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2010.9.3
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和食の原点を考える…


 旅館の食事が日本料理と呼べるものだろうか?
   → 「日本の独特な食文化」 (2009.11.5)
 “箱庭”的な松花堂弁当こそ日本文化そのものという主張もある。
 ともあれ、“雑炊”的で、“様式”に矢鱈こだわるのは確か。
 だが、もっと重要な視点があるのでは。


 今回は和食の原点を学ぶための料理。なにが“和”の本質か、ご自分の頭でお考えいただくためのもの。

 以前、味噌汁の話をしたことがあるが、具沢山といったゴッタ煮は伝統料理ではないというのが小生の見方。
 和が追求するのは、簡素なものであるから、訳もわからず混ぜるようなことは嫌った筈なのである。それは頭で考えたことではなく、美味しく食べるための秘訣。
 これを言葉で説明しても理解できるとは思えないので、ご自分で試してみたら如何。
 はっきり言えば、ゴッタ煮味噌汁は麦飯用である。

 これだけで、何を主張しているかおわかりだろう。
 そう、日本のご飯はそれだけで十分美味しい。実は、お数などなくても、上等な塩さえあればご馳走になる。しかも、炊きたてでなく、冷えてもイケル。
 つまり、お数とは、そんなご飯をさらに美味しくするためのオマケ。独立して賞味するものではなく、ご飯一口毎に、お数を頂くと、美味しさ倍増という仕掛け。
 そのため、どうしても簡素なものを好むことになる。複雑な味や、火を通したドロドロ感がある料理も避けたがるのは自然な流れ。

 今回は、これを官能的に学ぼうとの企画。
 従って、調味料として、味噌/醤油、油、酢、砂糖は一切使わない。基本は塩。
 ただ、それだけでは塩辛さがきついので、出汁や香味を多少きかせようというだけ。
 従って、塩をそれなりのものを用意すること。もちろん、それぞれに合わせたものを使う。ただ、素材そのものは、一般品で十分。冷凍品や下処理済を食べきれる分だけ使うのがよかろう。言うまでもないが、美味しく賞味できる自信があるなら、良質な素材を。滅多に味わえない、素晴らしい食事になるかも。
 外食の牛丼が大好きな方だと、この料理は美味しく感じない可能性が高い。言うまでもないが、肉汁(旨味)、脂味、甘味、醤油が心地よい訳で、煮汁を染み込ませたご飯と肉とゴチャ混ぜで食べるのが特徴の料理。欲しければ、これに酢漬けの紅生姜がつく訳だ。醤油、油、砂糖、味醂風調味料、酢のオンパレード。もちろん、これも代表的な日本料理と見てよいだろう。
 これとは対極的な料理を試そうとのご提案ということ。作って口に入れても、ひょっとすると、食べる気がしなくなるかも。そうなると悲惨だから、すべてを少量試作に留めておくのが無難だ。後から調味料を加えても、どうにもならないのでご注意の程。

と言うことで、以下レシピ。

■お酒■
冷で軽く。摘みは、枝豆か焼銀杏のみ。
一握りの塩で枡酒というのもよい。

■茄子の塩揉■
ナスは皮をピーラーで軽く剥いて(残っていても気にしない。)できる限り薄切りにして、塩を振って生姜の千切りと混ぜてひとしきり揉む。食卓に供する直前に、多めの茗荷の千切りと混ぜる。塩は海水産のパウダー状のものをお勧めする。
 ・大葉を入れたくなるが、できれば無しで賞味したい。

■梶木の塩焼■
カジキマグロ切り身の解凍品に酒を塗りつけ、さらに軽く塩を振ってから暫く置いておく。魚焼きの要領で焼く。木の芽[山椒]をつけて供する。塩は粒が大きいものを使うとよい。
 ・木の芽は飾りではない。その味で食べることが狙い。
  (購入した木の芽1ケースすべてを使いきる気分で。)

■里芋の塩煮■
冷凍里芋を解凍したら、軽く茹であげ冷ます。(レトルト茹で加工品を使うなら不要。)これを塩加減した出汁でじっくり煮る。もちろん弱火。削り節をかけて供する。藻塩とか焼塩がよい。芋の甘味を感じるためには、塩味を薄くしておく必要がある。
 ・もちろん、生の芋でもよいが、ハズレ品のリスクあり。
  (芋の質が悪いとすべてが台無し。)

■筍と若布の煮物■
茹で筍(加工品)を薄切りし、若布と出汁で煮て、柚子胡椒を加えて味を調整する。煮物というと、醤油味に慣れすぎていると、この美味しさがわからない可能性もある。
 ・柚子胡椒は市販品をそのまま使う。

■胚芽米の炊き立てご飯■
電気釜で炊き上がったら、杓文字で軽くほぐし、そのまま保温状態にして、30分ほど蒸してから供する。
 ・胚芽米でなくてもよいが、できる限り精米直後のお米を使うこと。

■浅利の澄まし汁■
砂出ししたアサリをカルキ臭がない水に入れて加熱し、沸騰して蓋が開いたら火を止め、塩で味を調整する。お勧めは“にがり”。この場合、量を間違えないように。ただ美味しくても、“にがり”は常用しない方がよい。万能葱の小口切りをざっとのせる。(彩りではない。)
 ・蜆でもかまわないが、砂をよく吐かすこと。そして、葱無し。粉山椒は必須。
 ・もちろん蛤でもよいが、その場合は葱はよそう。
  しかし、それよりは、酒と塩を振って蒸したくなる。絶品間違いなし。

□潮汁□(オプション)
貝が好みでなかったり、蛤の酒蒸の場合の汁としては、鮮魚のアラのお汁にするとよい。アラは、流水でよく流して、血合い等を完全に取り除くこと。出汁昆布の一片を入れるが、沸騰しそうになったら取り去る。あとは、弱火で煮ることと、浮き上がってくる泡を都度こまめに捨てるだけ。好みの塩で味を調整する。木の芽を浮かべよう。入手し易いのは鯛だが、オコゼがあったら、是非にもそちらを。

□鰈の刺身□(オプション)
時期によっては、カレイの刺身が売っていることがある。これを塩と山葵で。鯛はお勧めしない。

 意図がおわかりだろうか。繰り返しておこう。
 和洋中華なんであろうと、料理の基本は、澱粉質の主食と「塩」。ただ塩だけだと余りに“キツイ”い、そこで工夫。ジャポニカ種の米飯をメインにするなら、それに合った調理方法になる。これが“和”の特徴を生み出す大元。
 お数は、食材の食感を保ったままで、淡白な味付けにして、出汁の旨味が効いている程度の方が、ご飯の味をじっくり楽しめるのである。
 お米料理は、西洋だとバターライスやリゾットだし、中華はチャーハンやお粥。塩味を余り感じさせないために乳脂肪やその代替としてのオリーブオイル等の植物油か、肉旨味の湯(鶏スープ)を使うということ。もちろん、白飯にしてもよいが、その場合は、この調理方式がお数に移るだけのこと。尚、米でなく小麦を用いる場合は、パン・麺類となる。こうなると、最初から塩を入れておく方が普通。(パスタだと塩茹)
 日本のご飯と比較すると、その違いに愕然とさせられるのでは。
 上質なお米だと、ご飯に塩昆布の一片を乗せ、白湯をかけるだけで十分美味しく頂けるからだ。海外から見れば、驚異的な食事のスタイルでは。
 もっとも、現代の日本の若者にこの味覚が通用しているとは限らない。と言うか、高年齢層でも、わからない人は少なくない。


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