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オジサンのための料理講座 ←イラスト (C) SweetRoom 2008.2.28 |
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車麩卵とじは如何…早い, 安い, 美味しいと三拍子揃うということで, 様々な具の卵とじ丼が提案されている. ウリは, 卵のふわふわ感だが, 味付けが悪ければ台無し. だが, そんな話は絶対出てこない. 味付けは自習するしかないのである. 理屈っぽい料理学習論を述べてしまったので、今回は具体的な学びの話をしよう。 → 「自炊成功の鍵とは 」 (2008年2月21日) 学びの対象は、家庭の味の代表とされる「煮物」。コレ、習得が一番難しいとされている。 実際、やってみると、そのハードルの高さがよくわかる。 しかし、そんなことは当たり前である。 味付けは、地方の特性もあるし、家庭ごとに違う。それこそ、極甘党もいれば、塩辛くなければオカズで無いと考える家もある。そんな状態で、共通レシピに従ってつくれば美味しくなくなって当然。 と言って、味の調整は初心者には無理だ。しかし、やらなければ口に合わない。そこで背伸びするのだが、バランスを欠いた調味料の投入になりかねず、へんてこな味になったりするのである。 それだけではない。同じ素材でも、種類はあるし、大きさ、厚さ、硬さは様々だ。柔らかくなるまでの時間は違う。レシピ通りに作っても、さっぱりという原因は、たいていはここだ。同じ大きさの大根で、同じレシピで作っても、結果は違うのである。 しかも、火力の調整の仕方で、煮汁が素材にどれだけ染み込むかが決まる。こんなところまで説明するのは骨がおれるから、レシピには簡素なことしか書いてない。だいたい、弱火、中火、強火と言っても、鍋は違うし、加熱器具の熱量も違うのだから、大雑把な目安でしかない。 つまり、ちょっと習った位で上手くできる類の料理ではないというのは当たっている。 そもそも、競争相手が手強すぎるのだ。 何年にもわたって、勝手知ったる調理器具で毎日料理をこさえている人と比較するのが間違っている。たった数回のトレーニングで追いつくわけがなかろう。 “塩梅”とか、“加減”という、曖昧模糊としたスキルを身につけていないと煮物は失敗するということ。成功したら、それは、たまたま運良く料理の条件が合ったと考えた方がよい。 と言って、手をこまねいている訳にはいかないし、これから数百回練習しようという気にもなるまい。 それなら、頭を働かせるしかなかろう。 どうしたらよいかと言えば、バラツキの無い素材で練習するに限る。これなら、数回試せば、“塩梅”や“加減”がつかめるようになる。自分なりの家庭の味を出せる訳だ。 つまり、煮物の素材を、魚介類、肉、野菜(乾燥品も含む)といったものでなく、品質が安定している工業的な加工食品にすればよいのだ。 そんな食材候補としては以下のようなものがあげられる。 ・蛋白質系 - 水産練り物(薩摩揚) - 大豆加工製品(生揚、油揚、がんもどき、焼豆腐、高野豆腐) - 小麦加工製品(お麩) ・非蛋白質系 - 蒟蒻 - 餅 どれでもよさそうに思うが、チルド系製品(水産練り物や大豆加工製品)は加工の仕方で味が大きく違いすぎるから、トレーニング用素材としては不適だろう。餅は主食系だから、副食気分にならない。止めた方がよかろう。 残るのは、高野豆腐、お麩、蒟蒻だ。このなかではお麩が秀逸。 そう思うのは、沖縄で何度もフーチャンプルを食べたから。 この料理、卵液に浸した車麩を野菜と一緒に炒めたもの。沖縄では常食だそうだ。 何故、この料理だけ印象が強いのかといえば、車麩が特産品だから。沖縄で小麦を栽培しているとは思えないのに、本土の麩を持ち込まず、現地で作っているという。(1)なんとも不思議。 それに、この車麩、東京ではえらくマイナーな商品である。 焼麩は珍しくないが、重曹か何かで膨らせたものが定番である。当然ながら、煮ればぐずぐずになり、締りがなくなる。焼麩ではあるが、全く異質な商品と言ってよい。膨らませない焼麩も売っていることは売っているが、汁に入れるための小さなものばかり。これはこれで結構使われているが、おかずにする代物ではない。 ウエブを見ると、車麩は、越後、加賀、会津で作られているそうだ。越後は米どころだが、沖縄と同じように、常食だとか。 ついでに車麩のレシピも色々拝見したが、当然ながら、野菜と一緒に煮るものが多い。これをしたのではトレーニングにならないが、卵とじ程度なら、許容範囲かもしれないという気がした。卵とじは純粋の煮物とは言えないが、味を調える練習にはよさそうである。それに、沖縄でも、\550の居酒屋メニュー(2)に出てくる位で、万人受けする料理のようだから、美味しく頂くこともできそうだし。
ちなみに、拙宅では、車麩ではなく、油麩を使った卵とじ丼を食べてみた。長葱を少々入れる位なら、トレーニングの趣旨から外れるほどではないだろうし。ただ、玉葱を入れると、味が変わるから止した方がよさそうだ。トレーニングよりとりあえずは美味しさだ、というなら止めないが。 尚、油麩は仙台特産。車麩以上に、東京では滅多にお目にかかれない。 純小麦グルテンを作るにはそれなりの手間が必要だと言っても、珍味の類ではないから、そう高い価格で売れないし、回転率も悪いから、棚に置く気にならないのだろう。 残念なことだ。 ご参考までに、焼麩でどんなトレーニングができるか簡単に記載しておこう。 【麩は、ぬるま湯に漬けて戻す。】 ・切ってある場合はそのまま、棒状になっている時は1cm厚さに切断。 ・温度50度程度が目安だが適当。それ以下でもかまわない。 ・浮かべて、“ふっくら”感がでるまで、時間をかけ、自然に吸わせること。 ・戻ったら、軽く絞り4等分に切る。 【出汁は、ご随意に。】 どんなやり方でもかまわない。出汁の旨みではなく、味付けを学びたいのだから。 チョイスは2通り。 1 前日から準備した天然出汁にこだわる。 - 煮干(カタクチイワシ)を、気になるなら頭と腹をとり、PETボトルに入れ、水を注注ぎ冷蔵庫へ。 - 小さな空き瓶に、干し椎茸を入れ、水を注ぎ冷蔵庫へ。 - 当日作るのは、昆布と鰹節の出汁。 - すべての出汁を入れる必要も無い。折角だから、どんな風味にするか、設計しよう。 2 市販の粉末出汁を水に溶かすだけ。甘い味にすると旨みは隠れるから、多少多めにする。 必ず出汁の味見をすること。 失敗して捨てることがあるので、最初はこちらがお勧め。何度でもすぐに作れるから。 【味を見ながら煮汁を作る。ここがトレーニングの肝。】 ・出汁に醤油、酒、砂糖、味醂等を適宜加え煮立て、煮汁を作る。 調味料を加えながら味見をして、バランスがよさそうな最適値を探す。 (煮物のレシピをいくつか眺めると、最適値がいかに様々かわかる。) 当たり前だが、少しづつ加えるように。 失敗したら、一部捨て、出汁を追加したり水を加える。 余り煮立たせると、焦げたり、香りや風味が飛んでしまうから注意。 ・煮物は醤油の旨さと、香りで質が左右されるから、自分が気に入っている醤油を使う。 味付けのための学びだから、旨み入りの醤油は使わないこと。 ・酒はかなりの量を入れた方がよいと思う。但し、安価な料理酒はお勧めできない。 燗に向いた芳醇な酒がよい。置いてある店は少ないが赤酒はお勧め。 ・味醂は甘さを出す上で必須。 味醂風はお勧めしがたいものもある。 味醂の質で味は相当変わる。 ・砂糖の甘さが嫌いな人は、砂糖無しもあり得る。 甘味好きなら、砂糖の種類を変えてみるのも面白い。 (グラニュー糖、黒砂糖、三温糖、甜菜糖、等。) ・気に入った味になるまで検討する。安易に妥協しないこと。 駄目な煮汁は捨てて、新たに作るしかない。 【味を整えた煮汁ができあがってから、麩を入れること。】 ・煮汁を沸騰させてから、麩を入れ、蓋をする。 ・すぐに火を弱め、少なくとも10分煮た後に、煮汁の様子を確認。 ・煮汁が減っていたら強火にする。 ・グツグツ煮えたらすぐに火を止め、溶き卵を流し込む。 (熱くなっている壁面に近い方から先に流す。箸でかき混ぜたりしない。) (卵とじの技術は難しくはないが、初心者は失敗するかも知れない。そんなことは気にしない。) - 固まったら固まってで、そのままオカズとして食べよう。 - 生卵状態なら、卵かけご飯の変形として食べよう。 - 卵とじの出来で味は左右されるが、どうなろうと、甘辛さ加減の調整がまともかの確認はできる。 【別途、世間一般で考えられている煮物の味とはどんなものか試すとよい。】 なかなかよくできていることに気付くはず。1、2のどちらでもかまわない。 1 市販の煮物用液体調味料を利用する。(出汁と酒・味醂がすでに入っている) 2 市販の麺汁を使う。(煮物用と似たようなもの。) この味を凌駕できないと感じたなら、こうした商品を使って、少量の調味料添加で微調整するのが実践的。 --- 参照 --- (1) “「つくる」を見にいく 当世沖縄県産品事情 車麩” 沖縄タイムス [1998年11月1日] http://www.okinawatimes.co.jp/spe/tuk981101.html (2) http://www.daichan-nomidokoro.com/v1.1/menu_detail.php?id=tamagotoji (車麩の写真) [Wikipedia] http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%BB%E5%83%8F:Kurumafu.jpg (丼のイラスト) (C) Hitoshi Nomura NOM's FOODS iLLUSTRATED http://homepage1.nifty.com/NOM/ 「料理講座」の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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