこそ、ソニーの伝統を引き継いだ成功パターンと言えそうだ。

 と言っても、今もってネットワーク化の流れを無視している訳ではない。無線LAN(Wi-Fi)とホームネットワーク規格(DLNA)に対応するモバイルパソコンのような製品も登場しているからだ。(1)しかし、開発はパソコン部隊にまかせたようだ。これが、ソニーの強みでもあり、弱みでもあるということではないか。

 少し考えてみよう。

 歴史的に、黎明期から、ソニーはデジカメ市場創出に注力してきた。おそらく、数多くの失敗があったと思われるが、決してあきらめることはなかった。いかにもソニーらしい。そうして培ってきたスキルがその後の製品開発競争で生きていると思う。
 ただ、初期のデジカメ市場を牽引したのはソニーというよりOEMが多かったサンヨーではないか。
 そう考えるのは、覚えがあるから。1997年頃、マイナーメーカーのモデル落ち30万画素デジカメを、とんでもない超廉価で購入した覚えがあるから。大画面液晶でパソコン接続用コード・ソフト付き。未だに完動品で素晴らしき完成度。
 確か、その翌年のコンパクトデジカメの画素数は100万だった。
 廉価にもかかわらず、こんな調子で高度化新製品競争が勃発していたのである。
 当時のウエブ用の小さなカット写真用デジカメなら、たいした機能を必要としていなかったから、ここで新製品競争が下火になる可能性もあった。そうなれば、台湾辺りの安価品に市場が席巻される可能性は高かった。

 ところが、日本のデジカメメーカーはそれを許さなかったのである。
 もちろん、高解像度と高画質という消費者の要求はあったろうが、企業が高画素化の流れを強引に切り拓いたと見た方が当たっていると思う。表面的には、パソコのCPU処理能力が飛躍的に増強され、ディスプレーの高精細化が進んで、ウエブが美しい画像中心になってきたという流れにのったといえないこともないが、フィルムカメラユーザーを成功裏に取り込んだのだから、メーカーが流行させたと見た方が当たっていると思う。
 しかも、驚いたのは、一般の人が楽しむサービスサイズ写真プリントなら、200〜300万画素で十分と思われるのに、それ以上の高画素新製品を次々と投入したこと。そして、購買意欲を引き出したのだ。実に天晴れ。

 技術で見れば、CMOSセンサー作りに注力し、市場を活性化したということ。AV機器の楽しみ方に凝る体質のソニーと、写真画像の喜びを理解していた富士フィルムがこの流れに火をつけた感じがする。この二社が、画像センサーの重要性を訴求したから、キャノンなどのカメラメーカーが一斉に高画素化競争を始めたように映った。このお陰で市場は爆発的に伸張したのだと思う。
 この手の新製品競争になると、ソニーの組織力が俄然奏功するのではないか。

 カセットテープ時代のウオークマンからの伝統かも知れぬが、こんな環境下だと、新製品を考案する仕組みが上手く回るようである。

〜コンパクトデジカメの構成〜
レンズ
モジュール
-小型広角レンズ (非球面)
-カラーフィルター
-CCDイメージセンサー (低ノイズ)
-信号処理チップ (ソフト)
-アクチュエーター (高精度軸調整)
電子回路-フレキシブル回路基板
[-管理チップ (プログラム)]
-メモリーカード
構造体-電池 (小型大容量)
-筐体
 コンパクトデジカメの物理的構成は、表に示したように極めて単純。しかし、キージュールの機能進化が速いので、狭いところに詰め込むと品質問題が発生しやすい。手のかかる微調整を進めながら生産コスト低下を図る開発作業が必要で、この組織的スキルが今一歩だと競争力を失いかねない。
 ソニーの場合、目新しい製品の投入や、デザイン優先の設計に積極的に取り組んできたから、力を発揮できるのではないかと思われる。

 しかも、ソニーは、CCDイメージセンサーのメーカーでもあり、レンズユニットの技術ロードマップを作れる地位にあった。従って、安心して新製品開発に注力できたのだろう。
 イメージセンサーの画素数を上げれば、それに伴う以下諸問題が色々と発生した筈で、この対応は、そう簡単ではない筈。さらに撮影ノウハウソフトまで搭載しようとなれば、開発工数は膨大になるが、ロードマップがわかっていれば先んじてとりかかれる。それだけでも、かなりの優位性を保てる筈だ。
  ・カラーフィルターモザイク信号の画像信号への変換
  ・画像品質変換
  ・ファイルサイズ圧縮
  ・ノイズ補正
  ・ホワイトバランス調整
  ・露出調整
  ・消費電力抑制

 要するに、微妙な調整が必要な開発は日本、アセンブリ方法、金型・製造治具を台湾、組み立て作業を中国という分業体制を作れるということ。一旦、流れを作れば、新製品開発の効率は抜群だろう。

 しかし、こうした優位性は何時までも続くものではない。
 おそらく、ここら辺りが一番の頭の痛い問題だろう。

 今、何がおきているのかは、カメラ付携帯電話機を見れば一目瞭然。カメラは当たり前の機能で差別化の道具ではなくなった。なにせ、1,225万画素(CMOS)のソニー製レンズモジュールが登場しているのだ。そのサンプル価格は9,000円(2)。モジュール側にカメラ機能が集まっていると見てよい。ここまでくると、最終製品メーカーが頑張れる余地は狭い。利益はモジュールメーカーに移行していくのは当然である。
 この力関係の変化は、実は、コンパクトデジカメでは当初から予想されていた話である。イメージセンサーが複雑な製造プロセスのCCDではなく、CMOSだからだ。センサーと処理チップが合体可能[システム・オン・チップ(SoC)]ということ。個別センサーに対応する専用シグナル・プロセッサー[システム・イン・パッケージ]を用いずに済む訳だ。
 つまり、SoCが主流になれば、半導体の設計技術で競争力が左右されてしまいかねないということ。チップが扱う機能の選定(コンセプト考案)力と、IC製造コストモデリングツールを駆使する力で勝負がつきかねないのである。
 簡単に言えば、この能力を欠く企業は単純組み立てビジネスに落ち込んでしまうということ。

 そうなると、ソニーのようなカメラメーカーでありながら、イメージセンサーメーカーは戦略的に難しい立場に立たされる。システム・イン・パッケージ外販ビジネスが難しくなる可能性があるからだ。
 センサー供給者であるZoranのハイエンドモデル“Camera On A Chip”(COACH)のようなチップが優位になるかも知れないのである。
 こうした企業が好調になら、今まで無視できた単純組み立てだけのカメラ企業の力量もあなどれなくなるということ。
 すでに、ソニーのコンパクトデジカメの画素数は1,010万、810万、720万まできており、1,200万画素以上が必要とも思えないから、画素増大競争もそろそろ頭打ちの感じだし。
 すでに日本での店頭価格も、3万円台、2万円台、それ以下の3クラスに分別されつつあり、機能競争から価格競争に移ってきたように見える。おそらく買い増し(替え)需要が主流だろう。新機能競争が一段落したということかも。こうなると、高品質で安価な製品を出せるメーカーが飛躍しかねないのである。
 その転換期には、キーモジュールの設計ソフト運用能力を持つ企業の競争力が飛躍的に強まることになる。レンズ評価技術さえ身につけることができれば、SoCを駆使することで、一気に先行カメラメーカーに追いつけるからだ。

Sumsung Techwin
DSC Sales (3)
-年- [Won bn]
2006  992.0
2007 1,247.5
2008F 1,363.1
 それを示したのがSumsung Techwin[Samsung Digital Imaging部門]の飛躍だと思う。2007年、コンパクト・デジカメ3強はキャノン、ソニー、Sumsungと呼ばれるようになったのである。

 こうなると、コンパクトデジカメから、高価格の一眼レフデジカメ市場が魅力的に映るようになる。しかし、ここはキャノンとニコンの牙城で、2強以外がここで収益を上げるのは簡単ではない。と言うのは、豊富な光学レンズの資産がないと厳しいビジネスだからだ。しかも、プロ、マニア、一般のラインナップも必要であり、本格的に戦おうとそうると開発費用が重すぎるのである。
 ソニーは、米国で同等のブランド力がありそうなミノルタの“α”シリーズに注力しているが、(4)買収時期が遅すぎ、力の差が開きすぎた印象は否めない。レフ構造から脱皮した魅力的なカメラを投入するような新機軸で戦わないと収益に貢献するのは難しそうな気がする。
 ただ、理屈では、CCDイメージセンサーの開発能力を梃子に競争力強化という手もある。しかし、ソニーがコンパクトデジカメのようなイメージセンサー機能向上路線を採用しても、市場全体の雰囲気を変えることはできないかも。ソニーは部品外販業でもあり、その流れにそのまま乗るとは限らないからだ。

 こうして眺めると、実に厄介な時期に来ていることがわかる。組織力を生かせない方向に進んでしまうと、このドル箱事業は傷ついてしまうかも知れないのである。
 外野としては、知恵を生み出す構造を生かした戦略で、飛躍を図って欲しいと願わずにいられない。

 --- 参照 ---
(1) 「大容量約2GB内蔵メモリーに最大約20,000枚の写真を デジタルアルバムとして持ち歩ける、新“サイバーショット”『DSC-G1』発売」
  SONYプレスリリース [2007年3月9日] http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200703/07-0309/
(2) 1/2.5型有効1225万画素 レンズモジュール『IU060F』出荷時期2009年9月
  http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/200811/08-144/index.html
(3) “Samsung Techwin[012450]” Hana Daetoo Securities
  http://www.daetoo.com/research/report/analysis/__icsFiles/afieldfile/2008/09/30/SamsungTechwin_0930.pdf
(4) “「PMA 2008」出展のご案内” SONY報道資料 [2008年2月1日]
   http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/200802/08-0201/index.html
(デジタルカメラのイラスト) (C) 3D+WEB MIX http://webweb.s92.xrea.com/


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