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オジサンのための料理講座 ←イラスト (C) SweetRoom 2009.10.14 |
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英国食文化を考えながらのSandwich作り…サンドウィッチが伯爵の発明品という話を知らない人はいまい。(1) うますぎる話である。 と言って、ブランドビジネスのはしりにしては古すぎるが。 〜 イギリス料理を褒める人は少ないようだ。 〜 英国駐在員だった方に、イギリスの料理はどうだったというと、よくある答えは、「抜群に美味しかった。なかでも、中華と印度料理は最高。」まあ、cliche的な冗談だが、この程度が言えないと一人前のビジネスマンとして扱われないというだろう。 学生さんだと冗談を学ぶ余裕は生まれないようで、同じものばかりで、耐え難かったという人もいるそうだ。 英国好きの文化人は、ローストビーフとフィッシュアンドチップスだけで判断するからで、偏見がひどいと言い続けているようだが、たいした効果は無いようだ。 ただ、女性を中心として、アフターヌーン・ティーの習慣だけは、垂涎ものとされているようだ。香り高い紅茶に、スコーンとクローテッド・クリーム(Clotted Crean)/醗酵バター/ベリー系ジャムで一服とのスタイルは、余裕ある生活を象徴しているということ。 〜 英国の料理は「鄙」と見なされているだけのこと。 〜 しかし、英国を愛する文化人には申し訳けないが、正直のところ、英国料理を褒める気にはならないのである。 それは、「都」のセンスを欠いており、「鄙」の雰囲気が濃厚だから。 この点で、和食とは正反対。日本では、いかに交通が不便な地域であっても、食は「都」型だと思う。偏見がひどいのは、実は、英国料理を褒める文化人の方である。少し解説しておこう。 もちろん、日本でも「鄙」料理を楽しむことも少なくない。しかし、それが基本ではない。どういったものか並べてみようか。 ・鍋やBBQといった類 -雑(野趣溢れる)な調理方法を楽しむ。 -マナーを忘れ、無礼講で息を抜く。 ・エスニック系 -異文化への好奇心を満たす。 -流行に迎合し、皆で大騒ぎして楽しむ。 ・「鄙」でこそ美味しいもの -独特の産品の凄みを知る。 -取り立ての素晴らしさを賞味する。 それでは、「都」とはどういうことか。 実に単純である。「出汁」を使うということ。インスタントであろうがなからうが、出汁という概念があるかどうかで決まる。 例えば、出汁を使った椀モノは「都」センスの料理。一方、出汁が出る素材と具を一緒に煮込むのは「鍋」汁。こちらは、まごうかたなき「鄙」料理である。 → 「お味噌汁作りの学び方」 (2008年6月11日) だが、「都」味覚が、染み付いている人もいそうだ。パンに味噌汁という朝食をお勧めする人もいるのだから。 → 「味噌汁哲学批判」 (2008年9月10日) 〜 「出汁」文化を欠けば、いくら美味しくても「鄙」料理である。 〜 日本食の特徴をお分かりだろうか。出汁とは、“旨み”を分離したもの。これを野菜の煮物から始まって、様々な料理に生かそうと苦心しているのである。しかも、それは土器の時代から続いて来た習慣なのかも。 この「都」料理としての、洗練度は桁違い。鮪の刺身など「鄙」の典型だが、本格的な鯛の刺身を考えれば合点がいくだろう。わざわざ、出汁の基本である昆布の旨みを身に移したりする。しかも、その薄い旨みを味わうためには、活き〆と血抜きをした魚を、最良の時間に刺身にする必要がある。驚異的洗練度と言わざるを得まい。 言うまでもないが、フレンチのブイヨンや、中華の湯と同じ思想である。いずれも、洗練された美味しさを目指した「都」料理そのもの。イギリス料理はスープストックによる料理の発展系ではないということ。 日本は、この点では圧倒的な先進国である。なにせ、「味の素(R)」を発明した国なのだから。 中華料理帝国も流石に、これには一本とられた。多分、グルタミンソーダ無しの食事など考えられなくなっているのではないか。 もっとよくわかるのが、B級と見なされる「沖縄そば」。この料理、見かけと違い「鄙」料理ではないのである。出汁を別途作るからである。肉汁味を感じる、韓国の「冷麺」とは、考え方が違うことに注意してほしい。 沖縄と韓国の違いは、肉料理でさらに歴然とする。沖縄定番の「ラフテー」は当然ながら出汁を使った料理だ。韓国定番の「焼肉」的なものとは全く異なる。 当然ながら、沖縄料理では、唐辛子利用は限定的にならざるを得ない。せっかく作った出汁の旨みが感じられなくなるからだ。辛い四川料理にしても、それは「湯」を強調するように使うのが原則。 こんなことを考えると、イギリスにも、唐辛子が一世風靡した時代があったかも。自分達が伝統とする旨みがなにかを明確化できないと、独自性に拘れば、唐辛子を使うのは手っ取り早い方法だからだ。当然ながら、フレンチや中華から見れば、辺境料理とのレッテルを貼られる。(“Anglaise”とは、できる限り手をかけない、洗練性とは対極に位置する料理ということになる。しかし、カスタードクリーム的な作品[Creme Anglaise]には、脱帽というところかな。) 〜 被支配国時代が長ければ、「鄙」料理文化と見なされても致し方あるまい。 〜 イギリスの食文化を、気候や食材から考える人が多いが、その見方は疑問。わざわざ、韓国の例をあげたのは、そのため。寒い地域で唐辛子好きは珍しいからだ。もちろん暑い地方でも、ベトナムやインドネシア料理を見ればわかるように、一部にしか使わない国が多い。食とはそういうものだ。 もっと重要なのは、その国の政治的安定性である。イギリスのイメージはアングロサクソン/新教だが、あくまでも連合王国。原住民のケルト/旧教文化が消えた訳ではない。北アイルランドだけでなく、スコットランドが、イングランドと異なる食文化を保っているのは間違いない。日本の地方文化とは性格が違うのである。しかも、バイキングの侵入、ローマ帝国支配など、強国とは言い難い時代が長い。植民地の様々な食文化を自ら導入するようになったのはつい最近の話。歴史は浅いのである。 このことは、“ローストビーフ”を代表料理とみなす発想では、イギリスの食文化はわからないということ。おそらく、モザイク状に様々な食文化が並存している筈だ。もちろん主流は「鄙」料理。 要するに、楽しむつもりなら、地方料理ということ。(2) 該当するものとしては、シチューやパイだろうか。地方文化が残っているなら、こうした料理は美味でない筈がなかろう。しかし、それはイギリス料理とは呼べないかな。と言うより、そう呼ばれたくないかも。各地方毎に、“We do things differently.”気質がありそうだし。 〜 簡単便利で美味しい料理こそイギリスらしさかな。今回は、それを試すか。 〜 そうなると、イギリス料理を何か勉強しようとなると、けっこう迷うかも。 まあ、上記のように考えれば、ローストビーフにヨークシャープディングというのは止めた方がよい。ヨークシャー辺りの料理とか、コッツウオールズ料理といったローカルものに挑戦するのが面白そうだが、選択は難しい。 う〜む。 それなら、世界を風靡した、イギリス発の簡便料理はどうだろうか。そう、サンドイッチである。 これなら、イギリス文化の香りを持ち込むことができるのでは。 従って、それから遠のくものは避けよう。 まずは、古典的喫茶店メニューに登場する洋食型の「ハムサンド」、「野菜サンド」、「玉子サンド」。そして、パン屋さんの惣菜パン的なもの。「厚手のカツ+とんかつソース」、「ツナ」、「ポテトサラダ」が三大サンドかな。まあ、バラエティ豊富で、企画商品でもある。 米国流も浸透しているが、これも除外。代表的なのは、「BLT」と「Club sandwich」かな。現地の子供用なら、「Peanut butter and jelly sandwich」かも知れぬが、これは日本では受けない。 そもそも、サンドイッチよりは、丸いbunを使うハンバーガーや、長細いbunのホットドッグといった肉類をはさんだものが好まれている。チェーン店にしても、フランスパンを使ったり、クロワッサンサンドとかパニーニやベーグルといったものが目立つ。 それなら、家庭で、英国伝統を勝手に想像して、自製のサンドイッチを作ってみたらどうだろう。 ということで、レシピを並べてみた。お試しあれ。 ■■■サロンの雰囲気を愉しむ。■■■ Cucumber sandwich ■■■ アフターヌーンティーといえば、“胡瓜のサンドイッチ”→“スコーン”→“ケーキ”で食すのが習慣である。これを、 英国植民地の雰囲気が残る国のクラシックホテルで味わうと気分が出る。胡瓜でなく、スモークサーモンとトマトのサンドイッチを出すお店を見かけるが、これではさっぱり感が失われてしまうので、どうかと思う。まあ、現代では、時間の贅沢を味わう性格が強いから、そんなことはどうでもよいのかも。かつては、新鮮な胡瓜は自分の農園を持つ階層だけが手に入ったのだろうから、それは贅沢そのものだったに違いないが、今は、一年中胡瓜は廉価。それに、耳を切った美味しいイパンなど、庶民にとっては垂涎モノだったに違いない。 思うに、このサンドイッチがサンドイッチで基本技術をマスターすべきだと思う。(3) 重要なことは、パンの水分が蒸発して硬くなったり、具の水分でグチャグチャ感が出ないように配慮するだけ。 ・パンは上級硬質小麦の焼きたて食パンを使う。 ・調理直前に“斤”モノを薄く切る。 ・すぐに表面にバター等の油分を一面に塗る。 ・時間がかかる時は、2枚を張り合わせたものを重ねてラップで包んでおく。 ・具は薄く切り硬いところはカットする。 ・具をはさんだものを重ねて、つぶれないように、耳を切り落とす。 ・できたてを食べる。 ■■■宗主国のサラダ感覚を試す。■■■ Coronation chicken sandwich ■■■ ポテトサラダサンドは、コンピニやスーパーの惣菜パンコーナーには必ず置かれている。コロッケパンと並んで、相当人気がありそうだ。英国にマッシュポテトサンドイッチがあるのかは知らぬが、サラダサンドはやはり定番なのでは。ただ、単なるマヨネーズ味ではなく、カレー風味が好まれているようだ。味はいろいろあるようだ。(4) 家庭で作るなら、ローストチキン残りものをサイコロ切りして使うということになろう。ソースが決め手だが、ポイントはさっと混ぜること。 ・マヨネーズ+ヨーグルト+レモン汁 ・干し杏微塵切り+マンゴーチャツネ ・カレーパウダー+塩・胡椒[調整] ■■■肉の本命を味わう。■■■ Bacon/Bacon & Egg sandwich ■■■ 肉製品は本命。なにを使うかだ。 日本ならすぐに薄切りの冷製「ハム」となろうが、欧米では火を通した「ベーコン」、「ソーセージ」、「ハンバーグ」が好まれていそうだ。 ただ、英国風を追求するとなると、「ローストビーフ」にしたくなるかも。(5)それもありだが、ホースラディッシュが必須だ。これは、日本家庭の常備品ではないから、止めておこう。 ここは、やはりベーコンで。(6)ただ、霜降り牛肉好きの日本では、ベーコンにも脂が混じるものが多い。英国では、脂部分がはっきり分かれているものが普通だから、少し違う味かな。[売られているのが“Back baconということ。]まあ、できる限り、それに似たベーコンを選ぼう。 尚、ベーコンサンドイッチのの美味しさは、味や香りではなく、ベーコンの食感で決まるらしい。(7)と言うことで、焼き加減には十分注意しよう。そして、当たり前だが、作ってすぐに食べること。 ■■■ピクルスとチーズの相性を知る。■■■ Ploughman's (lunch) ■■■ サンドイッチにチーズはつきもの。ただ、日本では、棚に並んではいるものの、マイナー扱いされているような印象がある。チーズの好き嫌いが分かれているのかな。若者にとっては、とろけるチーズを使ったオープンサンド系のホットサンドイッチが好まれそうだが。この場合、ハムと同居させることが多い。ピザトーストやチーズハンバーグより簡単に作れる点がうけているのかも。 言うまでもないが、英国のチーズといえば、Somersetのチェダー[Cheddar]・チーズ。もちろん、十分成熟したものが望ましい。(若すぎても、チェダーはチェダーであるが。) そして、なくてはならないのがピクルス[Pickles]というか、正確には微塵切りしたレリッシュ[Relishes]。そう言わないと、日本ではハンバーグで慣れているせいか、すぐにガーキンの薄切りを乗せてしまいがち。英国はそうはならない。 定番製品があるのだ。日本で言えば、なんとなく焼きソバソース的な位置づけかな。 微塵切り野菜のドロリソース型甘酢漬け[swede, carrots, onions, cauliflower, gherkins,等]といった風合いの、“Branston Pickle”(8)である。英国家庭の1/3以上が使っているという有名ブランド。もともとはパブで出すランチにつける自家製から始まったのではないかと思うが、調べてはいない。 これが揃えば、“Ploughman's Lunch”はできあがる。(9)尚、類似ピクルスもあるようだが、(10)日本のスーパーで簡単に入手できるかはよくわからぬ。 ■■■ただただ腹を膨らませる。■■■ Chip butty ■■■ 小生は、ポテトチップとリンゴという昼食は耐え難いものがあるが、米国では結構気にならないようだ。しかも、金銭的な倹約ではなく、余り食べないようにしているつもりらしい。子供の時から培われた、油で揚げたポテトへの愛着は捨てがたいということでは。大好きな“特大”皮付きジャガイモの、丸焼き熱々品の代替なのかも。 英国でもポテトチップのサンドイッチがあるようだ。こちらは、おそらく、フィッシュ・アンド・チップス以上に安くてカロリーがあるというところがミソ。ただ、チップといっても、フレンチフライ系。どれだけ人気があるかといえば、Sheffield Unitedのサポータの姿勢を見れば歴然。“The Greasy Chip Butty”(11)なる応援歌の歌詞が大いなる参考書。タバコをふかし、地ビールを飲み交わし、嗅ぎタバコも。それに忘れてならないのが、油ギラギラの“Chip Butty”。夜の大騒ぎ付き。 日本の家庭向きサンドイッチではないのは歴然。これは止めておくか。しかし、これこそがサンドイッチの主流で、正真正銘の英国食文化なのかも。(12) なにせ、サンドイッチ協会があるくらいだし、(13) --- 参照 --- (1) http://www.open-sandwich.co.uk/town_history/sandwich_origin.htm (2) [例えば・・・] 橋本陽子,他: 「イギリスの食物(I)」 福岡女子短大紀要 1995年 http://nels.nii.ac.jp/els/110001161006.pdf? id=ART0001419329&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1253398301&cp= (3) Nick Kindelsperger: “English Cucumber Sandwiches” http://thepauperedchef.com/2006/02/cucumber_sandwi.html (4) “Coronation Chicken recipe” BBC [2003.6.2] http://www.bbc.co.uk/nottingham/features/2003/06/coronation_chicken_recipe.shtml (5) Antony Thompson: “Ultimate roast beef sandwich” Good Food Channel http://uktv.co.uk/food/recipe/aid/515529 (6) “The Ultimate Bacon Sandwich” http://www.speakeasy.org/~sjmaks/bacon/ (7) “Scientists' 'perfect' bacon butty ” BBC [2007.4.9] http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/england/west_yorkshire/6538643.stm (8) “Branston Pickle” Premier Foods http://www.premierfoods.co.uk/our-brands/grocery/branston/en/branston_home.cfm (9) “Ploughman's Lunch” epicurious http://www.epicurious.com/recipes/food/views/Ploughmans-Lunch-231649 (10) [UK通販のサイトのようである.] 味くらべ>ピクルス Eikokutabi.com http://www.eikokutabi.com/ukwhatson/uk_guide/food/ajikurabe/pickles.html (11) [音が出るので注意] ttp://www.greasychipbuttie.co.uk/ [Wikipedia] http://en.wikipedia.org/wiki/The_Greasy_Chip_Butty_Song (12) Andrew Shanahan: “The world's best sandwiches? Chip butty” Virgin Media http://www.virginmedia.com/homefamily/fooddrink/greatest-sandwiches.php?ssid=2 (13) http://www.sandwich.org.uk/british_sandwich_association_suppliers/index.htm (John Montagu, 4th Earl of Sandwichの絵) [Wikipedia] http://en.wikipedia.org/wiki/File:John_Montagu,_4th_Earl_of_Sandwich.jpg 「料理講座」の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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