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2008.6.18
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お味噌汁の具の選定方法…


 定番は豆腐とワカメの味噌汁。
 その理由を考えると設計力が身についてくる。


 一汁三菜の「一汁」は、出汁で具を煮込んだものに、味噌を溶かしたものが基本という訳ではない。味噌汁の勉強を始めるに当たっては、まずそれを理解して欲しかった。
 出汁は海産物であり、出汁がでる具なら、そのまま煮込むのが原則なのである。出汁とは、この代替品にすぎない。
 そして、お椀だからといって、「一汁」ではなく「一菜」になる場合もある点にも注意して欲しい。両者は全く違うものである。
 手をかけた調理が必要なものや、独特の淡い風味を味わうものは「一汁」ではない。ご飯と一緒に味わうのではなく、汁だけをじっくりと味わうべきものだからである。

 この辺りの考え方を「頭」で学ぶのではなく、「舌」で感じていただこうと思って考えたのが、味噌汁の第一歩カリキュラムである。
  → 「お味噌汁作りの学び方 」 (2008年6月11日)

〜味噌汁カリキュラム「第一歩」〜
- 具 - 出汁 味噌 分類
野菜[5種以上]
1 しじみ × 一汁
2 あさり × (×) 一汁
3 はまぐり × 菜椀
4 貝尽くし[多種] × ×
5 海老 か 蟹 × 一汁
6 生海苔 一汁
7 乾燥緑色海藻 一汁
8 とろろ昆布 × 一汁
 まとめると、右表のようになる。一番最初は、具沢山の野菜の味噌汁からだが、これは比較対象用。
 どうしてそうなっているか、すべてのステップを体験すれば、気付く筈。貝尽くしのお椀と同様、具を沢山入れて煮込む「鍋料理」を、銘々の椀によそったものなのである。なんでも豪勢に入れてしまう簡便料理と見て間違いない。
 当然ながら素材の味はごちゃ混ぜ。本格的に味噌汁を楽しみたいなら、鍋型は敬遠すべきだと思う。

 ともあれ、「第一歩」では、具を海産物一品に絞った。味噌汁を学ぶ際には、ここから出発すべきなのである。

 引き続いて、「第二歩」に入るが、出汁作りや、味噌の調合はまだ不要である。
 味噌汁の具を一種類で済ますことは滅多にないから、具の設計スキルを学んでおく必要があるのだ。なんであろうと素晴らしい出汁で煮て、良質な味噌を溶けば、最高の味噌汁ができあがる訳ではないのである。
 要は、具の合わせ方をしっかり学ぶこと。情報を仕入れるのでなく、味わって、なるほど感を得ることが大切である。当たり前だが、自分流の合わせ方があって当然ではないか。レシピ通りに具を用意し、分量通りに設定したところで、出汁は違うし、味噌も違う上に、水まで全く違う。しかも、味の好みは千差万別。レシピで勉強するなど、実践性ゼロとはいえまいか。
 ただ、自由に具を選定といっても、“苺大福”のようなお味噌汁は埒外だと思うが。

 どういう訳か、この手の話が書いてある料理本はさっぱり見かけない。たいていは出汁作りから始まり、調理法の各論。これで勉強したのでは、オジサンが味噌汁作りに上達する訳がない。

 前置きが長くなったが、「第二歩」では具は二種で考えることが肝。(吸い口はこの数に入れない。)
 三種以上は、鍋もどきとなり、それぞれの素材の味はよくわからなくなる。味覚の楽しみ方が違うのである。これはこれで、各地に有名な汁がある。
(くどいが、初心者が最初に学ぶべきは、出汁のとり方や、味噌の選び方ではない。先ずは二種の具の選び方。それと同時に、全体の具と出汁の量的バランス、二種の具の比率、それに対して加える味噌の量だ。これを忘れずに。
ちなみに、「第一歩」は具は一種。しかも、具の量はどうであろうと楽しめる。加える味噌は単なる風味付けなので少ない方がよい。「第二歩」は、これとは全く違う勉強をしていることを理解して欲しい。)

 と言うことで、二種の具からなるお味噌汁の基本形のカリキュラムをご紹介しよう。

【第1ステップは、海藻1種からの発展形。「第二歩」では、ここが最重要。】
「第一歩」の最後のステップで、乾物を具にした。海藻であっても、この手の乾物から旨みは出ないし、“嬉しい”香りもほとんど立ち上らない。いかにも寂しい感じがしたのではないか。
その通りだと思う。そこで、具をもう1種加えるのは自然なこと。無難なのは、焼麩だが、液体を吸い込んでしまうから、これは勉強にんらない。
と言えば、何に挑戦するか、すぐに想像がつくのではないか。
■ワカメ+豆腐■
味噌汁用の乾燥海藻の代表選手はワカメ。これに合うのは、もちろん、豆腐。海産物の出汁だから、豆腐は魚の蛋白質の代替と考えることもできる。従って、これは豆腐の味噌汁なのである。
と言うことで、ワカメでなくフノリでもよい。こちらは、より磯らしくなるから、なかなかなかのもの。しかし、海藻以外はお勧めできない。そんなことをする位なら、豆腐単品で十分だ。生湯葉や、生麩同様、他の具を入れず、大豆製品そのもの美味しさを堪能した方が賢い。
豆腐の味を楽しむほどではないなら、鍋スタイルにして、様々な具を投入する方がよかろう。ワカメはなくてもかまわない。
同様に、ワカメも豆腐がなければ、単品がよい。豆腐に似ているからといって、油揚は避けた方がよい。油が入るからである。又、ジャガイモとワカメもよく見かけるが、“苺大福”的なものと考えてよいのでは。
ともかく、このステップでは、具と味噌の量がどの辺りがよさそうか、同じ具で、二度作ってみるとよい。
尚、ワカメや豆腐の種類はお好み。具材の質で、相当な違いがでてしまう。このお味噌汁が好きなら、こだわる価値はある。

【第2ステップは、出汁が多少は出る海産物と葱。】
もう少し海産物にこだわっておこう。海藻から離れ、今度は魚肉か蝦肉。なんでもよい。
■生魚か練り物一種+葱■
海産物の場合は、出汁が出るが、気にせず出汁を使おう。甘エビやお刺身の残りものがある場合、それを使うのが手。ただ、魚介は一種だけにすること。淡白な、ハンペン、蒲鉾、白身魚を使う時は、お澄ましがよかろう。それ以外は、魚の臭いをカバーできる量の味噌を入れる。合わせるのは、長葱か類似のもの。
鰯のように、独特な臭みが気になる場合は、吸い口として、生姜の千切りを加えよう。練りものでも、揚げモノ系は二種より鍋系をお勧めする。
■小魚+シシトウ■
同じ魚でも、ジャコやシラスのように身が少ない場合は、葱より、シシトウのようなものがよい。

【第3ステップは、野菜のみだ。】
ここで真価が問われる。野菜のエキスが溶けるのだが、それをどう味わうかということ。先ずは純粋野菜だけで試してみよう。
■大根か蕪+その葉■
二種の具といっても、一種類の根菜。残念ながら、人参の葉は美味しくないから該当しない。
油揚は避けた方がよい。物足りないなら、吸い口を工夫する。蕪と柚子なら季節感が出て嬉しいものだ。
■二種野菜■
野菜の二種類というのは、結構難しい。
いくつかの組み合わせがある。いい加減な組み合わせは避けた方が無難。
基本は3つ。ジャガイモ+タマネギ、ナス+プチトマト、モヤシ+ニラ。好き嫌いが分かれる。

【第4ステップは、野菜に油分。】
スープと違い、野菜エキスが沢山入りすぎると、今一歩の味になる。この感覚を理解する必要がある。しかし、そんな時に油分が入ると、俄然美味しくなる。
■洋風葉野菜+揚げ玉■
キャベツやレタスは味噌汁の具として余りつかわれないようだが、揚げ玉と一緒ならそれなりのものに仕上がる。油が入ると洋風という訳ではない。
尚、油揚でも悪くはないが、油揚の主張が目立ってしまうので余りお勧めしない。
■青野菜+油揚■
小松菜や絹サヤと油揚の組み合わせ。味噌汁でなく、煮物がよいと思うが、どういう訳かこの素材が残っていることが多い。油揚でなく、生揚げに替えてもよい。
尚、水菜や壬生菜は小鍋仕立ての方が向く。出汁がよければ、味噌も醤油も不要。
あまりお勧めしたくはないが、油揚はカボチャ、ブロッコリーのような塊状野菜にも合う。
油揚に中身を入れた汁がよく紹介されているが、これは「一汁」ではなく、「菜」のお椀料理にあたる。全く別物と考えて欲しい。

【第4ステップは、肉と青野菜である。】
油分を加工食品ではなく、肉にすることもできるが、キャベツやレタスでは洋風スープになりかねない。
それには、肉に合った野菜を選ぶしかない。
■豚か鶏肉+葉野菜■
肉系は多種の具で煮る鍋系が合っている。しかし、さっぱり感を出せば「一汁」になる。豚肉+白菜、鶏肉+水菜といったところ。そういえば、沖縄の「味噌汁(みそじる)」は豚肉、豆腐、カマボコ、卵、野菜が沢山入って丼で出てくる。肉はやはり「汁」ではなく、「菜」がふさわしい。

【第5ステップは、茸と青野菜である。】
茸は油分はないが独特の旨みが出るので、肉と同じような扱い方が必要となる。
■茸+青野菜■ 茸によって微妙に味が違うから、それぞれ合いそうな野菜を考える必要がある。
エリンギ+小松菜、マイタケ+豆苗、生シイタケ+春菊、エノキ+茹でたホウレンソウ、といったところ。
まあ、茸を使うなら、お勧めは、このようなものでなく、茸尽くしの鍋型ではないか。

【第6ステップは、例外的なものだが、必須かも。】
ご想像がつくと思うがナメコ。茸だがこれだけはヌルヌル液があったりして、全く別物だ。
■ナメコ+(三つ葉)■
余計なものを入れると独特な風味がわからなくなりかねない。豆腐を含め、他の素材は入れない方がよい。“吸い口”といった感じで三つ葉を散らす程度が望ましい。
以下は、必須ではない。これが、正真正銘の例外かも。
□茗荷だけ□
茗荷は本来は吸い口用素材だが、茗荷だけは大好きという場合の味噌汁。他の素材との同居は無理。
□里芋だけ□
芋類や人参は鍋向き。ただ里芋を味噌汁にしたいなら、芋だけにして、菊の花をいれて楽しむとよい。

【「菜」を兼ねた煮込み料理に近いもの。】
 ちなみに、「鍋」型の、三種以上の具が入る味噌汁の代表選手名をあげておこう。
 もっとも、「第一歩」で比較対象にした“具沢山野菜の味噌汁”は特に名前はないようだが。
 野菜中心なら、肉抜きにした“沢煮椀”だろうか。軽く火を通して野菜の香りと歯ざわりを楽しむ。さらに、秋めいてくると、“茸尽くし”だ。さらに寒くなれば、“豚汁”、“けんちん汁”がよかろう。“だんご汁”が日常食になっている地方もありそうだ。
 これらはナショナルブランドだが、沖縄の“味噌じる”のように、郷土料理を探せばいくらでもある。
 この手の味噌汁は、当然ながら雑味が入る。各素材の微妙な味はわからなくなるから、大雑把でかなり濃い出汁がむく。洗練度を気にかけないということ。下手に洗練すると、かえって喜びが薄れかねない。
 様々なエキス分が混沌とした状態を楽しむことが主眼目である。おそらく、これが庶民の味だ。昆布、鰹節、煮干を適当に入れ、取り出さない“具沢山の野菜の味噌汁”も、冷蔵庫に余っているなら豆腐をいれた方がよいのである。「一汁」と「一菜」の兼用なのである。

 ここまでいけば、自分好みの味噌汁を見つけることができる筈。
 カリキュラムは細かそうに見えたかもしれないが、凝った味噌汁を狙った訳ではない。分析的に細部を詰めているのでもなければ、さまざまなスキルを身につけるためのトレーニングをしたのでもない。手間だが、この過程を経ないと、味を知ることができないだけのこと。
 自分の好みががわかれば、あとは適当にどんなものでも作れる。そうなれば、楽しみは倍増どころではなかろう。

〜 [付録 1] 味噌の選び方は難しい。 〜
味噌はなんでもよいと言っても、その質で味は大きく左右される。しかし、種類は多いし、同じ種類でも、銘柄で味は大きく変わる。対象の数が余りに膨大で、味見で選ぶのは事実上無理に近い。だが、一回の使用量に比して、商品重量は結構大きいから、ハズレに当たると災難である。しかも、味覚の個人差は小さくないようだから、他人のお勧め品は合わないこともある。
何種類も冷蔵庫に保管など無理だから、時々、様々なものを使ってみることをお勧めする。
それなりのガイドラインも作れないことはないが、こればかりは好き好き。
 ・「わかめ+豆腐」は米麹・辛口・赤 [仙台味噌]---海藻を楽しむには塩気と味噌の香り。
 ・魚系は麦麹・甘口・淡黄色 [長崎味噌]---蛋白質を本格的楽しむには薄塩。
 ・洋風野菜や二種野菜系は、米麹・中辛口・淡色茶色 [信州味噌]---辛口の米味噌と違う香りでスープ風。
 ・一種根菜系は粒が入った米麹・辛口・赤 [越後味噌]---お米の雰囲気。
 ・生麩のような“京”風は米麹・甘・白色 [西京味噌]---“京”の自己主張。
 ・「ナメコ」は豆麹・辛口・赤褐色 [八丁味噌] +信州味噌少量---慣習。
 ・薩摩汁は麦麹・甘口・赤色 [赤薩摩味噌]---郷土色。

〜 [付録 2] 鰹節出汁にこだわりたいなら覚悟が必要。 〜
たっぷりの鰹節を使うと美味しいし、2回目の出汁でも結構楽しめる。どういう訳か、こうした解説はあふれかえっている。ただ、そば汁や、「菜」の汁とは違い、「一汁」は日常的な料理だから、予算バランスの視点からよく考えた方がよい。それに、素材選定眼が必要となるから、スタイルだけの真似では、コストパフォーマンスが悪すぎる。どの程度厄介か示しておこう。
鰹節はなににするのか?
 ・マガツオ(薩摩系)、ソウダガツオ(土佐系) [蕎麦屋がよく使う鯖節もある]
 ・本節(雄、雌)、亀節
 ・黴の違いで旨みは変わる。どこでどのように作られたかの違いは大きい。
 ・どういう訳か枯節でないものも売っている。(荒本節、裸節)
  ---「かつお節とその仲間たち」 日本鰹節協会  http://iseshou.com/katuo.htm#fusi
削り方はどうするか(切り口、厚さ、バラツキ)? 鰹箱(かつばこ)の質はどの程度影響するのか?
 ・上質刃は高価だし、木(タモ、ツガ、キハダ/キリ、スプルース)もピンキリ。
 ・面倒なら、氷削り器型「オカカ7型」という手もある。: http://www.aikogyo.co.jp/
 ・究極的には自作鉋箱だという意見も。: 「かつ箱を作ってみる」 さかなは○で-丸出佳魚
      http://sakanahamarude.hp.infoseek.co.jp/cooking/katsubako1.html
出汁漉し袋はどうする?---ネル、ガーゼ/寒冷沙、さらしがあるが。
要するに、昔の家庭における“常識”がなくなってしまい、“料亭”の知識に頼るしかなくなり、バランスの取り方がわからなくなったということである。このスキルを身につけるためには、ただならない努力が必要だと思われる。

 --- 参照 ---
(参考レシピ) ウエブには、名称は同じでも似て非なるものも多く、なにが標準かはよくわからない。あくまで参考。
  けんちん汁  https://www.hotelokura.co.jp/tokyo/restaurant/recipe/japanese/recipe19.html
  豚汁  http://www.miso.or.jp/utility/cooking/20.html
  薩摩汁  http://www.hot-kagoshima.com/resipi/shiru.html
  沖縄風みそ汁   http://www.ii-okinawa.ne.jp/people/o-ryouri/ryouri.htm
  沢煮椀   http://city.shiroi.chiba.jp/webapps/www/info/detail.jsp?id=4346http://city.shiroi.chiba.jp/webapps/www/info/detail.jsp?id=4346
  三平汁、等 http://www.hiyama.pref.hokkaido.lg.jp/ss/num/kyoudoshoku-sanpei.htm
  じゃっぱ汁、等  http://www.aomorishokoren.or.jp/kanko/cooking/tsugaru.html
  どんがら汁 http://www.chuokai-yamagata.or.jp/s-miso/cooking/dongara.html
  どぶ汁 http://www.pref.ibaraki.jp/discover/monthly/recipe/12.html
(味噌汁のイラスト) (C) Hitoshi Nomura NOM's FOODS iLLUSTRATED http://homepage1.nifty.com/NOM/


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