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2008.10.15
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卵スープを学ぶ…


 かき玉汁は簡単な料理だが、これだけでは腹の足しにならない。
 お腹がすいていたら、これに澱粉質を加えて、ボリューム感を出すことになる。


 フランス料理としてのスープの学び方を考えてみたが、フランス以外のスープをどのように考えるべきか、頭を整理しておこう。

 それには、卵スープを題材に検討するとよいと思う。

 フレンチの視点では、とろみがつく“POTAGE LIE”のなかで、卵黄をつかうというのが基本。
 例えば、“トゥリン[Tourin]”(1)は、ニンニクスープのこと。
 当然ながら、ベースはブイヨンで、塩・胡椒で味付けする。オリーブオイルで調理したニンニクを使うことで特徴がでる訳だ。トロミをつけるため小麦粉を加えると共に、マヨネーズのようなクリーミーさを楽むために、卵黄と酢を混ぜたものを加えるし、残った卵の白身も加える。ただし、かき回して塊はつくらない。
 実態から言えば、これは「卵スープ」。しかし、フレンチのコンセプトでは、あくまでも「ニンニクスープ」ということになろう。
  → 「仏蘭西で完成されたスープの技を学ぶ 」 (2008年10月1日)

 さて、ここからが、勉強のしどころ。
 それでは、「ニンニクスープ」と「卵スープ」は別なものと考えるべきかということ。
 実はスペインでは、これが一緒になるのである。「ニンニクと卵のスープ」である。

 中身から言えば、日本流に言えば、「溶き卵汁ニンニク風味」ということになろうか。しかし、おそらく、そういうコンセプトではない。
 これは、あくまでも「ニンニクスープ」なのだ。ただ、満腹感を得るために卵が入ったのである。従って、パンも入れるべきである。
 この料理の要点をまとめると以下のようになろう。

■■スペインのスープ[Sopa]■■ “ソパ・デ・アホ[Sopa de Ajo]”(2)
【ベース】
  ・スープストック[Caldo]
  ・付香: 丁子[Clavos de Olor]、月桂樹の葉[Hoja de Laurel] 、タイム[Tomillo]
  ・味の調整: 塩[Sal] (お好みなら胡椒[Pimienta]も)
【スペイン風のポイント】
  ・最初に、スライスしたニンニク[Ajo]と、微塵切りした玉葱[Cebolla]を、オリーブ油[Aceite de Oliva]で炒める。
  ・調味料として、必ず、辛いパフリカ粉[Pimento'n]を加える。
【満腹感の素】
  ・ニンニクが焦げないうちに、乾燥したバゲットパン薄切[Rebanada de Pan]を入れる。
    パンに焼色がついたら、すかさずスープストックを入れる。
    好みで、トマト[Tomate]を加え、味を調整しながら、火を強める。
    沸騰したら、すぐに弱火にして、以後は絶対にかき混ぜない。
  ・十分加熱できた感じがしたら、溶き卵[Huevo]を入れる。沸騰させず、すぐに食卓へ。

 それでは、フレンチには、この手の卵を使うやり方はないかといえば、そういう訳ではない。“ポタージュ ミル ファンティ [Potage mille fanti]”があるからだ。ただ、このスープ、イタリア直輸入モノである。その要点をまとめると以下のようになろう。

■■イタリアのスープ■■ “ストラッチャテッラ[Stracciatella](ハギレボロ布)”(3)
【ベース】
  ・スープストック[brodo]
  ・付香: レモンの皮[Limone]、ナツメグ[Noce Moscata]、イタリアンパセリ[Orezzemolo]
  ・味の調整: 塩[Sale] (お好みなら胡椒[Pepe]も)
【イタリア風のポイント】
  ・パルミジャーノ粉チーズ[Parmigiano Reggiano]をたっぷりかける。
  ・お好みでオリーブオイル[Olio d'Oliva]を滴下する。
【満腹感の素】
  ・パン粉[Pane Grattugiano](代替品:セモリナ粉)を沸騰したスープストックに入れる。
  ・十分煮えたら、チーズを入れる。
  ・最後に、卵[Uova]を落とし、沸騰させずに、すぐに食卓へ。

 このスープ、名前がなかなかのもの。溶き卵が布切れのように見えるという名称だからである。
 これは、中華料理の「卵スープ」のコンセプトの導入かも。こちらは、牡丹の花のように仕上げるのだ。
 尚、溶き卵でなく、煎り卵という方法もある。こちらは“煎蛋湯”。
 まあ、溶き卵のスープが基本だろう。その要点をまとめると以下のようになろう。

■■中華スープ■■ “蛋花湯[タンファータン]”
【ベース】
  ・鶏スープストック[湯]
  ・味の調整: 塩[鹽]、酒
  ・具: 緑野菜[素菜]、筍[竹筍]
【中華風のポイント】
  ・とろみをつけるのに溶き片栗粉を使う。
【満腹感の素】
  ・春雨[粉絲]を入れる。
  ・熱が通ったら、溶き卵を流し入れ、煮立って柔らかく盛り上がった感じがしたら火を止める。

 さあ、それでは、本命に移ろう。和食である。  そうなると、「かき玉汁」と考えがちだが、これは鰹節の出汁であるし、澱粉質がない。そうなると、「かき玉ウドン」となりかねないが、これは別なジャンルの食べ物だろう。まさか、スプーンでウドンを食べる人はいまい。
 そうなると、何か。  和食の澱粉といえば、ご飯だ。「卵おじや」しかなかろう。同様にまとめておこう。

■■和食■■ “卵おじや”
【ベース】
  ・スープストック: 鶏鍋の残りの汁
  ・味の調整: 薄口醤油(あるいは塩)
  ・薬味: 長ネギ小口切り
【満腹感の素】
  ・冷ご飯を沸騰した汁に入れる。(ご飯は洗ったりしない。)
  ・ご飯が膨れ、形態が崩れたら、割りほぐした卵を落としてすぐに火を止める。

 スペイン、イタリア、中国、日本、と「卵スープ」を見てきたが、要は、澱粉質も加えて、手っ取り早くお腹を満たす料理ということである。
 まあ、どこまで本当かは知らないが、ウエブには「おじや」とはスペイン語の“olla”だと記載したものが多い。出典が無いので信用し難いところがあるが、パレンシア地方に、“豚肉や腸詰め、カボチャにアセルガスの芯、麦の粒、ヒヨコマメ、インゲン豆、米などなど、具だくさん”(4)でアツアツの鍋料理があるのは確かである。
 ひょっとすると、ウズラ鍋の汁に米の“olla”を学んだ結果が「おじや」かも、などと想像してしまう。多分、そんなことはないと思うが。

 --- 参照 ---
(1) Tourin recipe (Dordogne garlic soup) - food in France  http://www.francethisway.com/tourin.php
(2) Garlic soup (Sopa de ajo) BBC
   http://www.bbc.co.uk/food/recipes/database/sopadeajogarlicsoup_85169.shtml
(3) STRACCIATELLA ALLA ROMANA (Egg Drop Soup) Italian Trade Commission
   http://www.italianmade.com/recipes/recipe208.cfm
(4) 「鍋と煮込み」 バレンシア自治州
  http://www.comunitatvalenciana.com/Valenciaweb_jp/Pages/gastro2_stews.htm
(卵のイラスト) (C) Hitoshi Nomura NOM's FOODS iLLUSTRATED http://homepage1.nifty.com/NOM/


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