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2008.9.17
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生魚料理を学ぶ際のポイント…


お刺身は、どう盛るかで印象がガラッとかわる。

そのせいかはわからぬが、スーパーには、美しく飾られたお刺身も少なくない。そのまま食卓に出しても違和感なきよう工夫されており、柄物発泡スチロール容器も増えているようだ。

時間も体力ももてあましているオジサンはこんなものにとびつくべきではなかろう。


 生魚料理を学ぶとなると、たいていは、魚のおろしかたから始まる。自学自習は難しそうだから、料理学校に通おうかと思案中のオジサンも少なくないと思う。しかし、一寸待った。
 頻繁に釣りに行く人は別だが、最初に学ぶべきことはそんなことではないと思う。


〜 生魚の食べ方の “現代”の流儀 〜
 
[料理名] - お造り - - お刺身 - - たたき -
食文化の原点 貴族 町人 漁師
考え方 形式美
(儀式的)
楽しさ
(お遊び)
実質本位
(食欲対応)
真鯛 本鮪 真鰯
重視すべき点 硬さ 低温 新鮮さ
切り方 平造り 角造り 乱切り
淡白・薄甘
食感 硬直性 軟・滑性 弾力性
並べ方 7・5・3 乱積 山盛
身の色 ピンク
添え物の色
(胡瓜)

(大根)
色より香り
皿の色 淡緑
(青磁)
白に紺模様
(陶器)
気にしない
(丼)
飾り物 歌のタネ
(葉)
黄色
(菊花)
不要
味付
+柑橘類
醤油
+出汁
味噌
薬味 もみじ
おろし
すりおろし
山葵
生姜
微塵切り
 はっきり言えば、お刺身なら、サクを買ってきて、包丁で切り、お皿に並べるだけで十分ではないか。包丁の技術を習ったからといって、格段に美味しくなる訳ではなかろう。そんなことより、生魚の食べ方の流儀を理解することの方が重要だと思う。今回はその解説といこう。

 と言っても、簡単な話。
 全く異なる3種類が並立していることを確認できれば十分だと思う。表は違いを誇張するために工夫したものだから、内容をそのまま信用してもらうのはこまるが、全く違う考え方があることはわかって頂けるのではないか。
 この違いを理解した上で、それぞれのエッセンスをどう入れるか考えて料理することになる。なんら難しいことはない。
 純粋化を目指すのもよいし、混沌化もあるだろう。好き好きだが、自分の思想をはっきりさせた方がよい。
 “ツマ”、“ケン”の役割もわかると思う。(付け合わせの量などたかがしれており、栄養学的な意味など考える必要は無かろう。)盛り付けは、どの文化を選ぶかということ。例えば、のんびり時間をかけて刺身で一杯というなら、笊に氷を敷いた上に刺身を盛った方が合理的ということ。そして、彩りに、生野菜ステックを配したらよかろう。それが、堅苦しい儀式を嫌った、町人が目指した粋の精神だと思うが。
 ともあれ、コンセプトなきまま、細かな手法を学ぶのは避けた方がよかろう。

 これさえわかれば、何を学べばよいかわかると思う。以下、それぞれの特徴と学ぶポイントを記載したので、参考にして欲しい。

■■ お造り(真鯛) ■■
 若い時には、鯛のお造りの美味しさは、わからないのが普通である。脂がのっていて、軟い身が好きで当たり前。そうでないなら、老齢化が進んでいるということ。
 豊富な人生経験を語れる年代になって、初めて、硬い身の奥深い味を堪能することができるようになる。それに応えることができる、お造りに挑戦するのも一興かも。
 この場合、重要なのは、魚の“目利き”である。包丁さばきがいかにすばらしくても、モノが今一歩ならどうにもならないのである。従って、サクを買い、包丁で切るだけで十分。刃が研いであれば、玄人のようにはいかなくても、まあまあのものになる。気にすることはない。
 そんなことより、“目利き”のスキルを身につけた方がよい。と言っても、産地名が記載されている様々なサクを味わうだけのこと。(本当は、低品質モノを試すと、どの程度味が違うか勉強になるのだが、そこまですることはなかろう。)ともかく、比較して学ぶことである。
 ただ、この場合、「産地名」そのものに意味はない。「船→港→都会の市場→(卸)→小売」という長い流通で、どう扱われ、どれだけ時間がかかっていそうか、推定するために必要な情報というだけのこと。(築地場外市場は生簀を持っていることが多い。)
 「どこまで活魚で運ばれたのか。途中で生簀に入れていたのか。生き絞めしたなら、どの時点で、それから店頭までどの位時間が経っているのか。」を推定するということ。
 一般には、以下のような法則があるとされており、それに留意しながら、味わって勉強するしかない。
  ・養殖モノは、生き絞めしてから、時間をおかずに食べると美味しい。
   (身が締まっているということ。長く置けば、美味しさは失せる。)
  ・天然モノは、生き絞めしてから、時間をおいて食べると美味しい。
   (鯛らしさが出るのは、氷温で半日以上たってからではないか。)
  ・生簀に入れておくと、身の質は落ちる。
 要するに、えらく厄介なのである。本気で勉強したいなら、アドバイスしてくれる専門家(魚屋の旦那か釣り人)から魚を入手するしかない。当然ながら、それはえらく高価につく。まあ、そこまでしなくても、どの程度の違いがあるものか位は勉強しても損はなかろう。
 ついでながら、貴族文化を好むなら、“ツマ”は不要である。あくまでも魚を愛でるのであり、その味を引き立てるもの以外を並べるのは品格を落とすことになろう。ただ、味にかかわる香味は容認されるだろう。「もみじおろし」ではなく、「紅蓼」と酢というのも考えられる。その名残りが、「碇防風」かも知れない。   → 「蓼」 (2008年7月22日)
 要するに、盛った形を整えるために野菜は使うが、食べようと考えてはいないということ。菊花の飾りものや、“うご”(オゴノリ)などは、色合わせの下賎なお遊びということになろう。ただ、歌のネタにしたい場合は別だが。
 尚、食べきれなかったら、昆布じめにするとよい。身の水分がとれ硬さが持続すると共に、昆布の旨みが染み込むから、甘みが増す。実は、こちらのスキルを磨く方をお勧めしたいのだが。

■■ お刺身(本鮪) ■■
 トロは、江戸時代はさっぱり人気がなかったが、現代は脂好きなので流行っているとの話ばかりきかされるが、肝心のポイントを忘れている。常識で考えればわかるが、冷蔵庫などなかったのだから、江戸の流通鮪はもっぱら醤油漬けだった筈である。トロの醤油漬けが美味しいか考えてみたら如何。生の赤身にしても、夏場には、水分が滴り出た筈で、スノコでも敷かなければとても食べられたものではなかったと思う。
 “なま温かい”鮪の刺身の不味さ加減を知れば、そんなことはすぐわかる筈。低温が実現できたから、初めて脂が美味しく感じられるようになっただけのこと。その結果人気がでたに違いない。
 それに、大型魚は身が硬い。肉と同じように熟成が必要な筈だ。この調整は素人には無理である。つまり、素人に、生の鮪はお勧めできないのである。
 これでおわかりだと思うが、冷凍のサクの購入をお勧めしたい。食べる際に、冷たさを感じさせる程度にまで解凍するのが美味しく食べる秘訣。食べる時間に合わせた解凍のスキルが肝心。
 間違ってはいけないが、これは町人文化だ。刺身を上品な食べ物として扱うべきでない。川柳で楽しむとか、刺激的な薬味や、変わった付け合せ、何だろうが、楽しそうなら、いろいろ取り入れる料理なのである。身には面白さがないから、他で遊ぶ訳である。紫蘇の香りは鮪にはどうかと思うが、アイデアを凝らして使ってみるのも手。・・・緑色の葉を敷けばかなり派手な色調になる。青芽か紫芽を添えるのも一興だし、穂や花穂で飾る手もあろう。こんな工夫を喜ぶ訳だ。そうそう、菊花のかわりに、花丸胡瓜でもよいかも。
[本鮪(黒)は超高級品化してしまった。南も高額化一途だ。目鉢辺りで妥協するしかなさそうだ。]

■■ たたき(真鰯) ■■
 生の鰯が家庭で食べられるようになったのは、すごいことだ。漁船で獲ったら、すぐ氷に漬け、急いで運んでくるのだろう。
 しかし、変質を抑えるのは無理である。産地名を見て、鰯君の心臓が止まってから、何時間たっているか考え、どの程度の質か考える必要があろう。
 本来は陸にあがったらすぐに食べるべきものだと思う。従って、一度は、獲りたてに近い鰯を食べてみる必要がある。漁港に近い小売店で“朝獲り”を午前中に購入しすぐ調理して味わうべきだ。体は鮮やかに光り輝き、目はランランで、都会で見かけるものとは別種かと思ってしまうほど。これを、包丁を使わず、手で頭をとり、腸を除き、氷水で洗って、たたきに加工するだけのこと。ポイントは良く洗うことだけ。ただ、短時間で処理し、水っぽくならないように注意が必要。それなりのスキルがないと上手くいかないかも。ついでだから、一匹はそで切りにして、刺身として味わってみるのもよかろう。
 ただ、この技術以外も磨いておく必要があることを忘れないこと。
 と言うのは、新鮮な地場の魚はたいていが一山売り。折角だから、大目に買って、酢漬けにするとか、干物にもした方がよい。一度に処理するのだから、たいして手間が増える訳でもないし。
 尚、魚が好きな人は、骨の部分は捨てずに、すぐに煮て、出汁として利用するとよい。

 --- 参照 ---
(刺身について) 「刺身の科学」 近畿大学農学部
  http://oyako-denken.hp.infoseek.co.jp/riyo/howto/sashimi.htm
(刺身の写真) [Wikipedia] http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%BB%E5%83%8F:Sashimi.jpg


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